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第19話 初めての異世界飯


「おお~これはすごいな!」


 城門を通り抜け、街に足を踏み入れると、そこにはまさに異世界という景色が広がっていた。


 大勢の人たちやたくさんの馬車が行き交う広々とした道。道を歩く人たちも旅人や商人、冒険者などといった様々な格好をしており、頭からケモミミを生やした獣人や背の低く髭面のドワーフのような種族までいた。


 道の横には多くの露店が並び、食料品から骨董品、武器に至るまで様々なものが売られている。元の世界で見てきたファンタジーの世界が現実になって目の前にあるのだ。


「この街はアグバードの街というらしいね。僕がいたデルバジル王国とは別の国のようで少しほっとしたよ」


 どうやらこの街はフィアナがいた国とは別の国らしいな。まあ勇者を辞めた手前、知っている街には行きたくないのだろう。


「ふむ、言葉も問題なく通じる国のようでよかったのう」


「ああ、確かにな」


 この世界では魔族も人族も含めて、大半が共通語という言語を使ってはいるが、逆を言えば一部は別の言語を使っているということである。たぶん俺は他の人の言葉が理解できるが、フィアナとロザリーは共通語しか話せない。


「さて、どうやらこの通貨が使える街だったみたいだし、市場へ行ってみよう」


 俺の懐にはこちらの世界のお金の入った財布がある。ストアの能力ではポイントでこちらの通貨に変換することが可能だ。ただし、すべての通貨ではなく、この世界で一番使用されているこの通貨だけである。


 もしもこの通貨が使用できない国であったら、最初に手数料を支払って換金しなければならなかった。だが、この街ではこの通貨がそのまま使用できるようなのでラッキーだったな。




「へえ~市場も賑わっているな」


「確かにこれはすごい人ですね」


 人に道を聞きつつ、この街で一番大きな市場のある場所へとやってきた。フィアナに聞いたところ、この街はそこそこの大きさの街のようだ。それでもこれだけの人がいるということは、もっと大きな街の市場はもっとすごいんだろうな。


「うっ……」


「おい、ロザリー。どうした、大丈夫か?」


 一緒に歩いていたロザリーが急にうずくまってしまった。


「ちょっと人に酔ったようじゃ……なにせこれだけの大勢の人を見るのは久しぶりでのう……」


「……ちょっとあのあたりで休憩しよう」


 どうやら20年ヒキニートだったロザリーにとって、この人波は厳しかったらしい。すでに幸先不安なのだが大丈夫だろうか……


「よし、もう大丈夫なのじゃ!」


「無理はしなくてもいいからな。きつかったら休んでもいいし、無理をせず言うんだぞ」


「うむ、感謝するぞ!」


「……ヒトヨシさんってロザリーには甘くない?」


「……やはりヒトヨシ様はロリコンなのでしょうね」


「こらそこ、聞こえているぞ!」


 だから人を勝手にロリコン認定しようとするな! ロザリーだけじゃなくて2人の体調が悪くても心配するっての。うちの温泉宿は従業員に優しいホワイトな職場を目指しております。




「なるほど、これで物の大体の値段はわかったな」


 市場をざっと回って物の値段やどれくらいの文明レベルなのかはある程度確認できた。そのほとんどが事前にポエルとフィアナから聞いていた程度だったのでほっと胸をなでおろす。


「それじゃあ、昼ご飯はこの辺りの屋台で食べよう。いくつか買ってみんなでわけてみようか」


 どこかのお店に入っても良いのだが、せっかくなら市場に出ている屋台の食べ歩きもいいものである。初めて来た街の屋台街ならなおのことだ。


「ヒトヨシさん、こっちのほうにおいしそうな串焼きが売っていたよ」


「あっちにうまそうな麺料理があったぞ」


「そちらにはおいしそうなスープが売っておりましたね」


 どうやらみんなも街の市場にやってきてテンションが上がっているらしい。まあみんな普段はこんな屋台街にくることはないのだろう。屋台の食事は銅貨8枚、日本円にすると800円くらいのものが多いので、いくつか買ってみるとしよう。





「「「………………」」」


 屋台街には木製のテーブルと椅子がいくつか設置してあり、そこで買ったものを食べることができるようになっていた。そして目の前には様々な屋台で購入してきた料理が並んでいるのだが……


「あまりおいしくないのじゃ……」


「いや、これが普通くらいの食事なんだよ。昨日のヒトヨシさんが作ってくれた晩ご飯や今日の朝ごはんがおいしすぎたんだよ」


 そう、この街の屋台で購入してきた料理の味はそれほどおいしいとは言い難いものであった。


「串焼きとかは結構おいしいんだけどね……」


 屋台で購入してきたものは串焼き、焼きそばのような麺料理、肉と野菜の入ったスープ、塩漬けの魚、豆の粥だ。しかし正直に言うと、そのどれもが微妙な味だった。食べられないとまでは言わないが、おいしいとは決して言えない味だったな。


 唯一魔物の肉の串焼きがギリギリおいしいといえるくらいだった。基本的に肉には臭みが少し残っているし、味が塩味しかないのでちょっと微妙だ。そういえば市場で見た時に臭みを消したりする香辛料とかは結構なお値段がしたもんな……


「エールも香りは良いのですが、それだけですね」


 そう、参考のためにエールも一杯ずつ購入したのだが、こちらも微妙であった。やはりこの街のビールはエールビールで、麦の香りはストアで購入したラガービールよりも良いのだが、雑味が多くてあまりおいしくなかった。


 そして何より冷えたビールに慣れている俺にとって、ぬるいビールは微妙すきだたな。


 初めての異世界飯はなんとも微妙な結果で終わってしまった。

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キャンプ場
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