第2話 後継
リアルが忙しくてだいぶ遅れました。ほんとすみません。頑張って頻度上げるので許してください。それと昨日20歳になりましたことを報告させていただきます。お酒が飲めるやったぜ!
それはあまりにも突飛な発言だった。九神。魔王と対抗できうる人類の最高戦力。人類の要であり、最強の象徴。その後継者になるということはつまり、それだけの才覚があるということ。
「私が、神に?」
だがにわかには信じられない。ついさっきだって魔力を暴発させる直前まで行ったのだ。加えて10年もコントロールをまともに安定させることができていないのである。そんな自分が神の後継者として勧誘?今のを見てれば誰だってそんなことはしないだろう。全くもって不可解がすぎる。
「そうだ、同僚の天命神が後継を探していてな。君の術式と天命神の術式は相性もいい。加えて君のその器だ。素で俺や総議長殿……現全能神と同じだけの容量があるとみた。君以上に天命神を継ぐべき者はいないんだよ」
そうは言われても納得ができようはずもない。自分のことは自分がよく知っている。夢を諦めるつもりは毛頭ないが、才覚の無さぐらいは自覚している。
「その、私、全然魔力のコントロールできないんですよ?そんな私が神様になるなんて……!」
「方法がないわけではない。その程度なら俺が指導すれば何とかなるだろう」
「!?チェイン様が!?」
「あぁ、いつも見てられるわけではないがね。しかし天命神は俺よりも多忙の身だ。ならば君を天命神の後継者候補に推す以上、推した立場の俺が指導するのは当然のことだろう」
「で、でも……!」
天命神に限らず、九神は多忙の身である。ISUの長たる彼らはISUの全権を握っている。神秘の管理、それぞれが独自に指揮する部隊、もしくは組織の指揮。そして月毎にISUの上げた成果の確認と活動方針の最終決定などなどその業務は多岐に渡る。加えて日本にある本部、そして世界の要所に点在する支部に身を構え、世界中で魔王に対する危機に備えているのだ。死神であるチェインも例外なく、その業務は数えきれないほどであり、加えて彼はヨーロッパ支部を預かる身である。多忙の上に支部のあるイギリスがロンドンから頻繁に日本に訪問するなど流石に無理がある。
「きゅ、九神の方々は忙しいんじゃないですか!?私なんかに貴重な時間を割くのは……!」
その言葉に目を細めるチェイン。ただ目を細めただけであるが、それだけで漏れ出る威圧感に気圧され、弥果はビクッと身をすくめる。一挙手一投足が普通の生物ではないと嫌でも理解させられる強者の佇まい。
「君を指導する時間くらいは都合をつけられる。それに俺はこう見えても教え子が複数いてね。指導者としては申し分なかろう。俺なら君を適切に指導してやれる。悪くない話だとは思うが」
現死神からの熱烈な勧誘。世界最高戦力たる九神に憧れるものは多いが、その九神本人からのスカウトなど滅多にない。普通であればこれほどの名誉を素直に受け取らない者はまずいないだろう。だが逆にチェインの言葉に弥果は不信感を募らせる。10年だ。独学ではあるが10年も魔力操作の訓練を欠かしたことはなかった。進歩がなかったかと言われると少しぐらいはあるが、全体的に見れば一向に上達しない。絶望的な才覚の無い、そんな自分が死神様に教えを乞うだけで高みにたどり着けるのか。全くもって不可解がすぎる。
「……チェイン様の指導を受ければ、本当に私の操作能力も治るんですか?私も本当に、術師になれるんですか?」
純粋な疑問と納得ができない不可解から出た言葉だった。本当に現九神の指導を受ければ、これまでの自らの努力が報われることになるのだろうかと。それだけでなく術師の中でも最強と謳われるほどになれるのだろうかと。しかしその言葉を聞いた途端、呆れ返った顔でチェインはぁとため息をつく。
「……俺に教わっただけで向上するかだと?馬鹿を言うな。そんなこと、あるわけなかろう。前提となるのは君の努力だ。俺の指導についてこれるだけの精神性、そして俺が時間をかけるに値する能力が君にあると信じたからこそこうして勧誘している。努力もなしにただ言葉を伝えただけで上達できるような人間は、ほんの一握りの砂からふるいにかけて残った一部しかいない。それとも君は、俺が勧誘したならばそれだけの才を持っているなどとお門違いなことを思い至るほどおめでたい頭なのか?」
