キラリと輝く石!
レンが魔法技術部に入部して二週間ほど経ち、リコの助手として主に力仕事を任されていた。大きな魔道具を持ち出し、小さな魔道具とミスリルの繊維でできたケーブルを使って繋ぐ。ミスリルとは鉄に魔力が融合している混合物で、この世界では一般的で、ありふれた物質である。それはとても柔軟性が高く、電気を通しにくく、魔力を与えると硬質化する変わった性質を持つ。
その柔らかさを生かして、繊維状にして糸と合わせて防御力の高い服にしたり、魔力の通りがいいので、魔道具同士を繋ぐケーブルにしたりすることが多い。武具も相性は好く、硬い鋼鉄と組み合わせて武具を生成することも多い。逆に柔らかすぎて純度の高いミスリルは使われることが少ない。
レンが準備した大きな魔道具は【結合】の魔法が刻印されており、小さい魔道具には【増幅】の魔法が刻印されている。【結合】は物質同士を結合させ、強力なものや複合された能力のものを作る魔法。【増幅】は紋章の力を上昇させる効果のある魔法とされている。
魔法の刻印とは道具に紋章や魔法の特性を直接書き込むことで、書き込まれた魔道具には紋章と呼ばれる魔法のデザインが施される。簡単な魔法には簡単なデザインの紋章、難しい魔法には複雑なデザインの紋章が描かれる。【結合】の紋章は一般的な魔法に比べると複雑なデザインで、【増幅】の紋章はかなり簡素なデザインである。
今回リコが実験しているのはこの二つの魔道具を使ってアクセサリーなどに紋章を【結合】させ、小さい紋章でも大きな力を出すために【増幅】を組み込む仕組みを利用した魔道具の精製だ。
配置や設定が終わり、リコは大きな魔道具に魔力を流す。すると、大きな魔道具から小さな魔道具へ魔力が流れ、ネックレスに紋章が組み込まれていった。
「どうかな?うまくいった?」
「いえ、失敗のようです。この魔道具や方法ではおそらく膨大な紋章の魔力に耐えられず壊れます。」
彼女はネックレス型の小型魔道具をじっと見て、再び実験台に乗せるとため息をつきながら椅子に座り、考え込んだ。
(ここ二、三日同じ実験しているけどうまくいかないものだな……。)
「レン君。」
「どうしたの?なにか持ってくるものがある?」
「今日は家に帰ります。煮詰まってしまったので、別のパターンを考えます。残りの時間でレン君は自分の研究に使ってください。」
そういうとリコは荷物を持って帰った。レンは部屋を見渡し、片付いていない部室を、一人で片づけしていた。少しずつ掃除はしているものの、乱雑に置かれた魔道具や失敗作の集まり、いわゆるゴミが部屋の隅に投げられている。倉庫に入り、整頓をしていると埃のかぶった小箱があった。埃を払うと中には古ぼけており、着けるのも嫌なくらいボロボロな腕輪のようなものがあった。それを手に取った瞬間、腕輪は形を維持することができずに崩れていった。
しかし、一つの宝石のようなものだけ崩れずに残った。それを手に取り、解析用の魔道具につなげてみた。すると、魔道具から反応が返ってきて、よくみると淡い赤色の光を放っていた。どうやら中には炎の魔法が封じられているようだった。
この世界では魔法が封じられている道具は一般的である。家事、炊事などをするのに水・火の魔法が使えないと火おこしや川へ水を汲みに行ったりしなければならない。そんな生活をしていたら、元素魔法が使えるものと使えないものでは生活水準が雲泥の差になる。
そこで魔法を封印する魔道具が開発された。それに魔法を入れると、魔力を流すだけで素養がなくても使用ができる。ただし、何度か使用すると魔法は効力を失い魔道具は壊れる。この魔道具は非常に安価な材料でかつ、簡単に作ることができるのでどの店にも売っている。そのため生活用魔道具と呼ばれ、みんなに親しまれている。製造方法としては紋章を描いてその魔法を発動しつつ魔道具に封印するので魔法を扱う技術と魔道具の製作技術さえあれば簡単に作られる。
こういった生活用魔道具の製作はレンが孤児院時代に周囲の人に協力してもらい魔道具を製作していたので今でも趣味で作っている。
そして、戦闘用の魔道具。これは出力が生活用とは大きく違うので希少素材で作られている。そのため、一般人にはまず手に入らない。生活魔法の魔道具と同じように魔力を流すと簡単に発動できるが、基本的に1度使ったら2度と使えず、魔道具は壊れる。大きい魔法を入れようとすると比例して大きくなるので作るにも、使用するにも扱いが難しい。
レンはこの宝石をまじまじと観察していたが、この宝石はこれまで見てきた魔道具とは違ったもののようだった。解析した結果で炎の魔法が封じられているのが判っているのだが、魔力を込めても使用できなかった。
「やっぱ、壊れているのかな。……でもなんでこの石だけ残ったのかな。」
レンはこの石の可能性に諦めきれず、もう一度魔力を込めて石を観察してみた。石は魔法を発動する気配はなかったが、透き通っている石の内側に赤い模様が浮かび上がっていた。
「まさか、魔法の封印じゃなくて、紋章の封印か!?」
レンは石を持って部室を飛び出した。
向かった先は学園の中にある小川が流れている河原だった。レンは、はやる心を抑えるために深呼吸し、右手を前に出して詠唱を始めた。
「『炎よ……熱き塊となり……顕現せよ!』」
詠唱が終わると右手に火の玉が現れた。それを見て感動していた。レンは慌てず、川の方に目をやる。
「で、出た……!よし、これを川に投げるぞ……。」
レンは右手を頭上に掲げ、狙いを定めると火球を川に向かって投げた。着弾すると川の水が火の玉の熱で蒸発し、蒸気と暴風が起きた。
「魔法が……オレにも魔法が……使えた……!」
レンは今までどんな方法でも魔法が発動できず悔しいと思っていたのだが、今回初めて魔法が発動でき、嬉しさと今までの苦悩が溢れ、無意識に涙を流していた。握りしめていた宝石を見ると一瞬赤く輝き、割れて霧散した。
涙をぬぐい、小川を後にした。
「この石の魔道具を作ってみよう……!」
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