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極道と自称覇権国家

「勇者よ、よくぞっ、来た」


勇者として異世界に転生した石動不動いするぎふどうが今、眼前に対峙しているのは国王。


とはいえ、向こうは階段の上、玉座がある高い位置からこちらを見下ろしているだけではあったが。


「チッ」


石動不動は思わず舌打ちをする。

たださえコワい顔がいつにも増して険しい。


勇者が転生で出現したのは異世界に存在するアロガエンス王国。そして今目の前に居るのはその国王であるアロガ・ゴーマエンス王。


煌びやかな宝石に飾られた金色の王冠を頭に載せ、大きな宝石がついた指輪をいくつもはめている、誰がどう見ても間違いようがないぐらいに王様。


しかし、アロガ王は正当な王族の血筋でありながら、魔王軍が猛威を振るう中、アロガエンス王国を人間領の最大勢力まで押し上げた武の王でもある。


その鍛えられあげられた肉体と高圧的なオーラからして、武闘派であることは石動にも一目で分かった。


そして、おそらく自分が最も嫌いなタイプの人間であろうことも直観的に理解していた。



玉座の傍らには側近の三人がニヤニヤと薄ら笑いを浮かべている。


部屋の中央、玉座へと連なるレッドカーペットの両脇には近衛兵達がずらりと並び、まさに孤立無援の状態。


兵士達は鎧を身に纏い、ヘルメットを手に抱えている。王の前で着帽は不敬ということか。


「貴様っ!王の御前であるぞっ!膝をつかぬかっ!」

玉座の傍らに居る側近の一人、痩身の小男、ボヤルド・ツキー卿が石動に向かって怒鳴り声をあげる。


「頭が高いっ!控えいっ!」

筋肉隆々の巨漢、トンドル・ズラーチェ卿がこれに続く。


「どうやら異世界の人間は礼儀作法というものを知らぬようでございますなぁ」

手に薔薇を持ち、やたらに色気を振りまいているヤサ男、ドロリー・アンジョ卿は石動を皮肉った。


アロガ王が玉座についてからは、自らが辣腕を振う親政を続けて来て、宰相は空位となっており、その座を賭けたこの三卿の権力闘争、派閥争いが後を絶たない。

三卿が王に媚びへつらう姿は、見ていて逆に清々しいぐらいだと城内でももっぱらの噂だ。


こちらもまた、石動からすれば反吐が出る程に嫌いなタイプに間違いない。


「まぁよい、それぐらい、許してやろう」


御意ぎょいに」

「なんとお心の広いことか」

「さすがでございます、国王様」


一時が万事この調子で、常に国王に媚びることを忘れない三卿。



石動は無言で、くうを見つめたまま。


「しかし、さすが勇者、というところか。

そのギラギラした野獣のような目、いやもはや魔獣か。

こちらの世界の者では決して有り得ぬような、生命エネルギーに満ち満ちておる」


まるで勇者である石動を値踏みするかのようなアロガ国王。


「よいか、勇者よ」


「異世界から来たそなたには分からぬかもしれんから、ワシが直々に説明してやろう」


「魔王軍が侵攻をはじめようとしている今、

これに対抗するためには、人間側も早急に一枚岩にならなくてはならん」


「そのための国、それがこのアロガエンス王国なのだ。よって、これまで我々は大義のために周辺諸国を次々と配下にして来た……」


「アロガエンス王国はいずれ大陸を統一する一大帝国となるであろう……

そして、その時、人間の軍を率いる者こそが、

このワシ、アロガ・ゴーマエンスに他ならん」


「おぉっ!」


三卿のみならずその場に居合わせる兵達みなが思わず感嘆の声を上げる。


「我がアロガエンス王国こそは、この大陸における最強の大国、言うなればまさしく覇権国家」


「我がアロガエンス王国こそが、この世界そのものであると言っても過言ではあるまい」


「御意に」

「間違いございません」

「仰せの通りでございます」


三卿の合いの手も増々調子に乗っている。


「よって、この世界に勇者が遣わされたということは、それすなわち、この国に勇者が遣わされたということ」


「おぉっ!」


三卿が再び感嘆の声を上げる。


「勇者よ、この国のために働くがよい。

我が家臣となることをここに認めよう、忠義を尽くせよ」


「もったいないお言葉」

「さすがでございます、国王様」

「アロガ王、バンザーイ!」


「アロガ王、バンザーイ!バンザーイ!」

三卿の声に合わせるかのように、兵士達が総出で声高く唱える。



「……ふんっ」


その光景を思わず鼻で笑った石動。

だがその笑い声は次第に大きくなり、逆に兵士達は静まり返る。


「ハハハハハッ」


当然ながらアロガ王は不機嫌そうな顔をして、石動を睨み付けている。


ひとしきり笑った石動は、ついに言葉を発した。


「王様ってのがどんなもんか、物珍しくて見に来てみたが、やっぱりロクなもんじゃねえな」


「ぶ、無礼者っ!」

「なんという暴言っ!」

「そこへなおれっ!」


石動の暴言に慌てふためく三卿達。王が機嫌を損ねたら、自分たちにとばっちりが来るのは経験則で分かっている。


「そっちはマヌケな腰巾着、さしずめ三馬鹿トリオだな」


ついでに三卿も罵っておく。


「な、なんとっ」

「し、失敬なっ」

「ぬぐぐぐぐっ」



「偉そうなことを言ってる割には、やってることは俺ら極道と大差がねえ。

まぁ、戦争なんざどこもそんなもんか」


「極道っ?」


この世界では聞き慣れない言葉に眉をひそめる国王。


「言っちゃ悪いが、俺にゃあ、あんたの国にも魔王軍にも興味がねえ」


「俺はただ、俺の生きたいように生きる……

俺の生き方を邪魔するようなら、両方とも敵だ」


「たわけたことをっ!」


険悪な緊張した空気の中をアロガ王の声が響き渡る。

だがそんなものに動じる石動不動ではない。


「俺は死んだ親父おやじの下にしかつかねえと決めている……」


「俺を縛れるのは死んだ親父おやじだけだ……

だからな、まぁ、せいぜい好き勝手にやらせてもうらうぜ」


石動の暴言に怒り心頭のアロガ王。

怒りに体を震わせ、顔を真っ赤にして、頭に血管を浮かびあがらせている。


「少し痛い目にあわないと分からぬようだな、勇者よ……

せっかくだ、その身をもって、我らの恐ろしさを知るといい」


アロガ王は玉座から立ち上がり、石動を指さして叫ぶ。


「この者をひっ捕らえよっ!」


兵士達もまた王の言葉に呼応して叫ぶ。


「御意にっ!」


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