「そ、そうは言ってないじゃないですか!」
「では何が不満だ。言ってみろ」
チェインの目の奥に弥果の姿が収まっている。その目線は肌をピリピリと突き刺すような圧力を感じさせている。世界一の最高戦力の1人という肩書きは伊達ではない。今目の前にいる男は自分というスッポンに比べれば月、いや太陽ほどにかけ離れてる存在。そんな人物の突き刺すような圧力に弥果は言葉が出なくなりそうになる。思わず俯き、目線から逃れようとする。だがそれでも、少女は意見せずにはいられない。
「……10年です、10年ですよ?その間欠かさずに訓練してきたんですよ?でも、全然上手くいかなくて。進歩がなかったわけではないけど、友達はもう何歩も前に行ってて。そんな自分に才能がないのは、とっくに自覚してますよ」
認められない、認めたくない。心の奥底の意地が、パチパチと火花を散らして抵抗している。
「ほう。才能がない、か。それにしては君のその目はまだ諦めていないように見えるが」
「……簡単に諦められるなら、とっくに辞めてますよ。ちょっとずつでも進歩はしてるんです。努力すれば、きっと」
「なら何故拒む。俺が指導すれば君の潜在能力は必ず花開く。君にとっても悪い話ではなかろう」
言葉を重ねるうちにパチパチと弾けていた火花はボッと音を立てて燃え始めた。嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。それを認めてしまったら、私は。私の今までしてきたことって。
「…………いですか」
「なに?」
「だから!決まってるじゃないですかっ!」
目線の圧力を振り切り、声を張り上げる少女。意地は今や火炎となって、轟々と燃えている。
「私に才能があるなら!私が10年頑張り続けても報われないのはなんでですか!?」
弥果は顔を上げ、チェインに真っ直ぐ向き直る。その表情は目に涙を浮かべ、今にも泣き出しそうなほど脆く歪んでいた。
「私の今までの時間はなんだったんですか!?無駄だったってことですか!?間違ってたってことですか!!?才能がないなりにここまで頑張ってやってきたのに!!教材も買ってまで実践してきて!!何年もやってきて!なんならここから何年でもやって!!いつか絶対にあの人みたいな術師になるんだって夢見て!頑張り続ければいつか術師として人を救えられるんだって信じて!!……そんな私が、才能がある?ふざけないでくださいよ……。私に才能があるなら、こんなに諦め悪くがむしゃらになんてやってませんよ。私が10年やってきたことが間違ってるなら、私が今までやってきたことって……」
なんにも、役に立っていない……。
今までなりふり構わずがむしゃらにやってきたことだけが唯一、彼女の心の支えだった。これまでの10年は彼女にとって実に綱渡のようなものだった。か細い道でも憧れに辿り着けるなら、醜く縄に捕まってでも進もうと。しかしその綱渡は遠回りが過ぎて、ちゃんとした道に気づけなかった。その事実にただただ耐えられない。もし。もし本当に自分に才能があって、尚且つ正しい道を歩めたのならば、自分は今頃こうなってはいない。
「弥果……」
宇宙の胸は今、心配と驚きの色が渦巻いていた。親友の今まで見たことがないほど必死な顔をしている。弥果がここまで感情をむき出しにしたのを、今まで見たことがなかった。弥果の胸にある炎は、感情を全て吐き出したと言わんばかりに急速に鎮火していった。
「……君、手を」
「え……?」
それまで弥果が激しい感情を吐露しているのを静かに見ていたチェインが突然、弥果に手を出すように言う。あまりにも予想外の発言に弥果は困惑してしまう。
「両手を俺の前に出しなさい。すぐに」
尚も手を出すように求めるチェインの前に言われるがままに両手を差し出す。差し出された掌にチェインもしゃがんで片膝を立て、自らの掌を重ねる。
「えっと……?」
「じっとしてなさい、計測する」
