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異世界ニルヴァーナの物語

ちょっとお馬鹿な姉のドタバタ看病譚

作者: HOT-T

シリーズがたくさんあり時系列が分かりにくいですが

 今回メインの二人が登場する作品をピックアップすると

 

 星歴1238年 何かおかしな婚約破棄 メール19歳 リム18歳

 星歴1241年 アリスとエミールⅢ メール22歳 リム21歳


 となっており本作は星歴1237年。

 この時期はまだ姉達が結婚しちゃりしていないので全員が家にいる状態です。

 その日の朝、レム家の末娘リムは倦怠感を覚えながら朝食を摂っていた。

 今日は姉達も仕事が休みだったりで全員家にいる。

 対して親達は何かしらの用事で朝早くから出かけており不在であった。


「リム。あんた何だか顔色が悪いようだけど」


 長女ケイトの言葉に対しての反応もどこか鈍かった。


「そ、そうですか。確かにちょっとフラフラしますが……」


 長男のホマレが近づき手を当て、声を上げた。


「おいおい、お前これ熱が出てるじゃないか。風邪をひいているんじゃないのか!?」


「そんな……私が風邪をひくなんて」


「そりゃ生き物なんだから風邪くらいひくだろう。今日は病院も休みの日だし……とりあえず横になって姉さん達にヒーリングでもかけてもらって休んでろ」


 弟の言葉に簡単なヒーリングが使える長女と次女が頷く。


「ヒーラーである私がヒーリングをかけてもらう立場になるとは……お姉さま方、申し訳ありません」


 がくりと肩を落とす末妹。

 これはしっかりと休息を取らせる必要があると皆が思っていた。

 だがそこへそんな事は知らずとやってくる者が居た。


「おはようリム!ねぇねぇ、模擬試合しようよ!!!」


 それはきょうだいで一番活発な四女メールであった。

 彼女はいつもしている様に妹の背中を力いっぱい叩く。


「ぐえっ!」


 机に突っ伏す妹を見てメールは目を丸くした。


「え、一撃で決着?リムどうしたの?大丈夫!?」


「あのな、メール。リムは風邪をひいて調子が悪いんだ。つまり、わかるか?」


 メールは兄の言葉を何度か復唱しながら考える。


「ええっ!?それってもしかしてリムが風邪ひいてる!?」


「さっきからお兄さまがそう言っているじゃないですか…………」


 この家の子ども達は基本的に頭がいい。

 その中で、メールだけは例外なのだ。

 彼女は学校に通っていた時に赤点を連発して留年。最終的に卒業は叶わず退学している。

 

 学力ランキングをきょうだい内で作った場合、ワースト順で次点となるのは三女のアリスだがそもそも彼女は長女・次女と共に名門校に中途編入されている上、何なら赤点など一切取らずに卒業している。

 長女と次女が賢いので見劣りしがちだが三女も十分に優秀なのだ。

 つまりメールはこの家でぶっちぎりに学力が低いという事になる。


「大変だよ!すぐに横になって休まなきゃ!!」


「……そのつもりだったのに背後から不意打ちを食らわせたのは誰ですの?」


「あたしの妹に不意打ちを食らわせたのは誰だぁっ!?」


 全員が一斉に四女を指さした。

 

