王と女王の散歩
この物語は本編の後日談でございます。
少し成長した彼らをご覧ください。
「よう、最近アイツらはどんな感じなんだ?」
ヴォルフは背伸びしながらふくの側へ寄る。土間部分では靴を履いていれば足音が鳴りやすくカチャカチャと足音が執務室を響かせる。
「アイツらとは誰のことじゃ?」
ふくの指摘は尤もである。ヴォルフは首を傾げて考えるが、次第に難しい顔になっていく。そして、頭を抱えて考えるが、結局答えが出なかった。
「アイツらだよ、えー……犬と狐と狸!」
「レンとリコとサクラじゃ。名前くらい覚えるのじゃ。」
「しょうがねぇだろ?俺にはふく以外はみんな一緒に見えるんだし……。」
「レンとサクラはともかく、リコは王族じゃ。もしや他の王族の名前も覚えておらんのか?!」
ふくの顔が一気に険しくなる。ヴォルフは慌てて弁解するように名前を言おうとするが、誰一人出てこず捻った結果一人の名前をだす。
「めえ……さんだっけ?」
「……それは王族ではない。わしらの付き人じゃ。本当にお前はヒトの名前くらい覚えられんのか?」
「しらねー。俺、ふく以外キョーミないもん。」
ふくに叱られヴォルフは拗ねていた。
そんな姿を見てふくは腰に手を当ててフンっと鼻で息を吐く。すっかり拗ねたおしているヴォルフの頭を撫でて言葉をかける。
「まあ、お前は神じゃからそんな事一々気にしてはおれんよの。ほれ、たまにはお前のところの軍にでも顔を出してみようかの。」
そう言うと、ヴォルフの目がキラキラと輝く。とても嬉しそうな表情をしており、離れたところで二人を見ると飼い主と飼い犬のような関係に見える。
ヴォルフは立ち上がりふくの方を見る。
「じゃあ、辺境の魔剣士のところに行くか!アイツらもお世話になったんだろうし。」
ヴォルフはそう言いい、執務室を出ようとするとふくが付いてこない事に気がつく。
振り返ると両手を広げてふくは待っていた。
「今日は魔法で移動はせん。おんぶじゃ。わしはおんぶして欲しいのじゃ。」
ヴォルフは直ぐにふくの元へ行き、おぶさって執務室を出た。
すると二人の前に一人の付き人が立ち塞がる。
「出たな、ラスボス……!」
「誰がラスボスですか?ヴォルフ様、ふく様、どちらへ行かれるのですか?」
ラスボスと言われためえは腕を組んで質問をした。
ふくは背負われた状態でジト目になり答える。
「今からあすらんの関所まで行くのじゃ。あそこはぼるふの管轄じゃからの。」
「執務の方は終わったのですか?」
「ちょっとピューっと行ってバッて帰るからさ、な?良いだろ?猫と狐と狸がお世話になったって話だしよ?」
そう答えるとめえは、「確かに……。」と呟いて考え始めた。めえは二人の付き人なので今後の予定についても把握しており、それを考えて首を横に振る。
「やはり、ダメです。書類が――やられた。」
めえが視線を戻した頃にはすでに二人の姿はなく、執務室にもいなかった。窓の方へ向かって歩き、外を見ると走っている姿が見えた。
「やれやれ、あとで忙しくなるのはあなた達であるのに……。」
そう言って、しょうがないと諦めた顔をして二人を見送った。
「ぼ、ぼるふ!速すぎるのじゃ!もう少しゆっくり行くのじゃ!」
「あ、すまねぇ。ラスボスから逃げるのに必死だったわ。」
走る速度をさげて小走りの状態で平原を駆けていく。
豊穣の儀を行った後の国内は緑で溢れ、岩場には植物が芽吹き、草原となっている。
草の匂いを嗅ぎ、風を感じながらふくは国内を見渡す。
「長閑でええのぅ。ぼるふよ、少し休んでいかぬか?」
「ん?俺は休まなくてもいいけど、休憩するのか?」
ヴォルフはふくの答えを待たず小高い丘に到着すると、ふくをゆっくりと降ろす。