そう言うとチェインの手から独特な感覚が弥果の手へ、そして腕を伝い、胸と頭に広がり、足先にまで広がっていく。熱いような、ドクドクと脈打ってるような、なんとも言えない感覚。しかし決して嫌にはならない力の流れ。チェインが操作する呪力がお互いの掌を介して弥果の回路の中へと浸透しているのだ。
「これ、は?」
「……やはりな」
何か納得したのかチェインは呪力の操作を止め、手を引っ込めた。
「先ほどの治療の際も感じ取ったが、君の回路はかなり特異だ。まるでなんらかの要因で後天的に変質したかのような……。恐らく、生来正常だった時の魔力の運用をしていたからこそ、変異した後の回路では不具合を起こしていたんだろう」
「変異……?わ、私の体ってつまり、知らない間に改造か何かされてたってことですか……!?」
「そこまでは分からん。だが君のそれは改善できる範囲であることは確かだ。それは保証する」
凄い、と弥果と宇宙は素直にそう思った。たった少しの調査でそこまで分かるのかと驚きを隠せない。しかし……。
「でも、それならやっぱり私のやってきたことって結局無駄でしかなくて……」
「いや、さっきも言ったが君の回路は変質している。にも関わらずあんな無茶な魔力の回し方でも君の回路そのものがショートすることはなかった。君の特訓の成果だろうな、同年代に比べれば君の回路は遥かに頑強になっている。これは確かな成果といえるだろう?決して無駄なことではない」
「そ、そうは言っても結局術式は暴発しますし……」
「当たり前だ。今までとは回路の仕組みそのものが変わっているんだ。暴発どころか神経系がイカれてもおかしくなかったんだぞ。むしろその状態にも関わらず、無理矢理にでも術式を成立させていたことを誇れ。君の魔力操作は天性のものがある。あとは感覚的にしていたのをしっかり意識して正しい回路の回し方を身につければすぐに上達するさ」
驚愕の事実を知らされ自分の背筋が一気に凍りつくのを感じ取った。つまり、自分は今までの10年、命の綱渡もしてきたということか。我ながら今日までよく生きていたなと感心すら覚えてしまう。
「弥果」
チェインが立ち上がり、弥果に手を差し出す。その目にはやはり威圧感を携えている。しかし、それでも何故か後に着いて行きたくなら何かがある。この手を取れば、どこまで行けるのだろう。彼に着いていけば、どんな景色を見れるのだろうか。
「俺は君の未来が見たい、見たくなった。類を見ない特異な才、そして君が背負うその理想。君が求める先にどんな景色があるのか。俺は、君という器を育てたい。俺の手を取れ。俺が君を導く」
不意に、涙が出そうになった。思わず手が伸びる。しかしその脳裏に過ぎるのは10年の日々。中途半端に伸びた手が引っ込む。わかっている。この人は自分を導く道標になってくれるだろうことは分かっている。しかし、また自分は間違った道を行くのではないか。そう考えると不意に手が動かなくなる。
「わ、たしは」
怖い。また、綱渡をするかもしれない。もしまたそうなったらきっと自分は立ち直れない。
「弥果!」
急に顔を両手に挟まれ、無理矢理宇宙の方へ顔を向けさせられる。宇宙の目には、涙が溜まって今にも中出しそうになっていた。
「宇宙……?」
「何ウジウジしてんの!弥果らしくない!」
声を張り上げ、弥果に喝を入れる。弥果は初めてのことに少し驚いている。宇宙は割と物申す人柄なので度々声を張り上げることを目にしたことはある。ただ、それが弥果に対して向けられたことは今まで一度だってなかった。
「いつも人助けをしようとすると何も考えずに飛び出す癖して今更何を悩んでるの!?わたしの知ってる弥果はそんな奴じゃない!」
「……私だって、出来るならチェイン様の教えを受けたいよ。でも、また間違った道を行くことになるんじゃないかって。不安になっちゃって……」
顔を包む宇宙の両手にそっと弥果は自分の手を重ねる。俯いた顔は暗くなり、その手は震えている。憧れのあの人から遠ざかってしまうかもしれない、自分に怯えている。
「今まで頑張ってきたことがいずれ、あの人に繋がると思ってた。少しずつでも近づけるって。でも実際は遠ざかってた。またあの人から、遠ざかるかもしれない。そう、考えると……」
