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極道と清貧な家族

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「兄貴ぃっー」

「兄貴ぃっー」


「はぁっ、あかんか……

近くに居そうもないかぁ……」


石動いするぎの一の舎弟を自称するサブが転生で出現したところは最悪だった。


どこの山かも分からない頂き付近。

山を降りるだけでも二日を要した。


ようやく山を降りたと思ったら、民家すら見当たらない荒地で、さらに先へと進むと周囲をまた山に囲まれた。


来た道を進んでは戻り、進んでは戻りの繰り返し。


ここまではまだ野生の獣にこそ出くわしていないものの、お腹は減るし、夜はロクに寝れないし、体力が削られていくばかりで、普段は威勢だけで生きている、さすがのサブも途方に暮れていた。


「はぁっ……

どうしてこんなことになったんやろなぁ……」


「あの女神っちゅうんにイチャモンつけたから嫌がらせされたんやろか……」

「ま、まさかワイだけ地獄に落とされたんとちゃうやろなぁ?」

「きぃぃぃぃぃっ、あの女神っちゅう奴、今度会ったら絶対泣くまでクレーム入れたるわ、なんなら土下座させたろうやないか」


女神への八つ当たりが止まらない。


「それにしても、こんなことなら、マサの説明もちゃんと聞いておくんやったわ……」


せっかちで短期、喧嘩っ早いサブは、転生の際にも女神アリエーネの説明もそこそこに、早く転生させろと食って掛かった始末だから、半ば自分のせいと言えば自分のせいでもあったが。



そんなサブが夜道を一人で歩き続けていると、どこかで誰かに見られているような気配を感じた。しかもその相手はおそらく只者ではない、サブは本能的に、第六感でそれを察知する。


「……なんや、まるでマジ切れした時の兄貴みたいな気配や……」


もうそれは背筋に悪寒が走るどころではなく、全身が凍りつくようで、額からは冷や汗が溢れ出す。


「……ま、まさか、お、お化けとかちゃうやろな?

あかん、ワイ、お化けとか大の苦手なんや……極道やけども」


全く明かりのない暗闇の中、怯えて震えているサブ。

改めて周囲を見回した瞬間、闇の中に赤く光る巨大な二つの眼が。


「ぎゃぁぁぁぁぁっ!!」


暗闇の中を一目散に走って逃げるサブ。


道も分からない中を、どれぐらい走ったか分からないぐらいに、ただひたすらに走り続け、ついには力尽きて倒れる。


-


サブが次目覚めた時には、上には木の天井があった。

決してお世辞にも綺麗とは言えない物置小屋のような部屋。


「おや、気がつきましたか」


サブの顔を覗き込んで来たのは、いかにも温厚そうで人が好さそうな成人男性。


「あぁ、よかった」


その脇には男性の奥さんだと思しき金髪の美しい女性と、その後ろから隠れるようにして見ている金髪の少女の姿が。


「あ、あの……

ここ、どこなんやろうか?」


「うちの人が畑に行く前に、偶然あなたが倒れているのを見つけて、ここまで運んで来たんですよ」


奥さんが優しそうな笑みを浮かべて事情を説明する。


ここはアロガエンス王国の領土内でも西端に位置するプルアル領。

元々はマウグリンという別の国だったのが、侵攻を受け占領されて、現在はアロガエンス王国領となっていた。


この家の主人であるマスノ、妻のサゼヌ、娘のタミラ。この家族三人は、戦火を免れ、ここで農作業を行い、貧しいながらも慎まやかに暮らしているのだった。


-


「いやぁ、ホンマ助かりましたわぁ」


サブは奥さんが出してくれた手料理をがっつくように頬張っている。


「すいません、こんなものしかお出し出来ずに……

うちも決して裕福という訳はなくて……」


申し訳なさそうなサゼヌに、家主マスノが続ける。


内地ないち出身のかたが領主となってからは、徴税ばかりで、備蓄もほとんど取られてしまっているような有様でして……」


旧来からのアロガエンス王国の領土を内地ないち、後から占領されて王国の領土となった土地を外地がいち、国民達のほとんどがそう呼んでいる。


「あぁ、全然、気にせんといてください、

うちの家も貧乏でしたさかい、シンドイのはよう分かりますわ」


サブは自他共に認める馬鹿であり、相手を気づかって言葉を選ぶようなこともない。

思ったことをそのまま口にするし、直情的に行動する。だがその分、シンプルであるがゆえの芯の強さを持つ男でもあった。


「以前は、こんなこともなかったのですが……」


内地ないち出身の領主・プルアル公は、永らく続く戦争に戦費が必要だとの理由で事あるごとに追加徴税を要求してくるのだとマスノは言う。


「税を払えない村人達は、奉公と称して連行され強制労働を課せられることになってしまいます……内地ないちの人達は我々のことを見下していますからね、そんなとこに連れて行かれたりしたら、何をされるか分かったものではありません……」


