地上世界を知るヒト!
「んー……。最初から話すか。オイラと嫁さんは元地上の人間だったんだ。」
レンは衝撃のあまり声が出なかった。地上の世界を知る人どころか地上に住んでいた人だったから。
「前に失敗作がこの世界に攻めてくるっていったな?オイラも嫁さんも同じ境遇だ。」
「ただ、ほかの失敗作と比べるとオイラたちはこの世界の獣人にそっくりでな、オイラたちは【命令】されてなくて戦わずに済んだんだ。」
「あの……地上に戻りたいと思わなかったのですか?」
「最初は思ったさ。でも、この現状だ。この世界のヒト達はみんな優しくしてくれるし、助けてくれた恩もある。」
そういっているポチおの目はどことなく優しい目をしていた。ふとシャシンについて思い出したので聞いてみることにした。
「シャシンの人たちはみんな知っているのですか?」
一瞬目を見開き、首をかしげて考え込むと、思い出したのかポンと手を打つ。
「あ~、集合写真ね。もちろんみんな、この事を知っているよ。」
「あのカメラよく動くよな。オイラの世界じゃすぐにダメになるのに。まだじーさん持ってるんかな?」
「かめら……っていうものですか?司書がこの前出してましたよ。すぐにダメになるって、地上の世界はそんなに過酷なのですか?」
ポチおは首を振り否定した。
「過酷ではなかったけど、少しずつ悪くはなっていったかな。戦争もあっちこっちであったし。」
「ただ、オイラがいた時よりかなり科学が進歩しているみたいだよ。」
レンはまた未知の言葉を聞いてきょとんとしていた。それに気づいたポチおは笑いながら、説明してくれた。
魔法とは違って、燃焼や蒸気、水や風の力などでエネルギーを得ることができ、それで地上民は生活できるのだと。ただ、その為には莫大な力をエネルギーに変換する必要がある。
しかし、その力が不足し、エネルギーが枯渇してきて第三、第四のエネルギーを考案して、ポチお達のような生物実験へと発展したらしい。エネルギーを生産するのではなく、自分の力で賄う。そのような方針で科学を進歩させたというのだ。
人間に動物の細胞を埋め込んだりして、拒絶反応が起こしたものが魔物。耳や尻尾など獣人のように体に変化があれば使い捨ての生物兵器。適合して人の形であれば新人類として扱うようだ。
「とまあ、大体こんな感じだよ。オイラと嫁さんはたまたま記憶が残っていたからね……。」
「でも、廃棄したならどうしてこの世界を破壊するのですか?」
「前にも言っただろ?あいつらにとってこの世界は汚点なんだ。だから消すの。」
ポチおは立ち上がり、背伸びをした。少し苦い顔をしながら話を続ける。
「まあ、ディバイドエリアがあるから、オイラたちは地上に行けないんだけどな。」
「ディバイドエリア?」
聞いたことがない単語を言われて首をかしげる。ポチおもレンにわかりやすく説明しようとするが思いつかず、水をすくう器を持ってくる。
「うーん……例えばだ、この器がオイラたちの住んでいるところとして考えてくれ。まあ本来はこのように球状になっていて、中の空洞にいるのが今いる地底世界で表面が地上世界とする。」
途中からレンが難しそうな顔をしたので無理やり納得させる方針にした。レンはふと疑問に思ったことを言う。
「地上のヒトはこの下側にいても落ちないのですか?」
「星には重力というものがあってだな、地上民は星の中心に向かって引っ張られるので下にいても大丈夫。逆に地底民はその力に反発する力で内側に立っている。その二つの力が拮抗しているところがディバイドエリアという。わからんと思うけどそういうもんだ」
といって、器を片付け始めた。
「そこに行くとどうなるのですか?」
「どっちからの圧力によってプチってなるよ。まえの調査隊はそこまでは行けたんだ。けど、どういうわけかオイラたち失敗作は運よく潰れずに済んだんだよなあ。それに攻め込んでくる奴らもディバイドエリアを通ってきてるはずなんだけど。なんか通り道でもあるんかな?って調査を進めている状況なんだ。」
片づけが終わると再びレンの前に立ち、ニカッと笑みを浮かべる。
「だからオイラたちもいつかは地上に出られるかも知れないね。」
そういうとレンはすごく心が躍った。このような話は到底想像できなかったが、ポチおが噓を言っていたとしても地上の世界に行ってみたい意欲がさらに沸いた。
「レン、キミはまず強くなりな。強くならなきゃ、調査隊に選抜されないし、彼女も守れない……だろ?パートナーがいればもっと上の、ほんとに地上に行けるかもしれないからな。頑張って訓練積んでいきなよ?あ、この話は混乱を招くから他言無用な?」
「は、はい!頑張ります!今日はありがとうございました!」
そう言い工房を後にした。レンは、出来上がったネックレスを大事そうに持ち、家に帰る。町の広場を歩いていると、サクラと出会った。
「レン君!?どうしてこの時間に出歩いているの?」
「実は、魔道具屋に行って、稽古をつけてもらっていたんだ。」
「ふぅん……。ねぇ、何を大事に持っているの?」
「え、えぇっと……。わ、笑わないでよ!?……これなんだ。」
レンはサクラの圧に耐えられなくなり、町の広場にあるベンチに座り、カバンから小箱を取り出して、中身を見せる。それを見たサクラは目が輝き、うっとりとする。
「すごく綺麗……。これ、レン君が作ったの?」
「うん。工房の魔法技術士のヒトに教えてもらってね。」
「リコちゃんにあげるの?」
そう尋ねられると、レンは顔が火照り、尻尾が膨らむ。サクラはそんなレンを見つめていた。
「いいなぁ。アタシもそんなことしてくれるヒトが来てくれたらなぁ……。」
「サクラさんはかわいいからモテるんじゃないの?」
「……。レン君ってドンカンでしょ?」
レンは何のことやらと首をかしげる。サクラはそんなレンを見て思わず手を握った。握られたレンはキョトンとし、止まった。そして、鼓動がどんどん早くなってくる。対するサクラも手からじんわりと汗をかいていく。
「レン君、アタシに【重撃】使ってみてくれる?」
そう言われ、レンは目を閉じて集中する。魔力をサクラとリンクさせてみるが、上手くいかずに弾かれた。サクラはその事実に気づき、落ち込む。
「どうして、サクラさんに【重撃】使えないんだろう……。」
「これが、リコちゃんとの差なのね……。いい?魔法大全でも見たと思うけど、【重撃】は絆を深めたもの同士でリンクして使うものなの。アタシとレン君はまだそんな絆がないってこと。でも、リコちゃんとレン君はお互いに絆があるからできた。だから……レン君とリコちゃんはお似合いのパートナーなんだよ……。」
サクラは泣きそうな顔をしてたちあがると、そのまま歩き出した。レンが追いかけようとすると、サクラは立ち止まって振り返る。
「告白、失敗するんじゃないぞ!また、明日ね!」
サクラは走って町の中に消えていった。レンはサクラの悲しみを理解できてはいなかったが、応援されたので頑張ることにした。ネックレスの小箱を大事に持ち、家に帰るのであった。
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