成果と進路!
「サクラさん。この石を使って何か魔道具を作ってみてください。そうすればわかると思います。」
「そ、そうなの……?」
サクラがレンを見ると自信ありそうにうなずいた。サクラは魔道具の素材となるものを持ってきて、一か所に集めた。
「付与する魔法の二つ紋章を書いてください。それを一つに結合させるのです。」
「やや!?むりむり!それって意図的に複合魔法作るってことでしょ!?アタシにそんな技術ないよ!作ったことないし……!」
「レン君の魔法が助けてくれます。やってみてください。」
「えぇー……」
と言いながら彼女の生得魔法である【幻惑】と付与魔法である物に斬撃を付与させる【斬撃】の紋章を描き、素材の下に敷いた。石を持ち魔力を込めた。
「ええっと、『数多の魔法よ。幾重にも重ねその力を昇華せよ』」
詠唱を行うと【重撃】が【結合】の魔法と共鳴し、通常一つしか出ないはずの【結合】の紋章が大量に出現し、半球状に素材を取り囲んだ。サクラはその光景を見て完全にドン引きであった。
「『万物よ、互いの力を共有し、新たな力を得よ』」
【結合】の詠唱が終わると魔法が発動し、素材たちが発光する。サクラはリコほどではないが魔力の総量が高く、レンより数倍保有していた。それでも大量の魔力を持っていかれ、膝をついた。
「えぇー……。どんだけ魔力を持っていけば気が済むのよ……。」
光が収まると一本の棒状のものができていた。それを手に取り、魔量を込めると一瞬魔道具が揺らいだ。サクラはため息をつき、レンにそれを渡した。
「はい、アタシは見ての通り魔力が出せないの。レン君、責任取ってよね。それ、魔力を込めたら使えるからさ。」
レンは苦笑いをしながら受け取り、魔道具に魔力を込めた。すると、刀身と思われるところが揺らいでおり、実体がないように見えた。
部室の中になぜか置いてある鎧で試し切りすることにした。
卒業していった先輩の話によると、先輩の四代前の先輩が鎧マニアだったらしく持ってきたようだった。しかしその鎧は実物ではなくニセモノだったらしく、怒って置いて卒業したそうだ。要はごみの処分を諦めたのだ。
それ以降、部室に置かれているのは可哀そうだということで試し切りや棒での殴打、魔法で爆破や水責めされ続けていたのである。
レンはなんだかんだ十二歳の少年である。剣を持つとウキウキになってしまうようで目が輝いている。ワクワクしながら鎧と相対すると歴代先輩たちのように魔道具を振るい、鎧を切りつけた。その斬撃は魔道具の刀身らしいところから倍の長さが斬撃の間合いになる様で、少し離れていても斬撃が当たった。しかもその斬撃は延長線上を通らず、曲がった軌道をしているようだった。
「サクラさん。斬撃が曲がっているようですが、これは一体……?」
「ふふん。これはね、アタシたち狸族に伝わる複合魔法【幻遥】なの。使い手はもう亡くなってるけど。」
レンは夢中でガンガン鎧を切りつけていた。
「レンくーん。それ、魔力消費激しいから気を付けてねって聞いちゃいない。」
「ということはレン君の【重撃】と【結合】を組み込んだ石を使って魔道具を作れば強力な魔道具の精製も可能ってことですね。」
「あの魔法ズルじゃない?」
ジト目でリコを見つめると、リコもジト目になり、
「あの魔法は基本的にリンクしなければ使えませんし、使えても魔力消費が莫大なので連発不能です。あと、レン君は私のものです。」
「お熱いことですねぇー」
やれやれと無理やり納得することにし、レンの方に向くと彼は倒れていた。
「レン君!?」
「魔力切れだよ。注意したのに聞かないから……。それにしてもあんなにボコボコに殴っても傷一つつかない鎧、何なの?」
魔力がなくなり眠っているレンをよそにサクラとリコが会話していた。
「リコちゃんは卒業後、どうするの?」
「まだ、決めかねているのです。」
「ほう、主婦になるかどうか?」
目をぎょっとさせそっぽ向いた。しかし、尻尾が膨らんで椅子にバムバムしていたので恥ずかしがっているのがわかる。その様子を見てサクラはリコの脇腹をつついた。
「ち、違います!魔法技術士になるか、王族の付き人になるか迷ってるのです!」
「へ、へえ……さすが成績トップだと付き人になれるのね。」
「それが、その……女王様に直々にならないかと言われたのです。」
