レンの発表!
レンは両手をギュッと握りしめて舞台の真ん中に立つ。
「そして、オレの開発した魔道具はこれです!」
レンは光り輝く小さな石を取り出した。会場の照明でキラキラ輝くこの石を会場の注目を浴びた。
魔道具はほとんどミスリルでできた金属をベースに作られることが多い。ほかの材料で作る場合は魔力を帯びた魔獣の革やドラゴンスケイルで作ることになる。レンの魔道具は見た目が魔道具らしくないため皆の注目を浴びる。
「この石は、紋章を封印する石【ルナティクス】と言います。これはもともと古代で失われた技術であり、それを現代の技術で再現したものとなります。」
(石の名前、決まったのですね……。)
リコはルナティクスと名付けられた石が装飾されたネックレスを見つめる。嬉しくなって尻尾が左右に振られていた。
「あらかじめ紋章を封印し、この石に魔力を注ぎ、詠唱を行うと発動できます。」
その説明を聞いて会場はひそひそと声が上がっていく。既存の魔道具でもそれは再現できており、それは詠唱も必要とせず、すぐに使うことができるからだ。
レンは狙い通りと口角を上げる。以前サクラに指摘されたものを利用したのだ。
「お気づきでしょうが、今存在する生活用や戦闘用魔道具のほうが詠唱なしで即時発動できます。この魔道具は今までの魔道具の劣化版ではないのかと思っていませんか?ではこの魔道具の真価をお見せします。」
石を一つ投げ、杖型の魔道具を取り出して魔力で空中にとどめる。さらに六つを投げ最初の石を中心とし、円環になるように配置を調整した。
中心の石は水色に輝き、その周りに配置した石は緑色に輝いていた。その光を見た人々は息をのんだ。深呼吸をし、レンは詠唱を始めた。生まれて初めて複合魔法を発動させるのだ。
「『すべてを凍らす息吹よ、空に幻誘の空間にて包み込め。』」
レンは詠唱を終え、魔法を発動させた。複合魔法【氷結】の応用でダイアモンドダストを発生させた。
「ご存知の通り、【氷結】魔法は風・水の元素魔法を複合させたものです。オレの魔法は元素魔法ではありませんが、このように石を使えば複合魔法が誰でも使えるようになります。」
会場の照明のおかげでレンの魔法はより一層光り輝き、それが会場一面に広がっているため、人々は魅了されていた。
そして、程なくして魔法の効果が切れ、会場は元に戻った。レンは再び注目があつまる。【氷結】で少し冷えた空間ではあるが、魔法の負荷が大きくレンの頬に汗が伝う。
「オレには中等級の魔力しかありません。なので今回はパフォーマンスとして威力をなくして、範囲に全部振りましたが、皆さんの魔力次第で高威力の大魔法も夢ではないので、是非体感してみてください!」
レンは魔力が切れかかり、倒れそうになるのを堪え、ごまかすようにお辞儀した。すると、会場内は拍手喝采となった。急いで顔を上げ、周りを見ると会場のみんなは立ちあがって拍手をしていた。ふらつく足を何とか取り戻そうとしたが、うまく動けず倒れかけると、リコとサクラが腕をとり、支えた。
「よくやったよ!よくあんな広範囲の魔法をだせたね!」
「あとは私たちに任せてください。」
二人に抱えられたレンは舞台袖付近に置いてある鎧のそばに座らせられる。その表情は少し悔しそうであった。
(戦闘演習……参加したかったな。)
立っている二人を見上げ、悔しそうに歯を食いしばった。
——ご主人さまと一緒に戦いたいの?
レンはふと聞こえた声に驚き周りを見渡した。声色からステージで発表している二人ではない。恐る恐る、そばに立っている鎧を見たが何も変化はない。
——ここだってば。下、あなたの胸の前。
声が指し示す方に向くと小さな羽の生えたとんがり耳の女の子がいた。レンは思わずぎょっとした。その小さな女の子はこの前魔物が襲来してきたときの一番強い魔物と同じような顔をしていたからだ。顔の造形こそ似てはいないが体毛が無いところなど、共通点は多かった。
——あたしはニンゲンなんかじゃないわよ。失礼ね。
レンは心を読まれて全身の毛が逆立つ。魔力がないこの状態でできるのは威嚇だけだった。
——ちょっと!あたしはあんたとは戦わないわよ。ご主人と一緒に戦いたいのかってきいているの。わかる?
「ご主人って誰……?」
——あの野狐の女の子。あなたのお嫁さんでしょ?で、どうするの?
レンはリコのことを嫁さんと言われ照れてしまい、顔が熱くなる。頭を冷やそうとこの女の子のことを考えていると。
——鈍感ね。あたしは風の精霊『シルフ』よ?力を貸してあげるから一緒に戦いたいなら立ちなさい。
そういうとシルフは消えていった。ふと疲労感が抜け、立ち上がることができた。魔力も戻っており、走って二人の元へ行く。
(二人とも待ってて!オレも一緒に……!)
「レン君の開発した石は、アタシたちの魔道具に搭載されています。また、製作の際もこの石が無ければできない事が多く、これがなければアタシたちの発明もなかったかもしれません。」
「こちらの魔道具も量産体制が整い次第、本格的に学園で研究し、生活・軍事転用もされる見込みです。」
サクラと顔を合わせて発表を打ち切ろうと目で合図した。会場に目をやると拍手が一斉に沸き起こる。何が何だかわからず二人は会場の目線の先を見ると、レンが走ってきた。
「レン君!?」
「魔力無くなったんじゃ……。いや、魔力が回復してる。どうして?」
「オレもよくわかんない。けど、リコさんの精霊がオレに話しかけてきて、魔力を分けてくれたんだ。ここまできたんだ。最後の締め、やってやろうよ!」
「しょーがないわねー。リコちゃん、手加減は無用だよ!」
「はい、全力で参ります!」
三人はこぶしを合わせると会場に向き合った。三人は横一列に並び、発表はもう終わるのかと思っているようだった。そんな空気の中、レンが一歩前に出る。
「皆様はこの前の魔物の襲撃は覚えておられますか?」
会場は突然の発言に動揺の嵐が起き始めた。
「オレたちはその襲撃で調査隊と共に戦いました。それだけでなく近衛師団長にも戦闘訓練に参加させてもらったりしました。この課外活動だけではなく、この学園のみんなに一つ言えることがあります。」
レンは一呼吸を置き再び口を開いた。
「強くなければ、大切なものを守れない……このことを覚えてください!」
会場は静まり返った。教師たちの方を見ると皆、頷いており、ふくを見ると腕を組んで頷いていた。弱肉強食がこの世界のルールだ。草食の獣人だろうが、魔法や魔力が弱かろうが、それは変わらない。学園にいる間、未成年の間はそのことから目を背けさせてもらえるが、卒業して成人してしまうとルールに従わなければならない。レンは嫌なことを思わせてしまって申し訳ない気持ちになったが、本人が一番実感していた部分でもあるのだ。レンは会場の空気が重くなったと見越して、最後の盛り上げにかかる。
「口では何とでも言えます。それでは、お見せします。魔法技術部、オレたちの魔道具や力を利用した戦闘演習です!」
一瞬、レンが何を言ったのか呆気に取られたが、意味が徐々に伝わり会場の雰囲気がジワジワと沸き上がった。みんな戦闘演習は憧れるもので大好きなようだ。
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