調査隊のシャシン!
レンとリコは比較的近いはずだった図書室にやっとの思いで到着した。
レンが熊族の男子生徒に殴られるという暴力事件に巻き込まれ、窓から見える外は若干暗くなっていた。
図書室の中に入るとレンは周囲を見渡し、司書を探したが見当たらなかった。
「連れていきたいというのはここだったのですか?」
「うん、ここならリコさんの魔法について詳しく知られると思ってね」。
「ふぉふぉふぉ、リコよ、おぬしはやっとパートナーを見つけたのか?」
レンは後ろから突然現れた司書にビックリして飛び上がる。リコはその様子を見てクスッと笑っていた。
彼女は司書が近づいているのを知っており、あえて言わなかったのだ。レンが目を合わせるとフイッと目を逸らすので彼女はとてもイタズラが好きなのかもしれないと思った。
「やはり老師様でしたか。どうしてこちらに?あとレン君はまだパートナーではありません。」
リコに即答されてレンは少ししょんぼりした。どうやらリコと司書は知り合いだったようだ。
「わしはここの司書もやっておるからのぅ。いったい何の用じゃ?」
「カレンさんに会ってリコさんの召喚術について聞きたいです。」
カレンという名前を出すと、リコはあからさまにレンに対してヤキモチを妬いているのか睨んでいた。そして頬もぷくりと膨れていた。
「それならじゃじゃに訊くより、うってつけのやつが学園におるぞぃ。」
「その方はどちらにいらっしゃるのですか?」
「今から呼ぶから、そこで待っておれ。」
司書がそういうと奥の部屋に入り話し声が聞こえた。
「老師様ってリコと司書は知り合いだったの?」
レンは疑問に思っていたことを聞いてみた。リコは頷くと腰袋からブローチのようなものを取り出した。この世界では珍しく銅を使ったものである。
「私の家庭教師のような方です。四歳くらいから二年ほど魔法についてを学ばせてもらったのです。」
「それでリコさんの魔力はそんなにすごくなったんだね。」
「いえ、この魔力は生まれつきのものですよ。」
レンは生まれつき膨大な魔力を持っていたリコに驚いていると、司書のいる部屋から笑い声が聞こえた。
「通信用魔道具で呼んでいるのかな?」
「そうですね。学園は広いですからね。」
この学園の敷地は山も含まれており、かなり広大である。外周を歩くと一周するのに二日はかかるのだ。
レンの住んでいる町ですら一周するのに半日あれば回ることができる。その敷地半分くらいは学園の建物が占めている。
話がついたらしく司書が戻ってきた。
「どうやら生徒の中に暴徒が出て対処をしていたようじゃ。半刻ほどで来ると言っておったから、わしの部屋で茶でもしながら待とう。」
そういうと司書は部屋に入っていった。
二人は心当たりがある、というより当事者だったため顔を合わせる。
「生徒の中に暴徒って……。」
「私たちの事ですね……。」
二人は苦笑いを浮かべながら司書の部屋に入った。
司書の部屋は整頓されており魔法技術部の部室とは大違いだった。部屋には魔導書や古文書だと思われる本がぎっちり埋まった本棚に囲まれ、風の魔法で空気を循環する魔道具があった。恐らく湿気で本が傷まないようにする為の処置だと思われる。
部屋を見渡していると壁にはいろんな獣人が集まっている絵のようなものがあった。それは実際そこにいるようなとても精巧な絵であった。
「ふぉふぉふぉ、その『シャシン』が気になるのかのぅ?」
「あ、すごく綺麗な絵画かと思っていました。『シャシン』というのは?」
そう尋ねると、司書は「よっこらせ」と言いながら四角い箱に水晶が埋められている魔道具のようなものを取り出した。
「この魔道具……オーパーツなんじゃが、ここにある水晶を写したいものに向けてボタンを押すと下から出てくるのじゃ。」
「オーパーツということはこの世界のものではないということですね。」
「そういうことじゃ。これはこの世界の王と女王、優秀な技術者による調査隊が見つけたものじゃ。調査隊の中に使い方がわかるものがおっての、その時のもんなのじゃ。みんな若いのぅ。」
お茶をすすり、懐かしみながら語っていた。調査隊は現在の調査師団とは違い各上級職が集まり、地底世界の未開の地を調査する隊のことである。
調査師団は地底世界の調査がメインだが、調査隊は地上世界への調査をする。噂によると地上世界へ近づくほど魔獣たちは強力な個体が多くなる傾向であり、調査師団では歯が立たない。
調査隊は各上級職の集まりなので戦闘が得意なものが多いが、それでも苦戦を強いられることもある。
そんな中なぜ地上へ調査しているのかというと、地上から湧いてくるものを収集し、持ち帰るのが主な任務である。そこで手に入れたものを魔法技術士に提供し、改造や解析して模造品を作って生活品や軍事品を開発する。そして開発したものを宮廷魔術師、近衛師団や国民の生活に役立てている。
今ここにあるものはこの箱についている水晶体を写したいものに向けて、上部にあるボタンを押すことで紙に再現するというもの。しかも写されたものはかなり再現度が高い。現代の知識や技術ではこういったものを魔道具ではまだ再現できた事例もない。それ故にオーパーツと呼ばれている。
「女王は妖狐なのですね。あと、もう一人妖狐がいますね。」
「そうじゃな。この二人は親子での、娘のほうが召喚術師じゃよ。」
「この方が来られるのであれば私は帰ります。」
「リコさん!?」
「レン君せっかく私のためにここまでしてくれたのにごめんなさい。」
リコは突然席を立ち扉のほうに歩いて行った。ちらりと見えたその顔はとても曇った表情をしていた。
いつもありがとうございます!
『良かった!』
『面白かった!』
『続きを見たい!』
と思って貰えましたら、
お話の下にあります
☆☆☆☆☆
から作品への応援をお願いいたします。
面白かったと思ったら☆を5つ
つまらないと思ったら☆を1つ
正直に伝えていただけると今後の作品にしっかりと反映していきたいのでよろしくお願いします。
また、ブックマークも頂けるととても嬉しいです!
ここまでお読みいただき、誠にありがとうございました。
何卒よろしくお願いいたします。