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精霊王の優雅な悪役令嬢生活  作者: 泉 太月
攻略対象3人目、宰相
46/47

44.ただの八つ当たり

誤字報告ありがとうございます!

凄く助かりました!




「体罰」というものと「虐待」というものの区別はどこになるだろうか。

その問いを投げた時に、すんなりと答えることの出来る大人はどれほどいるだろう。


子供を虐げる理由は様々で、そしてその方法も多種多様だ。

だがその虐げていたという事実が悪いことだという認識は「体罰」でも「虐待」でも理解している。

理解しているから隠そうとする。

隠さなければ自身の立場が悪くなると、分かっていることをしている。

それなのに「やめなければ」という認識が薄い者が多い。

そしてタチの悪い者になると、いかに周囲にバレないように子供を虐げるかという知恵をつけだすのだ。

このダンダルのように。


ダンダルは小刻みに全身を震わせていた。

顔色は悪く、唇をかみ締めてレンシィを凝視している。

そんな彼に、レンシィはにっこりと笑って見せた。

それは決して好意的なものでは無いと、ダンダルは感じ取れないほど鈍くはなかった。


「もしもバレても、クロノスの指導の一環だと言えば確かに言い逃れできますわ。使っているものも酷い傷を負わせるものではなく鞭ですものね。時間が経てば綺麗に治るほどに浅い傷しか付けられませんもの。音だけは派手ですから、それを強調して教えこんでいたとでも付け加えるなら余計に周囲は何も言えなくなるでしょう。とは言っても中には子供を傷つけることを良しとしない親もおりますから、そのために親の信頼を何より取りに行かれてたんでしょう? 親の前では、優しい良い先生に見えるように」


まるで全てを見てきたかのように語る少女に、ダンダルは信じられないとばかりに息を飲んだ。


「なぜこんなことをしているんですの? まぁ理由なんて大した問題ではありませんけれど」

「……私は……」


しばらく黙り込んでいたダンダルが、一度だけきつく唇を噛むとレンシィをギリッとを睨みつけた。


「私はエリートなんだ! アカデミーでも上位10位以内に入っていた! 本来なら王立アカデミーで教鞭を取るべき者であるはずなのに! こんな底辺のガヴァネスなど! 誰が望むものか!」


縛られたままでなお立ち上がろうともがくダンダルは、バランスを崩しながらも何とか立ち上がり足を踏み鳴らす。

それでも床はなんの反応をしなかった。

ダンダルはその事実に更に絶望を湛えた表情となる。

その姿は、今にも泣き出してしまいそうな幼子のようだ。


「それならなぜ家庭教師(ガヴァネス)になったのです? 王立アカデミーの教師の試験を受ければよろしかったのでは?」

「私だって受けたかった! 受けるつもりだった! 受ければ確実に合格したというのに!」


喉がちぎれそうな程の声だ。

腹の底から吐き出すかのように嗚咽を多分に含んでいる。

同情心など全く浮かばない嗚咽を。


「それなのに! 私が半分庶民の血が混ざっているという理由だけで! 父様が認めなかったのだ!」


ダンダルの言葉にレンシィが即座に納得してしまったのは、大なり小なり貴族社会の身分第一主義をよく分かっているからだ。

レンシィとしてはあまり表舞台に出たことは無いが、精霊王だった時代には人間たちの様子を見ることもあった。

その中でも、貴族というものがどれほど厄介かを知っている。

レンシィの父親はどうやら違うようだが、選民意識を持つ者が多いのだ。

ダンダルの父親も、そういった貴族なのだろう。


「アカデミー教師の受験は貴族の出であることと実家の推薦が必要不可欠だというのに! あいつは自身が平民の出であった下働きの母に手を出しておきながら! 私のことを認めないと言ったのだ! 私が平民の腹から産まれたから! ダンダル家の名前を使わせて王立アカデミー教師を受験することは許せないとな!」


王立アカデミーは貴族の15歳となる歳の子供たちが3年間通う学校であり、王都に1つしか存在しない学校だ。

まさにそれはレイ・グランディウス学園のことであり、将来レンシィたちも通うことになるであろう学園となる。

貴族の子供たちは全て1度はこの学園に通うこととなり、基礎的な勉学から魔法などの応用を学んでいくのだ。

貴族専用の学園であるが故に、学園の中はちょっとした小さな貴族社会のようになっていた。

その中で重要視されるのは家柄と成績。

しかしいくら成績が良くとも、家柄が低ければ周囲から受け入れてもらうのは難しい。

更に言うならば、出自が貴族の血筋でないもの、その家の当主から認めらていない者の風当たりは特に酷かった。


「どんなに努力しても、どんなにいい成績を納めても認められない! その立場の気持ちをお前は理解できるのか!?」

「だからといって家庭教師として受け持った子供たちを虐待していいわけにはなりませんわ」

「うるさい! あいつらは大した頭も無いくせに家柄が良いというだけで認められているんだ! 平民の血が混じらない純粋な貴族の産まれだからと言うだけで優遇されている! 頭は悪い癖に! 産まれだ場所が違うだけでこの理不尽だ! そんな甘やかされた将来も約束されている貴族のガキ共に現実を教えてやって何が悪い!!」


ダンダルは許せなかった。

自分はどれほど努力しても父親が振り向いてくれることは無かった。

母親はそんな自分を見ていつも泣いていた。

家を継ぐのは当主と正妻との間にできた義兄で、事業の手伝いを指名されたのも正妻の子である義弟で。

自分が欲しくて仕方ないものを、貴族の純粋な血の持ち主だからという理由だけで簡単に手に入れていく子供たちがいて。

そんな、なんの苦労も知らない子供たちが憎くて憎くて仕方なかった。

だから。


「あいつらは当然の報いを得ただけだ! 人生の厳しさと痛みを教えてやっただけだ! 私は教師だからな! 馬鹿で愚かな貴族のガキどもなんて家畜のように鞭で打つ程度がちょうどいいのだよ!」


そう叫び、ダンダルは狂ったように笑いだした。

未だ拘束されたままの体など気にもせず。

それをレンシィたち3人はじっと見つめていた。

いつまでもその空間を支配し続けるかと思ったダンダルの叫び笑い声は、しかし次の瞬間ピタリと止んだのだ。


他でもない、新たな人物の登場によって。


「どういうことなの? 今の話は」


皆の視線が驚愕と共にドアへと向かう。

ダンダルは特に、これ以上できないと言わんばかりに目を見開いて愕然とした。

そしてドアの前に立ち尽くす人物を呼んだのだ。


「……ふ……夫人……」

「…………お母様……」


続いてクロノスが微かに呟く声が、やけにダンダルの耳の奥へ残った。








読んでくださってありがとうございました。

少しでも楽しんでいただけていましたら幸いです。

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