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無能姫への嫁入り命令1

 この世界の国々は神に守護される。やがて国を治める人間たちに神々は祝福を与えた。


 セルフィア王国の神セレストは才能と血統の正当性をこの国の初代国王に求めた。そして、セレストはその王に膨大な魔力と「浄化の力」を与えた。初代国王はその力をもって国の基盤を作り、初代国王の血筋の子供たちは膨大な魔力を継承することを約束された。その中でも特に優れた子どもにのみ「浄化の力」を継承させた。

 ……はずだった。


「久しぶりだな、セシリア。我が娘」


 久方ぶりに父王に呼び出され、言われるがままに謁見の時を迎えた。表情もわからぬほど離れたところに宰相が立っている。ここでの会話は謁見と言う形でありながらも非公式なものとみていいだろう。

 この城に来た時に侍女たちに着替えさせられた少しも似合っていない、やたら豪華なドレスの重みにうんざりしている。この国の争うように着飾るところが嫌いだった。社交は自身の能力と出自の関係もあり、あまり出席を望まれるような立場ではなかった。招待状が温情で届いたとしても、ありがたく出席を拒み続けた。

 父王とは生まれた時に子爵家へ養子に出されてから十六年もの間、一度も親子として会ったことはない。生まれた時に魔力量が皆無とわかると、直ちに財産のない子爵家に娘を押し付け、見向きもしなかった親なのだ。母親はその際、処罰を受けたそうだ。国内でも群を抜いて魔力量が多く、魔法適正の高い一族の生まれで、膨大な魔力を扱う王族の子どもを産むのに適していると評されたそうだが、この有様だった。この場合、母親の不貞を疑った方が自然なものだが、王族にしか伝わらない瞳の色がかろうじてセシリアの血統を証明した。


 子爵家の方は魔力のない王族を王族として敬うことはできずに邪魔者扱いをしてきたが、それでも王族は王族。セシリアにあまり波風を立てないようにして欲しいと、不遇な生い立ちを教えたのは彼らだった。

「お呼びたていただき、光栄でございます。アルドレオ・セレシオス・フォン・フォルネスタン=セルフィア国王陛下」

 目の前の数段上の高みの玉座から、自分を見下ろす父親に恭しく挨拶をした。セレシオスというのは王族の男性に許されたミドルネームである。これは王族として、この国の神に祝福されているという意味になる。

 久しぶりの父親との再会だと言うのにセシリアには何の感動もなかった。あったほうがよいのかと聞かれれば複雑だった。この父王のおかげでろくな人生ではなかったからだ。この父王は魔力のある者が優位であり、その頂点に立つ王族はそのすべて、支配者であるべきという考えの男だ。

 そんな考えの人間が何故、魔力が皆無の無能な娘を呼び立てたのかと思っていると、父王は猫撫で声でセシリアに甘く囁いた。


「お前は本日より、王族に復帰となる」

「えっ」


 耳を疑った。私を王族から追い出したのはこの父王なのに。セシリアはすぐには受け入れられなかった。するとさらに驚くべきことをこの父王はのたまう。


「帝国より縁談の申し入れがあった。帝国は長年に渡り我が国の敵国であった。しかし近年、我が国の王族と血縁を結びたいとの申し入れがあった。我が国はその意を汲み、皇子へ王女を嫁がせることとなった」

 暗い瞳に、濁った欲望が見える。どうせこの父王は和平のために結婚を決めたのではないとわかる。

「行ってくれるな、セシリア。我が娘」


 その場で宰相がセシリアに書簡を渡し、正式に王族として復帰したことを伝えた。生まれた時にすら与えられなかった女性王族用の祝福の名、【セレスティナ】が入っている。

 この瞬間、【セシリア・セレスティナ・ディ・フレンゴース=セルフィア】王女が王宮に迎えられた。


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