「何言ってるの!遠ざかったなら!またスタート地点に戻ればいい!」
そう言ってパシン!と弥果の顔を音を立てて挟む。その衝撃で上げたその顔はぱっちりと目が開かれている。
「何度もやり直せばいい!たとえ間違ってても来た道を戻ればいいんだよ!そしてまた目指せばいい!これまで10年間そうしてきたじゃん!!色々試してちょっとずつでも進歩させてきた、弥果のやり方を貫き通せばいい!」
「でも、それじゃあ結局……」
「だからこそチェイン様が道標になるって言ってくれてるんじゃない!!弥果は1人で背負いすぎなんだよ!いい加減周りの人に頼ることを覚えろバカ!」
宇宙が胸の内にある熱い想いを弥果にぶつけていく。それを黙ってチェインは見ていた。子供、特に親友のぶつかり合いはお互いにとって成長の機会となる。それを大人が邪魔することはできない。遂に宇宙が涙がボロボロと溢れ始めた。
「それに私は弥果があの人から遠ざかったなんて思ってない!私たちが初めて出会ったあの日、弥果に助けてもらった時から、弥果はずっと私にとってのヒーローなんだよ!!私が保証する!!弥果は凡人なんかじゃない!今も!これからも!弥果は誰かにとってのヒーローなんだよ!」
親友の思いの丈をぶつけられ、弥果もまたボロボロと泣き出し始めた。こんなに友に想われてたのかと。こんなに友は信頼してたのだと。なのに自分はウジウジして足止めして、何をやっていたのだろうか。鎮火していたはずの心の炎が燃え上がる。赤い炎ではなく、あの日見た彼女のヒーローが纏っていた白い炎が。
「……私、誰かを救えるヒーローになれますか?誰をも救える、そんな人になれますか?」
涙を流しながら、チェインに問いかける。心の炎はこれまで感じたことのないほどの業火を上げて燃えている。
「あぁ、俺も保証する。君がそんな人になれると」
涙を拭い、差し出された手を少女は握る。今ここに、少女の運命は決定され……。
1人の、新たな神の後継者が誕生した瞬間だった。
◆◇◆◇◆
【弥果達が魔物に襲われる5分前。東京都、大田区】
『緊急"門"警報!緊急"門"警報!"門"発生!"門"発生!!警戒レベル!4!!大田区!品川区!港区において48の"門"が発生!!付近の住民は直ちにISUの職員、並びに消防隊、警察隊、自衛隊の誘導に従い避難してください!!尚、現在九神国際条例第二条による、死神の出動が認可されたとのことです!!』
大田区。"門"発生数、21。弥果達を襲った魔物とは違い、その"門"からは一体だけではなく数十体もの魔物が次々と飛び出している。特に蒲田の街は術師と魔物の衝突により生じた火の海に包まれていた。建物は次々と倒壊し瓦礫と化している建材の山が積み上がっている。火炎が燃え盛る音。建物が倒壊、瓦礫が粉砕、鉄骨や鉄板の破壊音。子供の泣き声。助けを求める声。民間人、術師の死体がまばらにポツン、ポツンと転がっている。"門"から飛び出した魔物に戦闘に秀でた術師が飛びかかる。その隙間を縫う形で逃げ遅れた民間人を後援部隊の術師、術式持ち、または簡易術式を習得している自衛隊が救助していく。……それでも極一部の民間人は救助しきれず、術師も極一部が突破され、骸と化す。大田区でのこれまでの死者は民間人含め122人。行方不明者は約150人。
「うぉおぉおおおおぉぉぉおぉおおぉ!!!!!」
最早地獄絵図となりつつある蒲田を1人の少年が爆走していた。その目には決意に満ちた熱い感情に満ちている。彼が身につけているISUのローブの胸元には、二級術師であることを照明する階級章。そして七葉魔導高等専門学校の校章がキラリと光っている。彼の傍を見ると、何やら子供が宙に浮く赤い花びらに包まれていた。どうやら魔物と交戦後、次の現場に向かう道中で子供を保護し、一旦後方に戻る最中らしい。
(おっす!俺の名前は井浦 徹平!七葉魔導高等専門学校の一年生だ!一年生にして入学時に四級から二級に繰り上げになった新星!一年の期待のホープの1人!!さっきまで魔物と戦ってたんだが、その途中で民間人のお嬢ちゃんを見つけちまってな。仲間に前線を任せて俺は保護のため、作戦本部までひた走っているという訳さ!!)
