第6夜
仲間達の名前が決まったので、少し手直しをしました。
定期報告会の日がやってきた。
いつもの会議室には、私と葵、AGW対策部からは東雲さんとその部下である高橋さんが同席している。
高橋さんより渡された資料には、昨日発生した観光バス行方不明事件も含まれていた。
資料に目を通し終えた私は、東雲さんに問いかける。
「この観光バス行方不明事件についてですが、警察の見解はどのように?」
「現場となったSAは山中にある為、崖に転落したのではと考えているようです。現在も付近の山を捜索中とのことですが、しかし、個人的には誰一人にも目撃されることもなく、誰に気が付かれることもなく崖に転落するのは無理があるかと」
「そうですね。それについては同意見です。音もなく崖に落ちていくだなんて、現実的にあり得ない」
「えぇ。ですから、こうして狐守さんに資料をご用意した、というわけです」
「東雲さんは、妖が絡んでいると踏んでいるわけですね」
「はい」
私から見ても、妖が絡んでいる可能性はかなり高いと思う。
というか、ほぼ妖で間違いないのではと考えている。
ちらっと横に座る葵を見ると、彼も小さく頷いていた。
私の中でひとつの仮説があるのだが、それにはいくつか確認しておかねばならない事がある。
「東雲さん。事件当時、この付近で霧が発生した記録はありますか?」
「霧ですか……気象庁によると、ちょうどこのSAにほど近い山間で霧が発生していたようです」
「なるほど。ではその霧が発生した近くに水辺はありますか?」
「水辺?」
「えぇ。池か沼があるのではないかと」
「えー…地図を確認すると、ちょうどSAから直線で800mほどの場所に放置池がありますね」
東雲さんがカタカタとノートPCを操作し私に画面を見せると、確かに山間に小さな池があった。
おそらく間違いないだろう。これだ。
「この池が、今回の事件とどう関係があるのですか?」
「…おそらく、この件は水辺に関係する妖の仕業だと思われます」
「それは、何故です?」
「大きなポイントは『霧』です。今回の事件現場が山中で起こっていること。そして事件当時に霧が発生し、近くに池があること。この3点から、水辺の妖である可能性が高いのです。そして水辺に潜む妖は霧を使って人を誑かし、自分の領域へ引き込む特性があります」
「霧を使って観光バスをまるごと引き込んだ、ということですか」
「そうです。それにしては、かなり大きく出たな、という印象ではありますが」
「私もそう思います。50人乗りの大型バスですから、それなりの大きさもありますよ」
まぁ、兎にも角にも早く現場へ行って確認したほうが良いだろう。
たくさんの人命もかかっている。
私はさっそく今日の深夜に動くことを決定した。ちょうど明日は土曜日だ。仕事が休みでよかった。
葵へ仲間に準備しておくよう連絡をお願いする。
観光バス行方不明事件以外の事案についても、別部隊に動くよう指示しておかねば。
その時、東雲さんへひとつお願いしたいことがあったのを思い出した。
「東雲さん。実はこの人物についてお願いしたいことがあるのですが」
そういって1枚の資料を渡す。
そこには、3日前に同僚が襲われた際に聞いた例の『老爺』について記載されていた。
「現在取り扱っている事件に、このような老爺の情報があるかどうかを確認してほしいのです」
「分かりました。次回の報告会までに確認しておきます」
「有難うございます。よろしくお願いします」
今日の動きについては進展があり次第すぐ連絡することを伝え、私は会議室を後にした。
****
皆が寝静まる頃。
私達は例の事件現場にいた。
SAの一部に規制線が張られ、大型バスが停まっていたであろう場所より先へは行けないようになっている。
今が深夜ということもあり、警察や報道陣などはいないようだ。
そして神隠しにあうなんて噂が出回り、一般客も利用を避けているようでとてもひっそりとしていた。
私達は乗ってきた車を端の目立たない場所へ駐車し、売店の裏側へと移動した。
そこには、その先へは行けないように高いフェンスが建てられている。
「みんな、準備はいい?」
「いつでも行けるよ」
私の後ろに控える仲間たちを見て、声をかける。
メンバーは自分を含めて7名。
組織の中で私が率いる部隊のメンバーである。
メンバーは、葵はもちろんのこと、長身でイケメンだがちょっとお調子者の春彦、それを呆れ顔でいつもフォローする春彦の双子の弟 月彦、すらりとした手足に肩口で揃えられた髪が印象的な美女 夕鶴、長い髪で目元を隠す恥ずかしがり屋の女の子 七瀬、メンバーの中で最年少の人懐っこい笑みが特徴的な男の子 琥珀。
他支部の構成員からすると少し個性的なメンバーではあるが、実力は群を抜いて強い。言い換えれば、唯一私について来られる実力があるということ。付き合いが長いこともあり、絶大の信頼を置いている私の大切な仲間であり、家族だと思っている。
そんな私達の今宵の服装は、黒い長ズボンに黒いパーカーという、全身真っ黒な怪しい集団だ。
夜の隠密にはこの格好が一番都合がいいのだから、まぁ仕方ない。
各々、手に馴染んだ獲物を携えている。
全員の顔を確認すると、私はそっと目を閉じ本来の姿へと戻る。
邪魔にならないようひとつに結んだ髪が、さらりと銀髪へ変わっていく。
金色の目を開ければ、仲間も全員、本来の姿へと戻っていた。
「よし、じゃあ行くわよ」
そう言って不敵な笑みを浮かべ私はフェンスの上へ飛び乗ると、そのまま下の崖に向かって勢いよく飛び降りた。