腕利の魔法技術士!
レンはまだ明るい時間帯に町を歩くのが久しぶりでワクワクした気分で目的の店を探す。
「この通りはよく通るけど『いぬの工房』なんて聞いたことないな。」
魔道具屋、工房が立ち並んでいる通りではあるが、表通りにはなく、どうやら路地の中にあるようだった。路地は通りに比べると狭い。ヒトが3人ほど並ぶとぎゅうぎゅうである。1刻ほど歩き回ったが見つからず途方に暮れていた。とぼとぼ歩いていると足音がしたので振り返ると二人の男性獣人が立っていた。
「おいおい、こんなところに学園の生徒がいるぜ。」
「へへへ……こいつを売ったらいくらになりやすかねぇ……!」
(こいつら…人身売買か…!)
二人はハイエナの獣人で屈強な体格の男と太って笑顔が不気味な男だ。太った獣人の嫌な笑顔を見てレンは身震いをした。昨日司書から聞いていた野狐族に売られた妖狐の話を思い出し、身構えた。いつでも攻撃に対応できるよう魔力を漲らせようとすると、ほとんど魔力が出なかった。
(しまった……!さっきの実験で魔力がなかったんだ……逃げるしかない!)
レンは残り僅かな魔力を地面に投げて砂埃を起こし逃げた。レンは自分が強くないことを理解しているので一目散に逃げた。
(訓練とは違うんだ!コイツらには絶対捕まってはいけない……!表通りまで走り抜けて助けを求めれば……!)
しかし、背後から強烈な圧力がレンを吹き飛ばし、建物の壁に激突した。頭を打ち視界がぐるぐる回り、立ち上がることができなかった。そのままレンはハイエナの屈強な方の男に首をつかまれ、持ち上げられた。首が締まって呼吸ができず、空中に浮いているのもありレンは抵抗することができなかった。
「生意気に砂埃で目隠ししようなんて、さすが学園の生徒だな。でもな、お前は所詮その程度なんだよ。わかるか?」
「もう一発ぶち込んだら楽に仕事できそうできそうでやんすねぇ。」
太った獣人が詠唱を始め、レンは歯を食いしばり衝撃に備えた。
「『大気の塊よ、わが敵に――んぐぅ!?』」
詠唱より早く男性二人を吹き飛ばし、レンは地面に転がる。もうろうとする意識の中、一人の獣人によって二人の獣人は横に吹き飛び壁に張り付けられた。というよりめり込んでいた。
「人んちの裏でよく人身売買なんてできるね。お~い君、大丈夫かい?」
「は……い……」
レンは安堵して気を失った。
☆
レンが目を覚ますとそこには魔道具がたくさんあった。一瞬部室かと思ったが、火のにおいがしたので違うと確信した。
「ここは……いっ!!」
起き上がろうとすると全身がひどく痛み、起き上がれなかった。ため息をつき、状況を整理した。工房を探して裏路地に入ったが、人身売買の男に襲われてやられたところまでは覚えているが、答えは出てこなかった。しばらく天井を眺めていると足音がした。
大きな垂れ耳の犬族の男性で、全身がクリーム色の長毛で覆われている。作務衣の上に革のエプロンをしており、頭にはゴーグル付きの額当て、手には革製の籠手、足はレンたちの制服のブーツより強度の高いものを履いていた。
レンの知識で分かる程のお手本のような格好をした魔法技術士であった。もちろんこの様にキッチリした装備をする魔法技術士は少ない。このヒトは大型の魔道具を作ったり、性能の高い魔道具を作ったりするすごいヒトだとレンは感じた。
「お?起きた起きた。」
「あ、あなたは……?」
「オイラは「ポチお」。まあ、訳があって本名じゃないんだけどね。」
「調査隊の……写真の人……」
「そうだよー」
と言いながら部屋の奥に入っていき、すぐに戻ってきた。片手には細長い魔道具が握られていた。それをレンにかざして短く詠唱した。
「『傷を癒せ』」
レンの周りに光が包むと体の痛みがみるみる引いていった。その代わりに魔道具は砕けた。
「ありゃ、やっぱり一回ぽっきりだな。」
「すみません。貴重なものだったのにオレなんかに使ってしまって。」
「ええの、ええの。生活魔道具に無理やりねじ込ませたからこうなるのよ。」
ポチおはそう言ってバラバラになった魔道具を片づけを始めた。
「そういや、君は学園の子だよね?どうして路地に入っていたの?」
「それは……学園にある魔道具に『いぬの工房』と書いてありまして——」
「ここ。『いぬの工房』はここだよ。」
食い気味に言われたのもあり、レンは硬直した。
「ってことは『結合』の魔道具だね。ウチはそれ専門だし。」
「あ、あの!オレの作品を見てください!」
腰袋から試作品を取り出し、それを渡した。それをしばらく眺めたり、光に当てたり、魔力反応を調べていた。
確認が終わるとレンに返し、口を開いた。
「最近の学園の生徒なかなかやるね。うーん、紋章を封印する機能があるのか。でも容量が少ないかも。」
ポチおというヒトはレンから何も説明を受けていないのだが、レンの制作物の特徴をすべて言い当てた。レンはプロというものを実感し、感動していたが本題に戻ることにした。
「あの……部員に言われたのですが、魔法そのものを封印する魔道具との差別化が課題で……。」
「ん?あれは即時発動でこっちは任意発動型でしょ?十分差別化できてるじゃん。」
「い、いや……すぐに発動できないので不要なのかなって……。」
「いやいや、発動待機型は戦闘にはかなり向いているよ。容量の問題さえ解決したら、戦闘演習項目がガラッと変わるかも。」
レンはポチおの言っていることがわからなかった。
今の戦闘はかなり高速化が進んでいた。この世界には魔獣や魔物と呼ばれる生物が襲来することがあり、突然遭遇した時に即時戦闘に入る必要がある。その中で、戦闘用魔道具は即時発動ができるので牽制で打つのに持って来いなのだ。
それなのにポチおは遅くても良いというのだから混乱した。レンが腑に落ちないという顔をしているとポチおが真剣な眼差しで見つめてきた。
「それはね、キミたちにはまだわからないかもだけど、『ニンゲン』と戦うためだよ。」
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