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第16夜

窓の外を流れる景色をぼーっと眺める。

屋敷から車で2時間ほどのこの町は、都市部から離れていることもありのんびりとした田園風景が広がる。

奥に広がる山々は、秋に向かってほんのりと緑から黄色へ移り変わろうとしていた。本格的な紅葉まで、あと少しといったところだ。



今朝連絡をした部隊との合流は、この地域周辺の拠点となっている小さな稲荷神社の予定になっている。

山道の少しいった場所にある小さなお社は、五穀豊穣を守護するものとして古くからこの地域の百姓達に大切にされてきた、静かな雰囲気の場所だ。


県道を山沿いに走っていた私達が目的の山道へ入った時、それは唐突に起きた。

山道の入口に妖の境界があったのだ。

車に乗る全員が、その存在に全く気が付いていなかった。

というより、突如現れた、といった方が正しいかもしれない。

運転をしていた月彦が若干動揺しつつ呟く。



「まるで結界が張ってあったみたいな…」

「そうね…神社にいる皆が心配だわ。急ぎましょう」



そうして、神社の鳥居が見えてきた時だった。

大きな煙塵が巻き起こると同時に、前方から何かが飛んできた。

間一髪で直撃を回避し急停車した車の前にゴロゴロと転がったそれは、合流予定の部隊の一人だった。

私は車から飛び出すように降り駆け寄る。身体中ボロボロではあるが、幸い意識を失っているだけのようだ。

後から慌てて着いてきた春彦に木の影へ移動させるようお願いすると、私は神社に向かって駆け出す。

たどり着いた先に広がっていた光景に私は思わず唖然とした。


半壊した本殿。

手水舎は跡形もなく吹き飛び、こじんまりとした社務所は屋根が崩れ落ち見るも無惨な状態だ。

そして本殿の前、そこには数え切れないほどの妖と対峙する仲間の姿があった。

皆すでに満身創痍だ。


私は持っていた扇の手に力を込めると、こちらへ背を向けて仲間と対峙している妖にむかって勢いよく左から右へ薙いだ。

こちらに全く気が付いていなかった妖達は、その数体が絶叫しながら燃え上がる。

そうしてやっと気が付いた妖達が、一斉にこちらを向いた。

私は怒りで暴走しそうな身体を必死に抑えながら、妖達を睨み叫ぶ。



「一体これはなんの真似だ!!」



その声に一番最初に反応した、本殿前にいた部隊長の男が苦痛に顔を歪めながら、こちらをみて叫んだ。



「椿様!!来てはなりません!!!」



その声が合図のように、妖達が私に向かって飛びかかってくる。

私の後ろにいた七瀬の苦無と夕鶴の弓矢が、私を守るように妖達へ突き刺さる。それを躱し更に襲いかかるものは私の扇の餌食となった。一瞬で排除されたその光景に力の差を感じ慄いた妖達は、尻込みするかのように後ずさる。

その中からすっと前へ出てくる一体の妖がいた。

その妖はまるで人間の男性のような風体で、着流しに刀を構え、長い髪を後ろにひとつに結んでいる。

周りの妖とは明らかに違う雰囲気に、力の持ったものだと分かる。

私はその妖を睨めつけると、先ほどの問いを再度口にした。



「これは、なんの真似だ」



妖はニヤリと笑う。



「お前が、組の(かしら)か」

「なんの真似だと聞いている」

「お前に会いに来たんだよ、椿殿」

「…どういうことだ?」



会いに来た?私に?

意図が分からず混乱する。

しかし私の疑問には答えることなく、その妖は周りの妖へ煽るように叫んだ。



「数はこっちが圧倒的に有利だ!この女を捕らえたやつが、報酬を受け取れるぞ!」



尻込みをしていたはずの妖達は煽られたその言葉に雄叫びを上げて、一斉に私へ襲いかかってきた。

その時、すっと私の前に皆が立つ。



「舐めてもらっちゃ困るね」



そう言って、近距離武器を得意とする春彦、月彦、葵の3人が敵陣へ突っ込んでいった。



「私はあの着流しの妖を片付ける。3人は葵達の援護を」



琥珀、七瀬、夕鶴は私の指示に頷くと、3人を援護をする為に私の傍を離れる。

その様子を涼しい顔をして見ていた着流しの妖は、ゆっくりとこちらへ歩いてきた。

数メートル先で立ち止まった妖は、実に楽しそうに私を見る。



「私に会いに来たとは、どういうことだ」

「さぁ?捕まってみたら分かるんじゃない?」



そう言うと、手に持った刀を構えて姿勢を低くし地面を蹴ったかと思うと、一気に間合いを詰めてきた。

反応が遅れてしまった私の手から扇がはじけ飛ぶ。そのまま返された刀を間一髪のところで避け、後ろへと飛び間合いを取った。

峰打ちを受けた右手がジンジンと痛む。



「次は外さないぜ」



舌なめずりをしながらニヤリと笑う妖に、私は不敵な笑みを浮かべた。



「こちらも本気でいかせてもらう」



仲間を傷付けられ怒りが頂点に達していた私は、狐火を"かつて愛用していた武器"へと変化させた。



「へぇ、大鎌か」



手によく馴染むそれは、身の丈程もある大鎌だった。

大きな刃は青白く光り、ゆらりと炎が揺れる。

今度は私から先に仕掛けた。

左足で強く地面を蹴ると、踏み込んだ右足を軸に鎌を振るう。

姿勢を低くしてそれを避けた妖はニヤリと笑った。


大鎌はリーチが長い。

初手を外した後には大きな隙が出来る。

その隙を狙って刀を相手の腹へ向かって横に切った…が、キィン!と鈍い音を立ててそれは防がれた。

なぜ!?と手元を見ると、それは鎌の柄だった。椿の身体を軸にして、背から前へ帰ってきた鎌はそのまま刀をはじき飛ばすと、その勢いのまま腹に向かって刃を振るった。

妖は後ろへ避けるも間に合わず、ザンッと音がして着物とともに腹が僅かに裂ける。


───浅かったか。


はじき飛ばされた刀の傍へ着地すると、ぽたぽたと妖の腹から血が滴り落ちる。

その光景に妖はとても嬉しそうな顔をした。



「俺に傷を付けたやつは久しぶりだ」



指に付いた血をペロリと舐め妖は地面に落ちた刀を拾うと、間入れずに間合いを詰めてきた。

それを正面から鎌の柄で受け止める。

その時、妖の刀がドクンと紫色に鼓動を打つかのように光り、妖力が増したのを感じた。

危険を感じた私は右へ鎌を振るうと、そのまま後ろへ下がる。



「…何をした」



刀が光ったとき、僅かだが力が抜ける感覚がした。

これは──



「妖刀だよ」



妖は刀の峰を指でなぞりながら、答える。



「お前の力が強ければ強いほど、この刀は強くなる」



妖刀。

相手の力を吸い取り、強くなると聞く。

だからか、と頭の隅で冷静な私が呟いた。

仲間がここまでやられた理由は、この妖刀だ。

力を吸い取られたせいで、本来の力が出なかったのだ。



「さぁ、第二幕といこう」



妖は楽しそうに言うと、私に向かって地面を蹴った。




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