活動紹介の出し物!
ここはヴォルファリアの中央にある湖。その湖のさらに中央には空中に浮かぶ陸地がある。国民はそれを『王の浮島』と呼んでおり、その浮島には城が建ち、隣には宮廷魔術院も併設されている場所である。
ふくは執務中であったが、湿気を感じて窓の方へと向かう。すると雲一つない空に、雨が降っていた。ヴォルフが後ろから歩いてくるのが足音でわかり、話しかける。
「ふむ?狐の嫁入りじゃ。」
「なんだそりゃ?」
「狐が嫁入りするときは晴れておるのに雨が降るという言い伝えなのじゃ。きっと下界でなにかよいことがあったのじゃな。」
ふくは窓から外を眺めてにこりと笑った。ヴォルフはよくわかっていなかったが、ふくの機嫌がよいので良いことなのだと納得することにした。
「そういや、今回付き人候補はあがってるのか?」
「うむ。じゃが、おそらく断られるの。」
ヴォルフが驚いた顔をしていた。それもそのはず。王族の付き人——ヴォルフとふくの付き人はなりたくてもなれるものではないのだ。空席ができたときや二人の眼鏡にかなった時だけだから。そして、学生からも人気職である。それを断る人が出てくると思っていなかった。
「めずらしいな……。滅多にこんな機会ねぇのに。」
「実力は申し分ない。じゃが、そやつの心に迷いが見えての。」
「給料も家も食事も何でもそろってるのにか?」
「お前は単純でええの。恐らくじゃが、そやつの周りの人を大事にしておるんじゃろう。王族には向かない性格じゃが……。」
「友人、恋人とかか。そりゃ仕方ねえ。ウチに他人は入城できないしな。」
「じゃから、断られるのかと思っとるのじゃ。」
それを聞いたヴォルフは少し考えていた。ヴォルフの中では一番ありえないという意見を言ってみることにした。
「制限緩くするか?」
「却下じゃ。その影響でここに攻め込まれたら面倒じゃ。それに太陽の魔道具が破壊されればこの星は死ぬる運命じゃ。地上のクソ共はそれも知らん。」
「そうか。それが聞けて安心した。」
といい、ふくと雨を眺めながら並んで立つ。それは王として彼女が一個体に肩入れをするのではないかと一瞬気にしていたがそのような素振りを一切出さなかったことで安心したのだ。
手をそっと差し出す。その手はふくの尻を触っていた。ふくは何も言わずヴォルフに人差し指を向け、短く詠唱する。
「『爆ぜろ』」
ヴォルフの頭に爆発魔法を当てた。威力を加減しているのか無傷であったが、髪がチリチリになっていた。
「あの娘、実力は確かなのにのぅ。召喚魔法の詠唱短縮なぞ、たまでも不可能じゃったのに……。」
そう言って、執務室へと戻っていった。
☆
先ほどまでの暗い雰囲気はなくなり、三人は会話が弾んでいた。サクラは、宮廷魔術院からスカウトを受けていたようで、宮廷魔術師になると決めたようだ。
サクラの研究が【転送】の魔法を解析して、短距離であれば重さを無視して運べるという研究を報告し、それが宮廷魔術院のスカウトにつながった。
そして、話は課外活動紹介の話になった。
「そういえばアタシたちが最上期生になるから、課外活動紹介に参加しないとねぇ。」
「もう1年近く経つのか……。早いなぁ。」
「そうですね。あの時は、とにかく忙しかった思い出があります。」
「そういえば、リコちゃんは入学式モテモテだったもんね。」
サクラがリコの脇を突きながらニヤニヤしていた。脇を突かれたリコはくすぐったいのかくねくねしていた。レンもそれに覚えがあり、入学式終わった端からリコの周りに人だかりがあったのを思い出した。
「あれは、うっとうしかったのを覚えてます。」
「上期生も同期もガツガツだったもんね。」
「そんなにすごかったんだ……。それより、出し物はどうする?」
三人は腕を組み「うーん……」と言いながら考えていた。レンは今までのことを思い出していた。
魔法技術部に入部し、リコに出会い、部室の倉庫で紋章を封印する石を発見し、それを作るために近衛師団長にボコボコにされ、やっとできた石は召喚術を入れられなかった。
召喚術の詳細を保健室の先生に聞き、サクラと出会い、レンの魔法が判り、サクラとリコのケンカ、リコとレンの戦闘演習、近衛師団長の本気の恐ろしさ、女王との会話。
学園祭でパートナーの契りを交わしたこと、魔物との戦闘、王と女王の圧倒的な力。
一年でこんなに大イベントをこなしてきたレンは一つ思っていたことがあった。
「先生やポチおさんが言っていたんだけど、どの職についても結局強くないといけないって……。」
「それだわ!」
レンとリコは顔を合わせてうなずいた。そして三人は「せーの……。」と声をかける。
『戦闘演習で驚かせてやろう!』
三人の息はぴったりで少ない日数だが、急ピッチで準備を始めた。
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