リコがいない!
レンが目を覚ますと、保健室にはめえがいた。窓から外を見るとすでに昼を回っていそろそろ下校時間に差し掛かる、そんな時間であった。
めえはレンが起きたことに気が付き、レンの寝ているベッドまで歩く。
「む、起きたか。体に違和感や、痛みは出ていないか?」
そう聞かれ、腕を伸ばしたり、体をひねったり、跳んだりして確認したが、大丈夫そうで「ふぅ」と息を吐いた。
「ふむ、その感じは大丈夫そうだな。サクラをこちらへ寄こそうか?」
「大丈夫です。たぶん部室にいると思うので。これから向かいます。」
「それもそうだな」
と言い、着ていた白衣を脱いでそれを椅子に掛け、机に戻る。先ほどまで読んでいたであろう書物を再び読み始めた。レンは背伸びをして、気合を入れる。
「ありがとございます。失礼しました——」
「ちょっと待て。」
めえがレンを引き留めるとソファに座るよう促し、温かい飲み物を持ってきた。
獣人はあまり熱いものが得意ではない種族のほうが多いので、本当にあたたかい飲み物である。見たことがない飲み物で、葉っぱのようなにおいがした。色は緑色のような、少し黄味がかっているような感じの緑色をしていた。
恐る恐る飲むと、レンの舌の付け根に苦みを感じた。舌を出してまじまじと見ていると、めえが震えていた。
「すまない。みんな同じような反応をするので面白いなと思ってな。これは、『オチャ』というものらしい。ふく様が好んで飲まれているものだ。草食系の獣人には人気なのだが、なぜかふく様はこれを好んで飲まれる。」
妖狐で明らかに肉食の獣人である女王がこの『オチャ』を飲むと聞き、レンはもう一度『オチャ』に挑戦したが、やはり苦かった。
「先生が引き留めたのは、これを飲ますためですか……?」
飲むたびに反応を見て震えているめえに疑心暗鬼になり質問した。めえは首を横に振ってそれを否定した。
「リラックスしてもらおうと思って出したのだ。他意はない。それよりも、お前たちはすでに夜伽は済ませたのか?」
レンは口に含んでいた『オチャ』を盛大に噴出した。それはめえにしっかりと命中していた。彼女は何も言わず紋章を描き、風魔法を発動させた。
「『そよ風よ、その息吹にてすべてを乾かせ。』」
その風は濡れた顔や髪、服も床もすべて乾かしていた。まったく慌てず、さらっと流れるようにこなしていたのでレンは感心していた。レンは我に返り、頭を下げた。
「ご、ごめんなさい!」
「今のは、私の質問が悪かった。だが、聞きたいのはそういうことなのだが、ここ二、三日リコは学園を休んでいる。」
「リコに何か……!」
「いや、連絡はとれてはいるんだ。ただ、今は手が離せない用事があると言ってな。それで先ほどの話だが、妖狐も野狐も元は狐だ。繁殖期の行動がすこし女王様、たまと似ていてな。それで聞いたわけだ。」
「は、繁殖期……。」
レンはリコのあられもない姿を想像し、体が熱くなる。そんな反応をするレンを見て、頬杖をついて何かを思ったのか、目を閉じた。
「その様子だと、まだしてはいないようだな。まじめな話、お前が嫌でなければ、しっかりと応えてやってほしい。それに繁殖期の……いや、これ以上は言うまい。まあ、私の勘違いなら忘れてくれ。」
「は、はい……。」
「実は以前も同じような相談があってな、お前たちが入学して二週間後くらいからかな?その時は薬で対処したが、お前は彼女の繁殖期前の行動を覚えているか?」
レンはそう訊かれ、入学時期を思い出した。リコが二、三日休むことはなく、よっぽどなことがない限り休むことがなかったのだ。その中で一日休んだ日を思い出した。
「リコさんが一日何も言わずに休んだ日があるのですが、時期も先生の言っていた日と合致します。たしか……魔道具に【召喚】を封印しようとしていた時で、寝る間も惜しむようにずっと魔道具を作り続けていました。」
レンがそういうとめえは目を見開いてレンにびしっと人差し指を突き付ける。