誰も頼んでないのに勝手に1人で脳内モノローグを入れる変人。変人ではあるものの、しかしその才能は本物であることは間違いない。どう見ても変人ではあるが。
「お、お兄ちゃんありがとう……」
「気にすんな!民間人の保護も立派な術師の仕事だよ!それより怪我はないか!!俺"治癒術"は使えないから、頼りになるお兄さんお姉さんのところに行くまで我慢しないといけないんだが!」
「怪我はないよ!どこも怪我してないよ」
「ならよかった!もうすぐ着く。少し走るスピード上げるからな!」
「う、うん!」
回路と炉心を全力で稼働させ、"強化術"による脚力の向上。臨時の作戦本部までグングンと距離を近づけていく。だが決して、何もなく順調に辿り着けるわけではない。
「ぎしゃぁああ!!!」
瓦礫の山に身を潜めた魔物が襲いかかる。鳥のようなフォルムではあるが、その体構造は結晶体で構成されている。大きく口を開け、2人を食らおうとしているらしい。
「きゃっ……!」
何本もの細長い赤の花弁に身を包まれている少女は思わず目を瞑り、腕で隠す。だが、少女を守護するその少年は違っていた。ギラついた目が魔物に向けられる。
「『華刃万岸』!」
立ち止まり、横向きにした両手をお互いの付け根に合わせ、腕を突き出し照準を構える。腕に呪力が集まっていき、赤い花びらがふわりふわりと腕から発生している。
「切り刻め!十花彼岸!!」
唱えるやいなや、魔物の大きく口を開けた顔に彼岸花の花びらが10枚咲き誇る。その花びらは内部から魔物をズタズタに切り刻み、その体をバラバラに解体して魔物を絶命させる。
「うーし!上々!」
華刃万岸。井浦 徹平の術式。呪術の術式であり、呪力で模った彼岸や冥府に関係する花を武器として扱える。無数の綺麗な花びらを巧みに操る徹平に少女はキラキラした目を向けている。
「凄い……お兄さんって、強いね!」
「いやー、まだまださ。俺は二級って階級なんだけど、その上には一級、特一級、上級、准特級、そして准特級に並ぶ特級があるんだ。つまり准特級の人達が神様以外だと一番強いんだ!」
その答えに更に目を輝かせる少女。指を使って階級の数の多さに驚きつつ頑張って覚えようとしている。一方徹平は目の奥の闘志を燃やしながらその先を夢見ていた。
(これから沢山の勲功を手にとって、人を助け続けて。いつか俺も准特級になるんだ!)