サクラは机をバンッとたたき立ち上がりリコに指をさした。
「何を迷っているの!?二度とチャンスはないのよ!あなたには才能も実力も揃ってる。それなのに付き人にならないって贅沢な悩みだわ。」
「すみません。私は今まで……その、ぱ、パートナーがいたことや友人と呼べる方がいなくて……」
だんだんリコの目が潤んで、声も震えてくる。サクラもさすがにその姿を見ると、言いすぎたかと慌て始めた。
「だって……せっかく一緒になれたのにみんなに会えないのは辛いよ……。」
リコは大粒の涙を流して震えて訴えた。
王族の付き人になると基本的に女王や王に仕えることを示し、家に帰られることも殆どなく、パートナーがいたとしても、パートナーが王城に入ることは許されない。
王のためにほぼ一生を尽くすことになる。めえが女王の付き人ではあるが、彼女はもともと宮廷魔術師・学園教師も兼業しており、それらから脱退されては困るとのことで特別に許可された極めて優秀で稀有な存在だ。
やはりそれでも常に学園にも宮廷魔術院にもいるわけではなく大半は女王の付き人として仕事にあたっている。サクラもその実情を知らないわけではない。
「……じゃあさ。」
サクラはリコの両肩を持ち、顔を近づけて目を合わせた。リコは涙で顔が濡れ、悲しみに満ち溢れた顔で、体を震わせていた。美人な顔が泣き顔で台無しだった。そんな彼女を見てサクラは一瞬ためらったが、頬を伝う涙を拭き、目を合わせる。
「レン君と結婚しなよ!」
サクラの提案にリコは呆然としていた。その言葉の意味を理解し、感情が混乱を起こす。
そして泣き顔から照れ顔に変わっていき、耳が完全に垂れ、机に指でぐるぐると渦巻のようなものを書いていた。
「それならさ、少なくともレン君とは離れ離れにはならないよ。アタシはちょっと寂しいけど、それでも……。」
「う、うぅーん。あれ?オレ寝てた?」
レンは背伸びして、二人に近づくとリコは目を逸らし、サクラは頭を抱えた。
リコの顔を見たレンは焦って近づいた。
「リコさん!?どうして泣いてるの?」
「そ、それは……。その……」
「レン君!!」
突然サクラに大きな声で呼ばれ、びっくりして正座をしていた。何もしていないレンはなぜか緊張の汗をかいてしまう。レンはなぜか怒られているような気がしていた。
「レン君は卒業したらどうするの!?」
質問の意味を理解するのに数秒かかり、答えた。
「オレは自分の店を持って、魔法技術士として腕を磨き、いつか……リコさんと一緒に地上の調査隊に一緒に行きたいと考えてるよ。」
「それまでの間はどうするの!?」
「えっと……」
「もし、リコちゃんが王族の付き人になったらどうするの?いくらパートナーでもほとんど会えないのよ?」
レンはサクラから指摘されて考えるが、それほど時間もたたずに結論を出した。
「リコさんが良ければだけど……その……つ、番になって、一緒に魔道具屋をしたい……です。」
「あんたねぇ、それ——」
耳を垂らし、恥ずかしがっているレンにサクラはどういうことか説明しようとした。しかし、それを言う前にリコが飛び出し、レンに抱きついた。勢いが良すぎてそのまま押し倒す形になった。
「はい……私も、ずっと一緒にレン君と……。決めました。私はレン君の、生涯のパートナーとして魔法技術士の道を進みます!」
取り残されたサクラは二人のやり取りを見て頬を膨らませる。適当な本を持ってピシッと立つ。
「……何だか妬けてくるわ。はいはい。ナンジ、イカナルトキモアイヲチカイマスカー?」
「ちょ、ちょっと早いですよ……!?」
「せめて卒業してからじゃないとね……いろいろと問題が。」
「わかってるわよ!冗談が通じない二人ね、もう!」
部室の外は晴れ時々雨、しかも晴れているときに雨が降っていた。
いつもありがとうございます!
『良かった!』
『面白かった!』
『続きを見たい!』
と思って貰えましたら、
お話の下にあります
☆☆☆☆☆
から作品への応援をお願いいたします。
面白かったと思ったら☆を5つ
つまらないと思ったら☆を1つ
正直に伝えていただけると今後の作品にしっかりと反映していきたいのでよろしくお願いします。
また、ブックマークも頂けるととても嬉しいです!
ここまでお読みいただき、誠にありがとうございました。
何卒よろしくお願いいたします。