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二人の想い!

 食事と準備が終わり、学園へと向かうことにした。あれからリコの匂いはいつもの匂いであった。時間的にはもう昼を回った頃である。

 レンとリコ、サクラは卒業までのカリキュラムはすでに終わっているので登校時間はいつでもいい。ただし、欠席する場合は連絡を入れることになっている。

 いつもの通学路はいつの間にか草木が枯れ、岩肌が見えている。毎年必ず、王と女王による『豊穣の儀』が行われる。彼らの魔力でこの町だけではなく、ヴォルファリアのいたるところに春が訪れ、再び作物を育てることができるのだ。穀物や野菜は荒れた大地では不可能なので『豊穣の儀』はとても大事なイベントである。

 

「そろそろ、卒業だね。」


「そうですね。一年はあっという間でしたね。」


「オレさ、リコさんと初めて会った日……入部した日だね。リコさんに魔法があるって言ってもらえてとても救われたんだ。それからずっと好きになっていったんだ。」


 リコが少し照れたようなしぐさを見せ、手を繋いできた。


「オレ、入学式で調査隊に入りたくて先生にアピールしたら同期生から敬遠されてね。その中でリコさんだけ、オレと話してくれたり、一緒に帰ってくれたりしてくれたのもあるけど……。とにかく一緒にいて全然苦にならなかったんだ。」

 

「そう思っていただけて何よりです。私は、最初の頃はとても自分勝手ではありませんでしたか?レン君のことを勝手に助手にしたり、研究に手伝わせたりいろいろ勝手なことをしていたと思いました。」

 

「そんなことは思わなかったよ?実際、オレにはない技術や魔法もあって、とても勉強になったし。」


 リコはレンにそう言われると少し照れた表情をしたが、繋いでいない手をネックレスの前に持ってきて、少しうつむく。


「そんな時にレン君が、戦闘訓練して大けがをしているのに部活に出てきた時、両親が死んでしまった時のことを思い出して、レン君が私の前からいなくなってしまうことを想像して泣いていましたね……。それで私にはレン君がいないとダメなのだと気づいて、それから意識するようになりました。」

 

「それで、力仕事が少なくなった感じ?」


 リコは頷き、握っていた手を少し強めた。レンがけがをしたのは決してリコのせいではなく、間違いなくカレンのせいである。レンは少し苦笑いを浮かべていたところ、リコは強く握ったことでレンが痛がっているのだと勘違いし、手を離しかけた。レンは離れようとする手を引き留めるように少し引っ張ると、リコはそのままレンに抱きつく形になった。そして立ち止まり、レンはリコの肩を持ち、見つめた。

 

「リコさんのそういう優しいところとても好きだよ?」


 リコは両耳を垂らし「えへへ……」と照れくさそうに笑った。そんなリコの頭をゆっくりと撫で、ぎゅっと抱きしめた。

 しばらく抱き合っていると、学園に行く途中であることを思い出し、再び通学路を歩く。学園の門には通用口が併設されており、そちらから入った。

 リコとレンは学園の敷地に入った瞬間、盛大な拍手を受けた。思わずレンはリコの前に出てかばう形になった。すると、人込みからサクラが出てきて花束を渡してきた。担任のサム、めえ、リコとサクラの担任の教師がサクラの横に立つ。

 

「えぇっと、レン君、リコちゃん、ちょっと早いけどご結婚おめでとうございます!」


「ちょ、ちょっと待って!?まだ結婚してないんだけど!?」


「だから、ちょっと早いけどって言ったでしょ?」


 めえが前に出て説明する。


「レン、お前はパートナーの繁殖期に立ち会った立派なオスだ。それは並大抵なものとはいかんだろう。そうだろ?サム。」


「教師としては複雑な気分だが、立派であることは間違いない。同じオスとして誇りに思うぞ。」


「それにね、これはリコちゃんがお願いしてきたことなの。」


 レンはリコを見ると少し心配そうな顔をして口を開く。


「私が以前、保健室の先生に番を申し入れるときはどのようにすればよいのか聞いて、繁殖期に迎えに来てくれる方が番になれるものだと教わりました。それが、レン君をひっかけるようなことになってしまい申し訳ございません。」


 リコはレンに対して頭を下げてる。レンもそれに対して怒ることはないが、番という言葉を聞いて理解が追いついていなかった。そんなレンに対してサクラはリコに気を使う。

 

「レン君、少し後ろを向いててあげてくれる?」


 レンは理解が追い付かず、戸惑いながらリコに背を向けた。周囲の人から「おぉ!」と声が上がりとても気になり、そわそわし始めた。

 レンは猫族の為、感情が尻尾に表れやすい。本人は隠せているつもりだが、ちっとも隠せていないのである。目の前にいるサクラにクスクスと笑われながら我慢していた。


「レン君、こちらへ向いてください。」


 レンは緊張しながらリコの方へ振り向くと、革でできた帯状のものを両手で持っていた。いつの間に着けたのか、リコの左手首に同じものが着いていた。


「えっと、レン君。私はあなたと番になることをここに誓います。昨日……いえ、今までに私はあなたからたくさんの愛情をもらいました。不束者ですが、私のことをよろしくお願いします。」


 リコは深々とお辞儀した。硬直しているレンにめえが耳元で囁く。


「……リコの前に跪いて左手を差し出す。そういう順序だ。」


 レンはその言葉を聞いて理解した。オスが繁殖期にメスの元に行くことはプロポーズであり、今行われているのはその答えだったということ。レンはリコの前に膝をつき、肉球の見えるように左手を差し出す。それを見たリコはニコッと笑い左手に腕輪を付けた。


「休んでいる間に作っていたのです。レン君が私にネックレスをプレゼントしてくれたことを思い出して、その……不格好かもですが、つけさせてもらえてうれしいです。」


「どうかな?似合ってる?」


「はい。見立てのとおりです。」


 二人は見つめあってにこにこしていると、サクラが二人の耳元で囁く。


「ちゅーでも見せつけてあげてやったら?みんな待ってると思うよ……。にしし。」


 サクラは口に手を当て、小悪魔のような笑顔を浮かべながら教師の隣へと立った。レンとリコは沸騰しそうなくらい熱くなり、二人とも耳を垂れさせ、尻尾が膨らんでいた。レンは心臓がうるさいのか、ギャラリーがうるさいのかわからなくなっていたが、リコの顔に近づき口づけを交わした。最初は緊張していたリコであったが、次第に緊張がほぐれたのか、レンの背中に手をまわし、抱きしめる形になった。

 するとギャラリーの女の子たちからは黄色い声交じりのため息のような何とも言えない声を上げて、うっとりしていた。男の子たちは恥ずかしがるもの、凝視するもの、唇をかみしめて悔しがる人などそれぞれ反応が違った。

 こうして、レンとリコは教師のめえとサムが証人となりで婚約が成立した。


いつもありがとうございます!

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正直に伝えていただけると今後の作品にしっかりと反映していきたいのでよろしくお願いします。

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ここまでお読みいただき、誠にありがとうございました。

何卒よろしくお願いいたします。

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