そんなことを考えていると不意に少女が口を開く。
「准特級?が一番偉いの?」
「えっとな?准特級と、権限、あーとつまりぃ……やれることは同じだけどそれに並ぶ特級の人達が一番偉いな。特級は昇格条件がちょっと特殊なだけだし」
「?特殊?」
「試験とかじゃ特級にはなれないってことさ。実質、神様を入れなければ准特級が一番強いって感じだな」
「なら、お兄さんも准特級になれるね!だって凄く強いんだもん!」
「……ははっ、ありがとな!絶対なるからよ、応援してくれよな!」
少女の頭を撫でる徹平。その直後、小さな丘のような巨体を持つ岩でできた巨人のような魔物が瓦礫の山を壊しながら飛び出した。
「お、お兄さん!」
「うっげ!ちょっとやばーみ!!」
その巨体に合わせ、凄まじい魔力量を感じて自分では敵わないと判断、逃亡を選択。しかし獲物を見つけた魔物が逃すはずもなく、顔であろう部位から光線を放つ。
「待て待て待て!くっそ、百花不凋!」
白い花、アスフォデルの100枚の花弁が宙に展開され、光線を受け止める。しかし敢えなく突破され、2人は吹っ飛ばされてしまう。
「きゃあぁぁぁぁ!」
少女を守っていた花びらが消失し、少女の体は生身で宙に放り出されてしまう。
「危ねぇ!百花彼岸!」
赤い花びらが少女を優しく受け止め、地面に衝突する事態は避けられた。だが危機はまだ去っていない。
(マジかよ、こいつどう見てもSレート以上、下手したらSSだろ!?なんでこんなとこに出てくんだよ馬鹿野郎が!最悪、お嬢ちゃんだけでも逃がさねえと……!)
再度逃亡するが巨人の腕はすぐそこまで迫っていた。すぐに回避するのは難しい。
(ここまでかぁ……!さらば!お嬢ちゃん!!元気に生きろ!)
覚悟して少女を瓦礫の影に隠そうとしたその時だった。少年と少女は見た。地面に映る一つの影が急速に巨人に迫っているのを。
「穿て、アルゴーン」
炎が風に巻き取られ刃となり、白い炎を纏った槍が巨人の胸を貫いた。高出力の白い炎は巨人を瞬時に炭化させ、悲鳴すら上げずに倒す。
「ふぅ。無事かな、そこのお二人」
ストン、と綺麗に着地する槍使いの女。ボブカットに切り揃えられた銀髪が碧眼と良く似合っている美女。彼女の背にあるISUのアルファベットが風に揺れ、はためいている。
「え、えぇ……。って『銀翼』様!?」
「うん、そうだよ」
「や、やっぱり!なら、それが噂に聞く魔王武具……魔具の頂点……すっげぇ……!かっけぇ……!」
感動に浸っている徹平の隣では少女は目をひたすら白黒していた。徹平よりも強い巨人を瞬殺した、巨人より遥かに強い目の前の女。凄い、凄いなと繰り返し心の中で反芻している。
「……お兄さん、『銀翼』?って何?」
「あ。えっと、な?さっき言っただろ?准特級とそれに並ぶ特級の人達が一番強いって。この人はその1人。『銀翼』の二つ名を与えられた凄い人なんだ」
少女にも出来るだけ分かりやすいように説明を頑張っている少年を見て思わず微笑む『銀翼』。ふふっと声を漏らしてしまったのを見て、何かそんなにおかしいことでもしたかなと気になってしまう徹平。
「あ、ごめんね。君たちを見てると10年前。学生だった時のことを思い出してね」
彼女の脳裏にあの日の光景が蘇る。10年前のナルカミ災害の時に、自分が助けた1人の少女の姿が。
「元気にしてるかなぁ、弥果ちゃん」
【ISU本部所属 アイラ班副班長 准特級術師『銀翼』 ミシェラ・ホーミー】
○次回、「金と銀」に続く
チェインの目に威圧感を感じるのは虹彩を呪力で黒に偽装しているからです。呪力は魔力よりも遥かに操作難易度が高いのですが、他人の回路に呪力を浸透させる技術からも分かる通り、彼ほど呪力を精密操作できる人物はほぼいません。下手に他人の回路に干渉しようもんならお互いの神経がボンッ!!となること間違いなしです。呪力操作がピカイチのチェインだからこそ出来る芸当と言えるでしょう(因みに魔力と呪力は完全に別物のエネルギーです)。
それと当作品は主人公が神の後継者になるからといって最初から俺TUEEEならぬ私TUEEEみたいな展開にはしません。コツコツと実力を伸ばしていきます。そこはご了承下さい。