石の完成!
レンは目を覚ますと戦いで受けた体の痛みも収まるのを待たず、一度家に帰り身支度をして、部室に行った。相変わらず部室は独占使用できるようだ。
勧誘にいた子たちの話ではほとんどの部員は年度末、つまり卒業間近になってから取り組むようだ。学園祭も工作系や文化系は出店するようだが、この魔法技術部は特に出店していないようだった。
レンは司書から貰った古文書の写しを熟読した。古代の製法はほとんど紋章を利用しての製法であり、魔道具を使用した感じではなかった。
レンが古代の文字を読むことができないのを見破っていたのか、司書は全て現代語訳にしていた。その中で現代の魔道具で再現できそうな手順を試してみることにした。
「よし……とりあえずクリスタルとミスリルとドラゴンスケイルを同じ比率で合成してみるか。」
レンは計量器にそれぞれの素材を計量し、合成用の魔道具に乗せた。
この魔道具には【結合】の魔法が組み込まれており、使用者は魔力を注ぐだけで物質の結合が可能となっている。ただし、素材の性質が違っていたり、複数使っていたり、大型だと魔力をその分吸い上げられるので気を付けなければならない。
レンはカバンから青く光る石を取り出し、魔道具にセットした。この石は魔石と呼ばれるものである。魔石は水晶に魔力を注ぎ込むと魔力を保存する性質がある。そして、保存した魔力は魔道具を使用するときや、魔法を発動するときに使用し、使い手の魔力を使わずに魔法が発動できるようになる。レンは昨日の戦闘訓練での魔力切れを思い出し、家から持ってきたのだ。
準備が完了し、魔道具を起動すると直視できないほどの光が発生し、炸裂音とそのあとに続く空気の抜けた音がして光は収まった。
魔道具の中を見るとちりちりになったミスリル、砕け散ったクリスタル、スライム状になったドラゴンスケイルがあった。
「この反応やゴミの感じだとドラゴンスケイルが多いのかな?クリスタルはもう少し増やして、ミスリルはこのままでやってみるか……。それに、合成の順序と紋章の構成を少し組み替えてみよう。」
合成反応を見ながら分量と製法を決めていくことにした。古文書の製法を自分の感覚で改変し、合成を繰り返していると学園の帰りを伝える鐘の音が鳴った。部室の中から外を見ると少しばかり日が暮れており、生徒たちが課外授業へ向かうものと、帰るもので通路があふれていた。その光景を見てレンは青ざめていた。
「授業さぼってしまった……。いや、もう少しで試作品ができそうだ。やるぞ!」
レンは明日、担任の教師に叱られることを覚悟し、実験の続きに戻り、再び合成を始めた。比率を微調整し、魔石をセットして魔道具を起動した。
まばゆい光が部室を照らした。そして、今までと違い鉱石のような高い音が部室に響き光が収まった。魔道具の中身を見ると暗闇でもまばゆく光る石があった。それを手に取ると光が安定し、鈍く光るようになった。
「で、できた……!」
部室の扉が勢いよく開かれた。レンはびっくりして石を落としそうになったが、何とか落とさずに済み、扉を見るとリコが立っていた。
「今の光は……なん……。レン君っ!そのケガどうしたの!?」
痛々しい状態のレンを見て持っていたカバンをその辺に投げて駆け寄り、ケガの部分や身体を触る。その手が震えていた。それもそのはず、あちこちを包帯でぐるぐる巻きにされているのだから。その見た目は重症、長期療養も仕方ないほどの見た目をしている。治療したのはカレンであり、彼女の治療技術ではこうなってもしょうがないとレンは思った。
突然リコの動きが止まり、体が細かく揺れると嗚咽が聞こえた。大粒の涙を流して、それでも声が漏れないように泣いていた。けがをして涙を流してくれるほど親密になっていないと思っていたレンは、リコが泣いている姿を見て焦りだす。
「リコさん、大丈夫!大丈夫だから!これは戦闘訓練でヘマしただけだし、治療がへたくそなだけで見た目より痛くないから!!」
レンは思わず嘘をつく。あれだけ壁に叩きつけられたのに痛くないわけがない。それでも彼女が泣き止んでもらうように嘘をついたのだ。
「ひっく……本当に……大丈夫……ひっく……なのですか……?」
「うん、心配かけてゴメン。」
リコはレンの手をぎゅっと握りしめていた。彼女になにがあってレンを心配したのかは不明ではあったが、レンは心配してくれるヒトがいるということに少しうれしくなっていた。
「——はわっ……!ご、ごめんなさい!」
リコはレンとの距離が近すぎていたことに気が付いて、慌てて離れていった。涙をぬぐい、再び向かい合った。涙で目は少し赤くなっていたが、いつもの彼女に戻っていた。
「あ、あの……。いったい何を作っていたのですか?」
「あ、ああ。紋章を封印するオーパーツの再現をしていて、そしてこれが試作品だね。」
手に持っていた石を見せると、彼女の目が輝いた。そして興奮し両手を握りながらレンに迫った。普段感情の起伏があまり見られなかった彼女にしては今日は珍しく、鼻息が荒くフンフン言っている。
「レン君!これ、使わせてくれませんか?」
「わ、わかった!わかったから落ち着いて!」
「早速やってみましょう!」
レンとリコは合成するため、魔法具を起動させ、できた石に紋章を組み込んだ。すると白く鈍い光を放っていた石は、淡く碧い輝きに変わった。それをリコが持ち、じぃっと観察していた。
「どうかな……?うまくいった?」
「……。精霊魔法の紋章は崩れていないので、できているかもしれません。」
レンはふと疑問に思い、リコに尋ねる。
「リコさんは精霊魔法を組み込んでどんなものを作ろうとしているの?」
「私が作ろうとしているものは誰でも精霊魔法を使うことができる、簡単に言うとそんな魔道具です。」
「そんなものをつくろうとしていたんだ……!知らなかった。」
「聞かれませんでしたので……。申し訳ございません。」
彼女は紋章が入った石をうっとりとした表情で見ていた。レンはその表情を見て胸がドクンと大きく鳴った。そして、どんどん脈が速くなった。
「レン君、この石に名前は付けたのですか?」
「あ……いやぁ……まだつけてないんだよね。さっきできたばかりだし。」
いくら古文書に載っているものとはいえ、それを見て自分なりに調整して作ったものなので、オリジナルの製法で似ているものを作ったことになる。したがって、命名権はレンにある。しかし彼は作ることに夢中で、名前のことは一切考えていなかった。
「……あの、レン君は地上に行きたいのですよね?」
「うん。そのために魔法技術士を目指しているって話をしたっけ?」
「それでですね、地上にはここでは見られない月というものがあるらしいのです。それはこちらの世界ではルーナというので参考になれば……と思います。」
「ルーナか……。ありがとう、ちょっと考えてみるよ。」
レンはとりあえず今すぐに命名するには早いと思ったのと、今の彼の使い切って疲弊した頭では整理できる状況でなかったのもあり後にした。
いつもありがとうございます!
『良かった!』
『面白かった!』
『続きを見たい!』
と思って貰えましたら、
お話の下にあります
☆☆☆☆☆
から作品への応援をお願いいたします。
面白かったと思ったら☆を5つ
つまらないと思ったら☆を1つ
正直に伝えていただけると今後の作品にしっかりと反映していきたいのでよろしくお願いします。
また、ブックマークも頂けるととても嬉しいです!
ここまでお読みいただき、誠にありがとうございました。
何卒よろしくお願いいたします。