「ああっ!そ、そうだ。あたしだった……と、ともかくリムを寝かしつけないと!!」


 メールは末妹をお姫様抱っこすると本人の抗議も無視して2階へと駆け上がって行った。

 流石、総合フィジカルはきょうだい随一である。


「一応、あの娘もお姉ちゃんとしての自覚はあるのね」


「うぇぇ、大丈夫かな。何か嫌な予感しかしないんだけど」


 長女と三女が顔を見合わせため息をつく。

 一方の長男はと言うと……


「こうしてはいられん。リムの為に栄養のある食べ物やらを買い漁って来なくては」


「……あんたに任せるとガチで買い漁りそうだから私がついて行った方が良さそうね」


 次女が呆れながら立ちあがる。


「おおっ!リリィ姉さんとデートだと!?」


「あんた、そのシスコンぶりをそろそろどうにかなさい。でないと彼女出来ないわよ」


「俺の姉さん達への愛は永遠だからな。他の女に注ぐ愛は無いっ!!」


「はぁ、アリス。こいつどうにかして」


 長男と母親が同じ三女に話を振るが彼女は『処置ナシ』と首を横に振る。



 ベッドに横たわったリムはため息をつく。

 まさか風邪をひいて寝込むだなんて情けない。

 とりあえず目を瞑ってゆっくりと休んで……


「リム!看病に来たよ!!」


 ひとつ上の姉が睡眠を邪魔しに来た。

 桶に水を汲んできてタオルを用意していた。


「とりあえず熱っぽいのを冷やさなきゃね。任せて!まずはこの水に浸したタオルを絞って……」


 力いっぱい絞る事で大量の水が桶へと戻っていく。


「あの……、何か水分全て絞り切ってる気がしますが……」


「ああっ!?力入れ過ぎた!!ちょっと待って、やり直すから……」


 慌ててタオルを濡らした姉は今度はかなり力を緩め、それを妹の額に置くが……


「あぶはっ、水がっ!こ、今度はほとんど絞れていません!!顔が、寝間着がびしょびしょに!!」


「うわぁぁ、た、大変だ。このままじゃ風邪がひどくなる。その服脱がないと!!」


 メールは慌てて妹の寝間着を脱がせにかかる。


「お待ちなさい!!何かこれ私が襲われてる様なあれに見えなくありません!?これくらい自分で脱げますから!!」


「もう、君達ったら何を騒いでる……の!?」


 様子を見に来た三女は目の前の光景を目にして言葉を失い。


「あー、うん。そうか。なるほど」


「アリス姉様!?違うのですわ!これはこのバカが……」


「いや、わかってるから。大丈夫。まあ、その……あんまり大きな声を出さない様に、ね?」


 全くわかってないのだが三女は『わかってるから』といった顔で扉を閉めた。

 そして『よし、飲みに行こう』とその場を後にしたのだった。


「こ、このバカ姉!完全にアリス姉様に誤解されましたわよ!!」


「ご、誤解って何を!?」


「そ、それはあれですわ。私とあなたがその……恋愛関係にあって事に及ぼうとしている最中だったとかそういうあれですわ」


「えぇっ!?ちょ、それはダメだよ!あたし達ってまだ未成年だよ!?」


「この大バカ!!問題はそこじゃない!!」


「と、とりあえず。着替えないと。あたしが着替え探す間は……そ、そうだ。あたしの服を着て」


「バカですの!?何で今着ている服を脱ごうとしてるのですか!?身長だって大きく違うというのに」


「あんた達、何をギャーギャー騒いで………!?」


 買い物から帰ってきた直後であろう次女が扉を開ける。

 視界に飛び込んできたのは寝間着の前をはだけた末妹と自分の服を脱ぎかけている四女。

 次女は絶句して立ち尽くしていた。

 そこへ長女もやってきて部屋の中を確認。

 そのまま無言で扉を閉めるとヘアピンを使って外から鍵をかけた。

 そして次女の背中を押しながらその場を後にしたのだ。


「ねぇリリィ。美味しいケーキ屋さん見つけたんだけど行こっか。おごってあげる」


「ん。ありがとう……」

 

 一方部屋の中では……

 

「あぁっ、ケイト姉さまとリリィ姉様にまで誤解されたぁぁ……」


 だが災難はさらに続く。


「おーい、リム。入るぞ?」


 部屋の外から聞こえるのは長男の声。

 いくら血の繋がったきょうだいとはいえ、この格好を異性に見られたら色々終わる。


「あ、兄ちゃんだ。今開け……」


 そんな事を少しも考えない姉を末妹は羽交い絞めにして口も塞ぐ。

 何が何でも開けさせるわけにはいかない。


「寝てるのか。そうか、それじゃあ仕方ないな……」


 遠ざかっていく足音を聞いてリムはほっと胸をなでおろした。

 兄に最低限のデリカシーがあって助かった。

 そして……


「このバカ姉!あなたのおかげで余計な体力を……体力……はふっ」


 力尽きてベッドの上に倒れ込んでしまい意識を失った。


「ああっ!?リムっ!!?」


□□


 次に目を覚ました時、リムの視界に最初に飛び込んできたのはやはり姉、メールの姿だった。


「あ、リム!気づいた?」


「…………まだ居たのですか。本当にいい加減に……」


 ふと、寝間着がきちんと着替えさせられていることに気づく。


「ごめんね、リム。あたしバカだから慌てちゃって却ってあんたを疲れさせちゃって……あのさ、これ、良かったら飲んで。ここに置いておくから」


 テーブルの上には湯気が立つスープと水差し、コップが置いてあった。


「それじゃあ、あたし行くから。これ以上居たら余計あんたの調子悪くなりそうだし……」


 苦笑しながら出て行く姉を見送り、メールはゆっくりとテーブルの傍へ移動。

 スープには大きさも形もバラバラの具が入っていた。

 恐らくメールが切ったものだろう。だが、さじで少しスープを掬い口に運ぶと……


「美味しい……」


 柔らかく煮込まれており野菜のエキスがしっかりと出ていた。

 ふと時計を見て先ほどの騒動から結構な時間が経過している事に気づく。

 その間、姉が不器用ながらもこのスープを作ったり自分を着替えさせてくれていた事を思い……


「本当に、不器用でバカな人なんだから……」


 小さく呟き微笑んだ。

 

「でもありがとうございます。我が姉……」


 それから10分後、自分の額に乗せられていた濡れタオルが実は雑巾だった事に気づき脱力したリムだったが追及はせずそっと普通のタオルと入れ替えておいたのだった。


□□□


 翌日、すっかり全快したリムは庭で鍛錬をしている姉の元へ。


「ふふふ、おかげさまですっかりと元気になりましたわ。私、大復活です!!」


「良かったぁ。流石、あたしの妹だね!!」


「もし次にあなたが病気になった時はこの私が直々に看病をして差し上げますからご期待ください。ヒーラーのガチ看病を味合わせて差し上げます。まぁ、バカは風邪をひかないといいますからその機会が訪れるかは謎ですがね」 


「なっ、言ったなぁ!!」


「ふふっ、それでは昨日出来なかった模擬戦でも致しましょうか!!」


「おっ、いいねぇ。病み上がりだからって手加減はしないからね!!」


 嬉々として手合わせをする二人。

 その微笑ましい光景を目にした姉達だがまだ先日の誤解は解けていなかったのだ。


「ねぇ、ケイト。姉として、私はあの娘達に何がしてあげられるのかな?」


「そうねリリィ。まあ、愛の形にも色々あるから……まぁ、まさか身近で遭遇するとは思わなかったけど……」


「うえぇぇ、昨日は飲み過ぎたぁ……」


 結局誤解が解けたのは半年後だったりする。

 今日も、レム家は賑やかである。

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