サクラは少し得をした!
夜が明け、野営の片づけをして、再び調査場所へと向かう。道中のペースも早まり、この調子であれば明後日には到着しそうな勢いであった。
レンは地図を広げ、自分たちが通ったところをなぞっていた。すると、突然の寒波がレンたちを襲う。先ほどまで少し湿って暑いくらいの気温だったが、雪雲が発生し、土には霜柱が立ち、一気に乾燥した寒い気温になる。
「なんだか突然季節が変わったね。」
「一体、この気候変動は何なのでしょうか……?」
「へくちっ!……だ、誰か、冬用の道具って準備してる……?」
レンとリコはまだまだ平気そうではあったが、サクラは少し動きが鈍っていた。レンは持ってきている事を思い出す。
「あ、一応寒冷地用のコート持ってきてるよ。サイズ大丈夫かな?」
「ほんとに!?使わせてもらっていいかな?男の子用だからきっと入ると思うかな。」
レンは荷袋からコートを取り出し、サクラに渡した。
このコートは学生服の冬用である。サクラはそれを着ると、少しサイズが小さかったようだが、何とか着ることができた。
「どうして、冬用のコートを持ってきていたの?」
サクラは準備の良いレンに疑問に思う事を聞いた。いくら国内と違って気候や環境が読めない可能性があるにしても、かさばって邪魔になりがちな冬服を持ってくるのはどういうことなのかが気になったのだ。
レンは当たり前というような顔をせずに、冬服の説明をした。
「あぁ、学生服ってミスリルが織り込んであって、それに魔力を込めると防御力が上がるじゃん?」
「え、そうだったの?知らなかった。リコちゃん知ってた?」
リコは頷いて、自分だけ気が付いていなかったことにガックシしていた。サクラは二人の魔法技術士としての力の入れように自分と大きく差があるように感じた。
魔法技術士は魔道具を作るだけではない。日用品の性能を上げることや、今販売しているものの性能はそのままでコストダウンさせたものを作る、そういったことも担うことがある。もちろんその場合は、魔法技術士の監修の元で衣服を制作する職業などと協力して新しく、いいものを作っていくのだ。
サクラは魔道具の精製はできても、衣服などの日用品の製作は得意ではない。特にレンが詳しいこともあり、サクラの中でレンの株価はどんどん上がっていく。
「それで、冬服って素材もあるんだけど、夏服より防御性能が高いから持ってきてたんだ。」
「あくまで鎧のように扱っているのね。この寒波がなくなるまで貸してくれる?」
「うん、オレは平気だから着ていてもいよ。」
サクラはレンの服を着られることで少し……結構嬉しくなっていた。
(レンくんの匂いに包まれてる……。背が近くてちょっと得したかな。)
そんな事を思いつつも一行は、再び歩みを進めた。
☆
町はドラゴンの情報で持ちきりであった。ポチおはその噂を聞いて、レンのことが心配になり、通信用の魔道具を取り出して、通信を始める。
「あ、ガブさん。あの時ぶり。今そっちに竜の情報があるって聞いたけど、見かけた?」
『いいや、見かけてはいないが……。今、学生がそこの近くにいるかもしれないと父上から連絡があって、向かっているんだ。』
「ああ、よかった。オイラが取り逃がした竜だったら赤鱗で片方の角が欠けてるやつだ。気を付けて狩ってくれ。」
『わかった。心配はそれだけか?』
ガブには声だけでレンたちを心配していることがバレていた。観念してポチおは話すことにした。
「オイラの教え子がいるんだ。どうか頼む。」
「ふん、いいだろう。帰ったら、デバイスの調整をタダで頼むのが条件だ。」
「お、オナシャス……。」
「おーいわんこ!げんきー?あ、待って!ガブさん!ちょ——」
レプレの声が響いていたが、ゴソゴソ音がして、プツリと鳴った。通話が切れたようである。相変わらずのガブの調子に苦笑いをする。
「あら?いま、うさ子の声しなかった?」
通信魔道具を眺めていたら、にゃんがうさ子の声を聞きつけて工房に入ってきた。
「さっき、ガブさんと通話してたんだ。それでうさ子の声が聞こえたのかも。」
「ガブさんに何か用事があったの?」
「レンたちが行ってる場所に、竜が来るみたいなんだ。それで近くに旅しているガブさんに頼んだんだ。」
手をポンと打ち、納得したようだった。町では竜の噂が立っているので、いくら路地の中にある工房でもその噂は聞いている。竜という単語を聞いて、にゃんは心配しているポチおの頭をなでる。
「ドラゴンか……。心配ね。」
「ああ、しかも赤い鱗の奴ならヤベー事やってきそうだしな。無事なら良いんだけど……。」
二人は雪雲の発生しているところに目を向けてレンたちの無事を祈った。
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