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第15夜

日曜日の朝。

私達は例の町を管轄している部隊へ連絡を取り、今日の昼過ぎに会うことになった。

ここからだと車で2時間ほどかかる為、朝食を終えるとすぐに準備し始める。

着物の着付けが終わったちょうどその時、扉をノックする音がし返事をして開けると、そこには葵が立っていた。

部屋の中へ入るよう促すと、少しそわそわした様子でこちらを見つめている。



「どうかしたの?」

「…昨日のことなんだけど」



あぁ。来客の件か。

そう思った私はソファに座るよう言い、葵の横に私も座る。



「昨日のこと、夕鶴から聞いてる?」

「うん」

「そうか…」



私の返事に葵はうつむくと、さらりと髪が表情を隠す。

葵の固く握った手にそっと自分の手を重ねると、のぞき込むようにして彼の顔を見た。

眉を八の字にした葵と目が合う。

その表情が小さかった頃の彼と被って、私は思わず微笑んだ。



「私を迎えに来てくれたあの日と同じ顔してるよ」

「……」

「私はね、どんな決断であろうと全力で葵を支えるよ。だから」



だから、そんな寂しい顔しないで?

そういって重ねた手をぎゅっと握った。

その言葉に葵は泣きそうな顔をすると、こてん、と私の肩に頭を乗せる。



「あいつらが言うんだ。俺がここに居たら、いつか災いが起きるって。椿が死んでもいいのかって」



それを聞いて、私はふつふつと怒りが湧いてくる。

葵のせいで私が死ぬ?そんなことある訳がない。

何を根拠にそんなことを言っているのか。

あいつらは自分達の思う通りに事が運ぶよう、出鱈目なことを言っているように感じる。

けれど葵は優しいから。そんな、心無い言葉に傷ついて悩んでいる。



「私とずっと一緒にいるけど、今まで災いなんて起きてないし、葵に助けられたことはあっても傷つけられたことなんて無いでしょ。あいつらが勝手に言って葵を思い通りに動かそうと企んでるだけよ。だから気にしないの」



ぽんぽん、と葵の背中を叩くと、力が抜けたように身体を預けてくる。

しばらく背中をさすっていると、葵は私の肩に顔を埋めたままぎゅっと抱きしめてきた。

小さい頃はよく抱きしめられたけど、大きくなってからそういったことは殆ど無かった私は、珍しく動揺してしまった。



「ど、どうしたの?」

「俺は…」

「うん?」

「俺は……椿と一緒にいたい」



ぽつりと呟かれたその言葉に、胸が震えた。

昨夜のモヤモヤが晴れていくようだ。

単純に嬉しいと思った。

葵が私を選んでくれたことが。

葵の意志を尊重する、と決意していたものの、やはり家族が居なくなるのは寂しい。

あぁ、だから昨日あんなに憂鬱な気分だったのか、と思った。



「葵が私と居たいって言ってくれるなら、私はあいつらから全力で葵を守るよ」

「…ありがとう」

「だから、何も気にすることなんてない。狐だろうが、龍だろうが関係ない。葵は葵なんだから」



その言葉に、彼の抱きしめる力が少し強くなる。

私は安心させるように、彼を抱きしめ返した。

しばらくそうしていたら、葵が抱きしめる手を緩めて私の顔をみた。

何かを決心した顔だ。



「椿」

「なぁに?」

「俺と一緒に、あいつらのところに行ってくれないか」

「…?」

「きっぱり、断りにいきたい」



まっすぐに私の目を見て言う。

それに応えるように、私もまっすぐ目を見て承諾の返事をした。

そして私は元気よくガッツポーズを取ると、



「おねーちゃんに任せなさい!」



と、鼻息荒く意気込む。

それを見た葵は少しの間固まっていたが、呆れたような諦めたような何とも言えない顔をしながら、ありがとうと言った。





一部始終をこっそり扉の隙間から覗いていた夕鶴と月彦は、呆れた溜息をつきながら呟いた。



「「鈍すぎる…」」



かれこれ100年はこの調子だ。

あと何年見ることになるのか…と2人は頭を抱えた。

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