距離が少し縮まった!
倒れたリコを床で寝かすのも酷なような気がしてレンは彼女の身体を抱えた。
「よっ、と……けっこう軽い……。」
リコはレンより頭ひとつ分背が高く細身なのだが、体重は身長差を考えても軽かったので、簡単に持ち上げられた。
抱え方はお姫様抱っこと呼ばれる者だが、必死になっているレンには考えられなかった事である。
リコが魔道具を取り出した部屋に入ると作業台や作成途中の魔道具等がある作業部屋だった。
「ここにはベッドがないから、リコさんの部屋じゃないな……。」
食事室に戻りもう一つの部屋に行くと机や本棚、ベッドがあり、壁にかけている服からここが彼女の部屋だとわかると、ベッドに寝かせて布団をかけた。
「女の子の部屋って、いいにおいするな……。」
机を見ると設計図や魔導書が開かれた状態で置いてあった。設計図を見ると先ほどの魔法を特定する魔道具の設計図だった。
メモが書かれてあるところを見るとレンは驚く。
なんと『大好きなレン君のためにがんばってつくる!!』と書いてあったのだ。そのメモを見て顔どころか耳まで熱くなり、尻尾がパタパタと振られる。
「だ、大好きって……リコさんが、オレのこと……?」
動揺して頭を抱えて右往左往していると、リコが寝返りをし、目が開いた。それに気付いたレンは走ってリコの元へ駆け寄る。
「う、ん……?」
「あ……リコさん……め、目を覚ましましたか?」
「私……どうして部屋に……?」
「オレの魔法が暴走して、二人分の防御に魔法を使って魔力が尽きて気を失ったんだ。」
「……なんとなく、思い出しました。」
リコは目を擦りながら、背伸びをするとギョッとした表情をして尻尾がボッと膨らむ。
「――っ!み、見てはだめです!」
そういうと、リコは今までに見たことがない速さで素早く机のそばに置いてあった籠を抱えてUターンするとツルっと滑って転んだ。そして籠の中のものが散乱した。中には衣類が入っていたらしく、レンの目の前に落ちたものは薄紫色の女性用下着であった。レンはすぐに目を逸らし、後ろを向く。
「あ、あっちの部屋に行ってます!!」
レンはすぐに部屋を出て一息つくと、椅子に座った。机には壊れた魔道具がおかれてある。先ほどのことを忘れようと暴走した時のことを思い出していた。
「あの大量の紋章……いったい何が……。」
扉が開く音がし、そこを見るとリコが耳を垂らし、しっぽの毛が逆立った状態で出てきた。
「リコさ——」
「忘れてください。絶対に忘れてください!」
約束を破ろうならその場で消し炭にしてやるぞと言わんばかりの気迫だった。この気迫に魔力が乗るとレンは確実に怖じ気づく自信があった。しかし、今までに見たことのない彼女の姿を見られて嬉しくなっているレンもいた。しかし、ここは場を納めるために慎重に言葉を選ぶ。
「なにも!何も見ておりません!」
「……。それでいいです。そんなことよりもレン君。あなたの魔法が少しわかった気がします。」
リコはそう言いながら椅子へ座り壊れた魔道具に指をさした。
「この魔道具は解析の魔法が刻印されてはなく、発現した魔法を強制的に展開する【強制】の魔法が組み込まれたものなのです。」
【強制】は対象の持って生まれた魔法を無理やり発動させる付与術である。相手の意志に関係なく発動させられるので、悪用されやすい特徴がある。
良い使い方としては、魔力が多い空間だったり魔法が阻害される環境だったりの過酷な環境下でも【強制】の魔法での発動なら使えたりする。その場合は魔力の枯渇や暴走に気を付けなければならないという別の問題があるが、今回は暴走してしまった。
「これでレン君の魔法を発動した時に精霊と共鳴しました。」
「じゃ、じゃあオレも【召喚】の魔法ってこと?」
レンはワクワクした表情で聞くが、リコは横に首を振り否定した。リコと同じ魔法でなかった事にしょんぼりし、尻尾が悲しそうに垂れる。
「召喚魔法を発現していたら、同じ魔法同士……私の魔法と干渉して発動できません。共鳴した時レン君は他人の魔法、特に紋章に何か細工するものだと思いました。精霊もそれを察知してこちらへ来てくれました。そしてあの紋章の数です。」
リコは一瞬話すか悩んでいたが、いう事にしたのか、真剣な眼差しでレンを見る。
「あれは全て私の風の精霊魔法です。しかも攻撃用の。」
レンは身震いした。彼女の攻撃魔法は見たことなかったが、威力は魔力の保有量に比例するからだ。彼女の魔力は学園内でもトップクラス。そんな彼女の魔法が1度に数十個同時発動したらそれこそ町がなくなる。思わずそんな想像をしてしまう。
「暴走自体は土の精霊が収めましたが、私は魔法を一度に二つまでしか同時展開できません。今回で言うと風の精霊によるレン君を守る魔法と攻撃魔法が発動していたので、本来であれば土の精霊の防御魔法は発動できません。レン君の魔法がそれを可能にしたということは、レン君の魔法は人の紋章に細工を行って自分の魔法にして人に渡す……といった魔法。あるいは対象の同時使用できる紋章を制限なく重ねたりできて魔導の同時使用のできる『重ね掛け』や『乱れうち』のような魔法になります。」
レンはイマイチピンときていなかったが、自分の魔法がまず確認できたことがうれしく、尻尾を左右に振り目を輝かせた。
「乱れうち……かぁ……。」
「ですので、レン君の発明したあの石と魔法でこれからの成績もかなりよくなると思います。」
「リコさん、こんな危ないことなのに、どうしてここまでしてくれたの?」
「え?わたしの研究の助手をしてもらう代価にあなたの魔法の発現を手伝う約束しましたよ?随分と遅くなってしまい、申し訳ありません。」
「そう……だったけ?忘れてた……。」
頭を搔きながら照れ隠しをし、リコはそれを見て微笑んでいた。
「レン君のおかげで、私の研究がほぼ完成しました。」
そういうと壊れた魔道具を持ち、にこりと笑った。
「召喚魔法を誰にでも使える研究は頓挫しましたが、この研究……生得魔法の解析で進めていきます。まだまだ、課題は多いですが。レン君のおかげです。」
リコはレンに近づき、頬にキスした。獣人族の親愛のコミュニケーションであるこの行為はレンもわかっていたが、意識しすぎて体がこわばった。対するリコも緊張していたが、ニコッと笑って照れ隠しをしていた。外が少しずつ暗くなり、リコは生活用魔道具で家に光をともした。
「今日はもう暗くなるので帰ったほうがいいでしょう。」
「うん。リコさん、今日はありがとう。また明日、部活で……!」
「いえ、こちらこそありがとうございます。また明日。」
そういってリコの家を後にし、帰路に就いた。
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