ふくは草を触り、地面の感触を感じながら大きく深呼吸する。
「空気が美味いのぅ。城におってばかりじゃ、息も詰まるわ。」
「そうだな。その辺座るか?」
ヴォルフが指を刺した先には腰をかけるにちょうど良い高さの岩があった。
ふくは頷いて、そこに座るとヴォルフは隣で地べたに座った。
「こうしてお前と二人で外におると出会った時のこと思い出すの……。」
「んー?あぁ、ニンゲンだった頃のふくか。あれから千年、ふくは何一つ変わらない美人だよな。」
そう言われてふくは少しそっぽを向いた。
しかし、尻尾が横にフリフリと触れているので嬉しく感じているのがわかる。
「なぜお前はわしに神の力を与えたのじゃ?この力を使われたらお前だってひとたまりもないじゃろうて。」
「それはふくになら殺されてもいいかな?って思ったし、ふくなら生涯の伴侶として相応しいと思ったからだな!」
「結婚はしておらんがな。」
「でも、俺はふくの事愛しているぞ?」
ふくは再びそっぽ向いてしまった。
ふくは頬を膨らませたまま、ヴォルフに近づき、抱きしめた。
「まあ、お前が居らなかったら、わしはあの時に死んでおったから感謝はしておる。」
「えへへ。」
「なんじゃ、気持ち悪い。」
ヴォルフはガックリと肩を落としていたが、再びふくを背負い、走り始めた。
一刻も経たずに二人は関所に到着する。
何もアポイントも取っていないため、突然の王と女王の訪問に関所の衛兵達は硬直する。
強大な魔力を探知したアスランは何事かと関所から出てくるとヴォルフとふくの姿を見るなり、駆け足で側に来る。そして膝をついて敬意を示す。
「ヴォルフ様、ふく様。本日はこのような辺境に来ていただきありがとうございます!しかし、この様なところに何用で来られたのでしょうか?」
「相変わらず堅苦しいな。今日はふくの学園の生徒がお世話になったから、礼を兼ねてきたんだよ。」
「あすらんよ。わしの生徒が世話になったの。して、お前は魔剣の浄化をして欲しいとリコから訊いたのじゃが、どれじゃ?」
「あ、それなら今腰にかけてあるものです。ご覧ください。」
アスランは魔剣を地面に置き、ふくは魔剣を眺める。
少し考えて、左手の人差し指と親指を伸ばし、魔力を込める。するとふくの身長の二倍ほどの魔力で形どられた弓が出現する。それを掴み右手に矢を形どった魔力を作り出す。
それを使い弓を引く。矢の光がどんどん増していくと、ふくは剣に向かって矢を放った。
矢が剣に当たる瞬間、抵抗するように剣から魔力が溢れるが、何もなかったかのように矢は剣を貫通した。
禍々しい魔力はふくの魔法の矢で浄化され、元の剣に戻った。それをアスランが手に取ると柄を残して粉々に砕け散った。
「……す、すまん。解呪したのじゃが、剣が耐えられんかったようじゃ。」
「い、いえ。元はただの剣でしたので反動で壊れるものです。」
「そうそう、また新しい剣を作ってもらいなよ。そうだ!あの猫に剣の魔道具作って貰えばいいんじゃね?」
猫と聞いてアスランは首を傾げていた。ふくは少し考えて思い当たる人物が出てきた。
「もしや、レンのことを言っておるのか?」
「そう!レン!犬っころに比べてまだまだかもしれないが、アイツはアイツで凄えの作っているから頼ってみようぜ!」
「ほう、あのレンが魔法技術士になったのですか!それでは試しに依頼をしてみましょう!」
「ふむ、レンに作らせてみようかの。」
そういうとふくは右手を高く掲げた。ヴォルフとアスランはふくの肩に手を当て、それを確認したふくは【飛んだ】。
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