卒業試験の内容!
卒業まであと二月ほど残したある日、レン、リコ、サクラはめえに呼び出され、学園長の部屋へと案内された。
その部屋は、この地底世界の一般建築のデザインとは異なっており、主に木材を利用した部屋となっており、床には板材ではなく、草の茎を規則正しくかつ強固に巻き付けた板を敷き詰めていた。書棚も学園長の机の両サイドに立てられており、本がびっしりと埋まっていた。
机にあるものは石の器のようなもの、黒い液体、毛の生えた棒があるだけだった。非常に整理されており、レンは自分の体毛が落ちていないか心配になる。
肝心の学園長の姿は見えなかった。めえは通信用魔道具で連絡を取ると、【転移】の魔法で姿を現した。学園長は女王であり、持っていた紙を机の上に広げた。三人の姿を見て、めえと目を合わせ、口を開く。
「さて、卒業生となるお前たち。今回は特別にわしが出てきてやったぞ。それでは本題じゃ。まず成績のことについて話す。めえ、頼むのじゃ。」
めえが前に出て、持っていた硬そうな表紙の本を開く。
「まず、お前たちの現在の成績についてだ。主席、リコ。次席、サクラ。飛んでレン、お前は五位だ。三人ともよく頑張った。特にレン、お前は中等級クラスでありながら、この成績は素晴らしい。もっと胸を張ってもいい。」
レンは上位十位以内の成績が取れたことに驚いて、実感がわかず放心状態であった。そのような状態を見たふくは、レンに近づき、頭を撫でた。その手つきは、飼い猫を愛でるような感じであり、そのような扱いを受けたレンは少し恥ずかしい気持であった。リコはそれを見て少しヤキモチを妬いていた。
「これは頑張ったおぬしへのご褒美じゃ。さて、わしの机に集まるのじゃ。」
レンたちはふくに促され、机に集まった。机には地図が広げられていた。
「お前たちには三人の小隊を組み、調査してもらう。場所は大体この辺じゃ。この地にて調査業務を報告する、これがお前たち三人の卒業試験じゃ。」
「調査業務って、オレたちは外の世界にでてもいいのですか?」
「もちろんじゃ。すでに許可証は発行しておるし、いつでも行くことができる状態じゃ。」
「ま、待ってください!こんな卒業試験聞いたことがないです!」
サクラは焦った表情でふくとめえに疑問をぶつけた。それもそのはず、通常卒業試験は在学中の成果を発表したり、教師の人との模擬戦を行ったりするのが通例で、国外への調査が課題として出されたことはない。
「サクラ、お前が焦るのも無理はない。今回は特例中の特例なのだからな。」
納得のいかないサクラをよそに、ふくは床に座り、肘置きに肘を乗せて答えた。
「お前たちの実力はわしもよく知っておる。実を言うとな、教師の中でお前たちに戦闘演習させるとなると実力が不足しておって、調査隊の者たちを呼ばないと太刀打ちできんのじゃ。そうなると、今度はお前たちじゃ歯が立たん。軍はぼるふのものじゃから呼べんしの。」
両手を上げて首を横に振りながら説明をした。めえは三人に近づき、指輪を取り出した。それぞれ同じ装飾で、装飾をよく見ると指輪自体が紋章の形をとられているのが分かった。シンプルでありながらとても精巧にできており、レンは見入っていた。
「これが魔法技術士の免許だ。ポチおの言っていたように卒業と同時に渡す準備ができている。魔法技術士が素材集めの際は単身で行うことは知っているな?」
三人は同時にうなずいた。それを確認しためえは話を続ける。
「別にドラゴンを狩ることを目的としてはいないので安心してくれ。ただ、私としては実力が伴わないものに免許を交付して、死なれては困るのだ。それで今回の試験を実施することにした。」
「それにの、お前たちの技術者としての実力はこのまま世に放っても恥ずかしくないのじゃ。あとは実戦じゃ。」
ふくはケラケラ笑いながらそう答えた。リコが前に出て質問した。
「報告とありますが、その内容に決まりはありますか?」
「うむ、魔物や魔獣がいればできる限りは討伐し、数を報告してほしい。じゃが無理はするな。あとは、地上の遺物があれば持ち帰ってほしいことと、地図を簡略的で構わぬから完成させてほしいところ、この三つじゃな。」
ふくは指をパチンと鳴らすと、何もない空中から巻物、冊子、紋章の描かれた紙が三枚現れ、それをキャッチしようとするが、すべて床に落ちた。めえは「コホン」と咳を入れ、落ちたものを拾い上げた。
「ふく様、運動が苦手なのに格好はつけてはいけません。リコ、サクラ、レンお前たちはこれを持ちかえり、話し合って、作業を分担するといい。試験の報告期限は今日から卒業日までの二月だ。」
「大丈夫じゃ。ここから一週間ほど歩けば到着できるじゃろう。あと、人型の魔力はないが、普通の魔物は……多分居るじゃろう。この前の襲撃の発生地点じゃから用心するのじゃ。」
そういうとふくは【転移】と思われる魔法で瞬く間に姿をくらました。
「この場所は国から近いが、発生地点の影響で地形が変わっているかもしれないから気を付けていくことだ。また、準備から試験であることを忘れぬように。あと、これを持っていくといい。」
めえは小冊子をレンに手渡した。それには『薬学のまとめ』と書かれており、中を見ると薬の調合書であった。薬学の知識がないレンでもわかるような調合書であり、簡単かつ上位性能の傷薬精製や大けが時の治療方法など医療の知識も載っていた。めえは顔には出さないが、これを読む限りかなり心配しているようだった。
「これって先生手作りの調合書ですよね?」
「そうだ。調査の役に立たない部分は完全にそぎ落としているから、軽いと思うぞ。」
「先生、心配してくれてありがとうございます。頑張っていい報告をするので待っていてください。」
「っ!?……期待している。」
めえの心配しているところを見透かされ、一瞬狼狽えたがすぐにいつもの調子に戻った。何となくではあるが、彼女の顔が少し柔らかい印象になっていた。三人は学園長室を出ると、一斉にため息をこぼす。
女王はやはりほかの人とは違うオーラみたいなものがあり、それは空間が一気に緊張するような感覚であった。また、彼女の魔力は国内全域に広げることもできるほどの量がある。ただ多いだけではあの威圧感は出てこず、妖狐という種族的なものか特異な魔法によるものかはレンたちにはわからない。
「やっぱり、緊張するね。」
「行く前からヘトヘトになってしまいそうだったよ。」
「あのような方が、王として相応しいのでしょうね……。」
「まあ、とりあえず部室に戻ろうか。」
レンがそういうと、三人は部室まで歩くことにした。学園を歩いていると、ちょうど課外活動をしている時間であり、部室まで行くのに競技場を通る道なので競技の練習をしている人々からレンたちが目に入る。すると部活動をしているヒトたちが全員レンたちに走ってくる。
「あ、ヤバッ!みんな逃げるよ!」
「見つかってしまった!リコさん手を!」
「は、はい!」
レンたちは競技部の部員から全力で逃げることにした。
いつもありがとうございます!
『良かった!』
『面白かった!』
『続きを見たい!』
と思って貰えましたら、
お話の下にあります
☆☆☆☆☆
から作品への応援をお願いいたします。
面白かったと思ったら☆を5つ
つまらないと思ったら☆を1つ
正直に伝えていただけると今後の作品にしっかりと反映していきたいのでよろしくお願いします。
また、ブックマークも頂けるととても嬉しいです!
ここまでお読みいただき、誠にありがとうございました。
何卒よろしくお願いいたします。