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精霊王の優雅な悪役令嬢生活  作者: 泉 太月
攻略対象3人目、宰相
41/47

39.さぁお仕置きの時間です

誤字脱字報告ありがとうございます!

とっても助かります!申し訳ありません!





ディナーの時間までは、まだ相当間がある。

エバは再び領地を巡らなければいけないため、昼食後のティータイムを楽しんだ後はすぐに席を立った。

その後ろを、クロノスも慌ててついていく。

自分の後ろを少し急ぎ足で着いてくるクロノスに、仕方がないとは分かっていても、申し訳なさでいっぱいだった。

元夫がいた時には彼に全てを任せ切りだったために、エバはずっとクロノスと共にいることが出来た。

その代わり、領地経営はボロボロにされていたのだ。

彼が自身の懐へと忍ばせ、それを一部愛人に貢ぎ込んでいたという事実には腸が煮えくり返る。

そんな彼を追い出し、断罪したのだから代わりにエバは将来跡を継ぐことになるであろうクロノスのために、少しでも領地を回復させ、更には出来れば発展させたいと願っていた。

そうして願っているだけでは何も叶わないので、こうやってとにかく一日でも早く落ち着かせようと走り回っているのだ。

しかしそのせいで今度はクロノスとの時間が取れない。

まだ9歳になったばかりのクロノスには、母親の不在は寂しさを覚えさせることは十分に分かっているというのに。


「ごめんね、クロノス。いつも寂しい思いをさせてるわ」

「いえ、お母様…それは仕方ないと分かってます……あの……」


クロノスの雰囲気から、エバはクロノスが離れたくないと思っていることは感じとっていた。

だがその理由までは察することは出来ない。

対するクロノスも、話せばダンダルの言う通り母親から呆れられるかもしれないと思うと口が重くなる。

結果、母を見送ってしまうその時まで、クロノスは口を閉じたり開いたりを繰り返しながらも一言も告げることは出来なかった。


「じゃあ行ってくるわね、クロノス。いい子でいてね」

「…………はい」


手を振り馬車を見送ったクロノスの後ろに、ダンダルが黙って立つ。

それだけで、体中が緊張する程だったというのに。


「良かったですね、クロノス様。今日はいつもより長い時間、授業をしてあげられますよ。なにせディナーをテーブルマナーの時間として頂けたのですから」

「……………………」

「まずは今まで教えたことの全てのおさらいといきましょうか。優秀な(・・・)ニルヴァーナ家の当主となる方なのですから、当然ひとつの間違いもなく完璧に身につけておられますよね?」

「………………」


部屋へと戻るよう誘導するようにクロノスの背中を軽く押す。

その姿は使用人たちの前ではごく普通の教師の姿に見えた。

クロノスが怯えていなければの話だが。


「部屋に戻ったら、その成果をたっぷり見れると思うと光栄ですよ、次期当主?」


ダンダルの含みをたっぷり乗せた言葉に、クロノスはただただ俯いていた。








小さな精霊がようやく自身の愛しい子の元へと戻ってきたのは、グロウレン公爵家から飛び立って数時間後だ。

精霊に体力の限界などないため、飛び続けたとしても疲れを感じたりはしないが、それでも感情はもちあわせており精神的な負荷は当然ながら負う。

しかも今回は自身が加護を与えた子供が悪いことをしているのだ。

そんな状態では気持ちが不安定になるのは当然で。

今はどこにいるのかと気配を探ってみれば、予定よりも早い時間だというのにニルヴァーナ家の邸宅へ訪れているらしい。

ならばいつものようにあの幼い子供を虐げているのでは、と焦り、慌てて気配を手繰りながらその場へと向かう。

締め切られたドアなどものともせず、小さな精霊は部屋の中へと飛び込んだ。

瞬間、バチィ! と音が響く。

同時に甲高い、しかし小さな悲鳴が聞こえた。

またあの幼い子供を、愛しい子が鞭で叩いているのだ。


ダンダルが何かを叫んでいる。

口汚い言葉だろうが、小さな精霊にはその言葉は理解できない。聞きたくもない。


やめて。


両手で顔を覆いたくなる光景。

耳を塞ぎたくなる悲鳴と鞭の音。

そして精霊たちが何よりも嫌い、苦痛を覚える、他者を傷つけて喜びを感じる感情。


やめて。


それらを前にし、小さな土の下位精霊は我慢が出来なくなり叫んだ。

どんなに叫んでも、愛しい子にはこの声は届かない。

ならば。


『やめて! レンシィ様助けて!』


自分たちの史上の存在に希うしか残された方法はない。

そう思い、力の限り叫んだ。


瞬間、その空間にピシッという何かがひび割れた時のような音が大きく鳴った。


「あ? なんだ? 今の音は」


ダンダルにも聞こえたのだろう。鞭を振り上げたその腕を中途半端に止め、周りをキョロキョロと見回す。

責め苦が止まったクロノスは、緊張していた身体から力が抜けてゆるゆると座り込んだ。

そんなクロノスに更に注意をしようと口を大きく開いたところで、ダンダルの顔が固まった。


目の前の空間が2メートルほど裂ける、なんていう、意味の分からない状況が目に飛び込んできたからだ。


「………………は?」


その〝空間の割れ目〟から、4本の指が出てきてその端を掴んだ。

更に力を込めたようで何も無い空中を(・・・・・・・)指でグッと掴み、その割れ目から顔を覗かせたのは。


『……レンシィ様ぁ』

「な!?なんですか貴方は!!」


幼い少女だった。





読んで下さってありがとうございました!

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