「はぁっ、がら攫うとか、随分とあくどいことをしよるなぁ」

「そいつらきっと、ワイらと同じ極道ちゃうかな?」


「ごくどう?」


「い、いや、なんでもないわ」


「まぁ、でもそうなったら大変なことやからな、

助けてもらったお礼や、ワイが畑仕事手伝ったるわ」


戸惑う三人家族をしり目に、サブはすっかりその気になっている。


-


その日から早速畑仕事の手伝いをはじめたサブ。


「いやぁ、こんな汗水流してまっとうに働くなんて、ホンマ久しぶりやな」


そんなサブの働く姿を、木の陰に隠れるようにして覗いていたタミラ。

まだ十歳ではあるが、母親譲りの金色の髪を持った美しい、将来が有望そうな少女である。


「なんや、お嬢ちゃん、ワイに惚れてしまったんか?」


坊主頭でコワそうな外見とは裏腹に、実は子供好きのサブは、タミラにそんな冗談を言う。


「……ううん」


「そんなとこおらんと、ワイとおしゃべりしようや?」


「ダメッ」


「なんでや?」


「人攫いかもしれないから、知らない大人の人には用心しなさいって、いつも言われてるもの」


「かぁっ~、いくらワイが極道や言うても、こんな小さい子供のがら攫うとかようせんわぁ」

「なんちゅう、世知辛い世界なんや、ここは」


「ごくどう?」


「い、いや、なんでもないわ」


タミラはサブのリアクションが面白かったらしく、ほんの少しだけ笑う。

それを見て調子に乗ったサブは、どんどんタミラに冗談を言い続ける。


「なぁ、タミラちゃん、大きくなったらおじちゃんと結婚してえぇや」


「やだ」


「なんでや? ええやんか」


「だって、おじちゃん、かっこよくないもん」


「かぁっ~、あいたたたたっ、こりゃ一本取られたでえ

タミラちゃんは面食いかいなぁ」


知らない大人に対する緊張が解けたのか、次第に声を上げて笑うようになるタミラ。


-


だがそんなサブの生活が数日も続かぬうちに、事件はすぐに起こる。


馬車の中で揺られている、おそらく贅沢な生活をして来たであろうことが一目で分かる肥満体系の男。


「まさか、このような所に、プルアル公が直々においでになるとは」


その隣にいるのは、この領内で実務を行う役人のアベル。


「なぁに、屋敷に新しい奉公人を雇おうと思ってね、もちろん美しい女限定だが。」


「なんでもここには、金色の髪をした、それはそれは美しいと評判の母娘がいるそうじゃあないか」


「前から、私は目をつけていたんだよね」


「む、娘もでございますか?

まだ、十歳ぐらいでございますよ?」


「もちろん、それはそれで、非常に味わい深いものがあるものだよ」


 ――とんだ変態野郎だな


同行する役人のアベルもさすがにそう思わずにはいられない。


「公爵家出身であるこの私が、こんな僻地の領主に任命されるとは、とんだ左遷だと思っていたが……まぁ、ちょっとしたバカンスだと思えば、悪くはない」


「しかしながら、ただでさえ王国の戦費がかさみ、追加徴税が増えているのに、プルアル公がこうも頻繁に別途臨時徴税を出されてはですね……」


「なんだ、私に意見する気か?」


「い、いえ、滅相もございません」


「ここで集めた金を政財界の有力者達にばら撒いて、早く内地に呼び戻してもらはなくてならないからな」


「しかしながら、このように領民達から搾り取っておりますと、奴らが反乱を起こさないとも限りません」


「なに、その時は兵を使って弾圧すればよい。

なんなら皆殺しにしてしまっても構わん」


「領民を新しい者達と入れ替えればいいだけのことだからな」


「この乱世にあって、難民達の数は爆発的に増えているのだ、住む土地を求める者達は後を絶たない。ただ、搾取される労働力を入れ替えればいいだけの話だ」


プルアル公はそう言って笑う。


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