「それだな。今回も家で魔道具を作り続けているのかもしれないな。こうなるとご飯も食べてくれないから本当に困るよな……。そうだ、繁殖期については授業をしっかり聞いているな?」
レンは授業をしっかり聞いているかと問われ、高速で縦に首を振る。めえは眉間に手を当てて考えると口を開く。
「体が成熟し、子をなすことができるのは何歳ごろから?」
「成人の日から大体五十年経ったくらい……です。」
「では、なぜ成人の日が十三歳なのか?」
「女性が繁殖期を迎えるから……?」
「よかろう。」
レンは突然の授業内容の確認をされたが、しっかりと答えることができて安心した。
めえは「むふー」とした表情をして、ペンを取ると思い出したように手をポンと叩く。レンの方へ体を向きなおして口を開く。
「そうだ、忘れていた。ポチおがお前たち三人が卒業したら魔法技術士の免許を発行すると言っていたな。」
「い、いいのですか!?」
レンは卒業と同時に免許がもらえると聞いて、興奮していた。レンも魔法技術士の試験が難しいものであると知っている。その試験を免除ということが何より嬉しかった。そんなレンを見てフッと笑う。
「ポチおは魔法技術士という免許を作り上げたやつだからな。本人が良いといえばいいのだろう。さて、私も仕事がある。リコに連絡しておこうか?」
「だ、大丈夫です!直接、今から家に行きます。サクラさんには連絡してもらってもいいですか?」
「いいだろう。少年、健闘を祈る。」
そういうとめえは机に向き、通信用魔道具を使い連絡を取り始めた。レンは保健室から出て、リコの家へと急いだ。
学園内を歩いているといろいろな人に話しかけられた。レンは急いでいるのにどうして一般生徒の自分がこんなにも話しかけられるのか疑問に思う。ほとんどが入学生だったらしく、危うくもみくちゃにされかけた。
自分を掴んでこようとする手を反射神経で避け、思い当たるものがないか考えた。そこでレンは歓迎祭のことを思い出したが、頑張ったのはそうだが、メインではない立場の自分がこのようなことになっているのか疑問であった。
うまく群衆から抜け出すも、次は在学生からの質問攻めにあった。入学生は何とか切り抜けたが在学生はそうはいかない。
レンは急いている気持ちと、どう回避するか、抜け道はあったか、いろいろ考えていた。
「はい、はーい!ちょっとどけてー!レン君こっち!」
サクラに手を引っ張られ、何とか人込みから抜け出した。
「先生から聞いたよ!リコちゃんのところ行くんでしょ?ここはアタシに任せてはやくいってあげて!リコちゃん、きっと待っているから!」
そういって背中をバンッとたたかれた。その反動でつんのめったが、振り向くとサクラはあの人込みをうまく誘導しながら対応していた。
「ありがと!リコさんのところに行ってくる!」
サクラは後ろを向いたまま、手をひらひらと振っていた。レンは前を向き、リコの家へと急いだ。
町に到着し、息を切らしながらリコの家へと走る。
「犬族だったら長く走れるのに……!」
そんなことを吐き出しつつ、足を振り、腕を振り、レンはかけていく。持ち前の動体視力で人々を避けて走る。だんだんヒトが少なくなり、目の前には石造りの家が見える。
家の中の明かりは灯っており、家にいることがわかる。家の前に着くと、レンは息を切らし、膝をつく。ぜえぜえと酸素を貪り、呼吸と心拍が戻るのを待っていた。
すると、ガチャと扉が開く音がした。そこに目をやると、リコが立っていた。リコは頬に黒い汚れや、手が汚れまみれになっており、髪もぼさぼさになっており、三つ編みも解いていた。
「れ、レン君!?どうしてここに?あと、大丈夫ですか?」
息切れをしているレンを心配そうに見ていたが、彼女の心がときめいていたのは誰も知らない。
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