交戦的な女子たち!
家に帰ると、いつもの通り服を脱ぎ浴室へと向かう。レンは浴室の湯船に浸かって考え事をしていた。
まずは自分の魔法がどんな動きや作用を与えられるのか。次に自分の魔法の名前決め。これはリコの【召喚】など、魔法には名前がつけられているのでそれをつけてみようと思った。
最後にリコの【召喚】とどう組み合わせるか。
「いやいや!なにパートナー前提でいるんだよ、オレ!」
レンは湯船に潜り、顔だけ出して呟いた。
「乱れうち、ねぇ……。」
指先に魔力を込め、空中に水の紋章を描いた。そして詠唱を開始し、魔法を待機状態にする。
「どうせ、発動なんてしないんだろうけど、『荒れ狂う水よ、敵を飲み込め。ダブル!』」
洗面器で水を流したみたいな勢いでなんともいえない水魔法が発動した。そして、魔法で作った水はすべて排水口に流れて終わった。見るからに重ね掛けの魔法はかかっていなかった。呪文はダブルではないようだ。
しかし、今までどのような手順で魔法を使っても発動しなかったはずが、魔法の発現のおかげか不明だが、紋章を描いて発動するようになった。レンは微妙に嬉しい気持ちで風呂を上がり、眠ることにした。
☆
いつも通り授業を受け、部室へと向かう。すると後ろから走ってくる音がした。しかし、その足音は早く、振り向く前にレンの背中から飛びつかれた。そのまま、おんぶの形になる。
「レーン君!!」
「うわっ!?びっくりした……!」
サクラに驚かされたレンはしばらくドキドキしていた。それは驚かされたことによるものと、抱きしめられたことによるものでレンの心臓の鼓動が速くなる。
(サクラさんはほんとに積極的……なのかな?)
「ねえ、あのヒトは今日も来てるのかな……?」
「リコさん?多分来ていると思うよ。」
「だよねぇ~……はぁ……。」
「どうして昨日けんかしていたの?」
「アタシ、リコさんと同じクラスだけど、あのヒトは首席じゃない?アタシはずっと2位なのよね。」
レンはびっくりした。サクラは競技向きの性格でありながら座学も高成績のようだった。そしてリコとは入学時からライバルだということ。意外と思っているとサクラがジト目でレンの顔に急接近する。
「いま、あたしのこと賢かったんだと、思ったでしょ?失礼ちゃうわ。」
レンは首が飛んでいく勢いで横に振った。どうやら思っていたことが顔に出ていたのか、見透かされていたようだ。
「どの魔法分野でもずっと2位だから悔しくてね。あのヒトの苦手な運動で勝っても嬉しくないし……。」
レンはリコが努力家であることを知っている。目的のためには寝る間も惜しんで魔道具を製作しているところを見たり、自分の魔法の解析のために父親の研究の再現をしていたりしているところを見ていたからだ。
「……リコさんも、きっとすごく努力していると思うよ。」
「それは……!わかってるけど……悔しいからアタシだってあのヒト以上に努力しているもん。でも野狐族だから手も足も出ないくらい強いし……。」
レンは種族的なことにはピンとこなかったが、狸と狐は昔からライバルだということを聞いたことがあったので、その延長線のようなものだと思っていた。
そうこう話していると部室に着いた。部屋の外から窓を見れば部室に人がいるのは分かるので、レンは気持ちを切り替えて扉を開ける。
「おつかれさま~」
そう言って入るとリコが走ってきた。リコは昨日のこともありニコニコしている。後ろからサクラが出てくる。
「おつかれさまで……す」。
リコとサクラの目が合うと再び険悪なムードが立ち込めた。リコは目をそらし、レンのほうに向きニコッとした。目を逸らすというのは敵意がないという意思表示でもあった。しかしサクラにとっては眼中にないと感じ、握りこぶしに力を入れた。
「なによ……アタシなんて眼中にないってコト!?」
「……どうしてですか?わたしが嫌いなら関わらなければいいと思うのですが。」
「あなたは首席、アタシは次席。天才で野狐族のあなたにはわからないでしょうけど、アタシは庶民の狸族で努力してここまで来たの。」
サクラが鼻息荒く、そう言っているとリコはむっとした表情になった。ちなみに狸族は野狐族ほどではないが魔力も魔法も優秀な種族ではある。
猫族は身体能力にかなり特化しており、付与術を持った個体が多い。魔法に関してはあくまで多いだけなので、元素魔法や事象魔法を持った個体も存在する。
レンの魔力に関しては猫族の中では高い部類になるが、狸族や野狐族の魔力を比べると話にならないほどの差がある。
リコがむっとしたのは種族で天才と野狐族が一纏めにされていたところであり、それは一種の種族主義に抵触していると思ったからだ。
「アタシはリコさんに魔法決闘を申し込む。場所は競技場で審判は先生にやってもらいます。」
サクラがリコに対して決闘を申し込んだ。一方リコは先ほどのやり取りでやる気がないかと思いきや、目は闘志に満ち溢れていた。
女子のケンカを目の当たりにしたレンは、二人の間であたふたしていた。リコは眉を寄せて、サクラをにらむ。
「人数と武器は?」
「一対一で……。」
そういいかけるとサクラはレンをじっと見た。レンとリコを交互に見て何かを感じて首を横に振り。
「いえ、二対二でやりましょう。武器の学園支給のもので、競技の魔法試合の形式でやるのはいい?」
「はい。もちろん大丈夫です。手続きはしてもらえますか?」
レンはおろおろして見ることしかできなかったが、リコは随分とやる気のようで、彼女の積極的な面を見て目をまん丸にしていた。
「わかった。各学級の担任に報告して、手続きをしておくわ。先生から連絡があると思うので逃げないでください。では!」
扉が勢いよくしまって足音が去っていった。
「逃げません。」
リコはしまったドアに向かって呟いた。振り返り、リコはもじもじしていた。レンはリコのその行動を察して髭を触る。
「え、えーっと……オレと、ペアを組みたいってことデスヨネ。」
にっこりして手を握ってきた。こうしてレンも決闘に巻き込まれることとなった。
☆
サクラはかつかつとブーツの音を鳴らし廊下を歩いていた。
「あれは絶対できてる。本来アタシもパートナーを持って対抗しないとだけど……。うまくいかないわよね。」
レンとリコがすでにパートナーを結んでいると思ってサクラは一対一から二対二に変更にしたのだ。
サクラは運動に関してはリコより完全に上手である。決闘は的当てなどの単純なものではなく、魔法の撃ち合いである。魔法力だけでなく総合的な戦闘能力が必要となるので勝機はそこだと確信した。サクラは窓の方へ歩き、窓台に手を置いてため息をつく。
「レンくん……。せっかくキミのいる所を突き止めたのに……。アタシもレンくんと一緒に戦いたかったな……。」
サクラは魔法技術部に入った目的は、レンであった。
彼女はレンとカレンの戦いを観ていたヒトであり、レンの姿を見て、魔法技術部の部員であることを突き止めて入部したのだ。
サクラの願いは叶わない事がわかると、足は魔法競技部の方へと向いており、そこでペアを見つける算段である。パートナーにならなくてもある程度訓練して意思疎通が取れるようになれば、それだけでも十分な戦闘能力になる。
「でも、あんなギャイギャイ言ってる人の力を借りないといけないのかぁ……。」
サクラの足取りが重たくなったが、それでも決闘に勝つためと思い歩みを進めたのであった。
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