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第8夜



無事に東雲さんと合流した私達は、風穴の近くへと案内した。

一緒にやってきていた救命隊員が担架で次々と被害者を運んでいくのを横目に見ながら、私は状況を東雲さんへ説明する。



「彼らは今目の前にある洞窟の中に捕らわれていました。衰弱はしていますが、大きな外傷は見当たりませんでしたので、恐らくすぐ回復するかと。事件に関しての記憶はすでに消してあります」

「観光バス行方不明事件で聞いていた人数よりも多いようですが…」

「えぇ。推測ではありますが、この森へ迷い込んだ者、あるいは近くにある集落から攫ってきていた等の可能性があります。妖が通常よりも力を増していたことを考えると、今回の事件とは別で何人かは確実に犠牲になっていますね」

「そうですか…そちらについては、こちらで詳しく調べます」

「宜しくお願いします。そういえば、捜査本部への説明はどうされますか?」



そういって私は、風穴の中へと落ち無残な姿となったバスを指さしながら、東雲さんへ聞いた。

事件現場となったSAからは離れている。風に乗って風穴に落ちました、なんて言っても捜査員達は納得しないだろう。

本来の情報操作等は東雲さんの業務範囲ではあるが、説明を煩雑化させてしまった負い目があったので何か手伝えることがあればと思ったのだが、東雲さんは焼け焦げたバスを見ながら諦めたように笑った。



「もう、ゴリ押しでいきます」

「ゴリ押し」

「はい。バスは"見付からなかった"ということで」



どうやら考えを放棄したようだ。

まぁ、ここまでどうやってバスが来たのか説明を考えるほうが無駄だということだろう。

彼女がそう判断したのなら、これ以上何も言うまい。



「じゃあ、私達はそろそろ帰ります」

「はい。事件解決にご尽力いただき有難うございました」



私は仲間へ声をかけると、東雲さん以外の人間には気づかれないようにそっと森の中へと姿を消した。





****




やっとこさ自宅へと帰ってきた私達は、やっと寝られると疲れ切った溜息を吐いた。

そう思っていたのだが。

裏口から敷地へ入り玄関前まできたところで、中から家令の岩松が少し慌てた様子で出てきた。

いつも物静かな彼にしては珍しい。



「お嬢様!」

「何かあったの?」

「それが…」


とりあえず確認してください。と、屋敷の奥へと連れていかれる。

なんだなんだ、と仲間もぞろぞろと後ろを付いてくる。

玄関を入り屋敷の中心まで歩いていくと、左に続く渡り廊下へ曲がった。

渡り廊下の先には離れがあり、その建物は『表』から見た神社の社務所になっている。

私達関係者は敷地の境界に入るとこの屋敷へと出るのだが、それ以外の人間は正面の鳥居からしか出入り出来ない。そして鳥居をくぐると神社の境内へ入ることになる。

屋敷からその空間への出入り口が、この社務所だ。

岩松はがらりと引き戸を開けると、拝殿が見える部屋まで移動し賽銭箱の前を指さした。

そこには、なんとも見知った顔の人間が体育座りをしてすやすやと眠っていた。



「かれこれ6時間ほど座ったまま動かれないのです」

「あれ、この前助けた椿の会社の同僚だよね?」


後ろから野次馬の様についてきていた葵が苦笑いしながら言った。



「もう朝の4時近いんですけど…」



思わず頭を抱えたくなる。

今は真夏を過ぎたばかりとはいえ、そろそろ秋も深まる季節だ。

夜もそれなりに冷えるだろうに。

何度もお帰りになるようお伝えしたのですが、と岩松も困り顔で私に言う。

しかし今から帰れという訳にもいかないだろう。始発の電車まで3時間近くある。

仕方がない。

私は岩松へお茶を準備するよう伝えると、社務所から境内へと出た。

引き戸の音で目を覚ましたらしい彼女は寝ぼけ眼でこちらを見ると、まるで花が咲くかのようにぱぁっと顔を綻ばせた。



「杵柄さん、何してるの…」

「狐守さん~!!やっと会えたよぉぉ」



私の質問には答えず、勢いよく抱き着かれ思わずよろける。

触れた彼女の身体は冷え切っていた。



「理由は後で聞くから、とりあえず中に入って」

「ありがと~!流石にパーカー1枚は寒かった…」



それでも帰らずに待っていたのだ。

それなりの理由があるのだろう。お風呂はまだ入れそうにないな、と少しげんなりしながら私は彼女を伴って屋敷の応接へ移動するのだった。



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