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第12夜

辺りは警察車両のサイレン音や野次馬で騒然となっていた。

あの後すぐに東雲さんへ連絡した私は、駆けつけた彼女の車の後部座席に乗って事情を説明している。



「気配に気付いて駆けつけた時には、もう手遅れでした」

「そうですか……」



彼女は私の説明に何やら考え込んでいる。



「どうかされましたか?」

「…実は、1か月程前にも似たような事件があったのです。現在も捜査中ですが、残忍さは目立つものの妖関連に見られる不可解な点がありませんでしたので、報告にはあげていませんでした」

「あぁ、確かニュースになっていましたね。女子大生殺害事件」

「それです。手足が折られ、内臓が今回のように引きずり出されていました」



その時運転席に座っていた高橋さんが、あっ、と声をあげた。



「先輩。確かその事件の通報者って…」



東雲さんは小さく頷くと、手元にあるタブレットを操作し、私にひとつの捜査資料を見せた。

そこには『雑木林の中で見つかった遺体の発見者は、近所に住む80代の老爺』と書かれていた。その外見的特徴に心当たりがある。



「先日の報告会の時に、狐守さんより依頼された老人と特徴が似ていませんか?」



私は肌が粟立つのを感じた。

本能が警告を鳴らしている。これは、偶然ではないと。

それに追い打ちをかけるように、東雲さんはもうひとつお伝えしたいことが、と言う。



「昨日解決いただいた観光バス行方不明事件、どうやら社長の自宅近所にすむ老人に旅行先を勧められたようなのです。その老人の外見が合致します」

「…っ」

「ただひとつ問題が」

「なんでしょう」

「どれも、場所が遠いんです。女子大生が見つかったのは隣町ですし、社長の自宅は隣県です」



本能が同一人物だと訴えてはいるけれど、これではどこに出没しているのか場所を絞るのは難しい。

もう少し情報が必要だ。



「こちらでも少し探りを入れます。東雲さんは引き続き、老爺が関わっている事件の情報を整理していただけますか」

「分かりました」

「…確かこの後警察の事情聴取に協力してほしい、とのことでしたね」

「え、えぇ」

「ごめんなさい、適当に理由つけて断っておいてください。私はこれで失礼します」

「え!ちょっ!」



私は2人の制止を無視し後部座席から出ると、みんなが待つ車へ移動し急いで自宅へと帰った。






おかえりなさいませ、という岩松への返事もそこそこに、私は各支部から送られてくる報告書が置いてある書斎へ飛び込んだ。

机の上に積みあがった書類を片っ端から見ていく。

慌ただしく帰ってきた私の様子が気になって見に来た葵がどうしたの、と声をかけてくる。



「さっき、人間が妖に殺された」

「え?」

「蟷螂の妖だった。しかも集団で私達を襲ってきた」



葵の問いに答えながら、書類をとある条件に当てはまるものと、そうでないもので分けていく。

怪訝な顔をしながら、葵は机の前まで来るとその書類を1枚手に取った。



「これは?」

「…最近、なんだか不思議な事件が頻発してると思わない?」

「確かに、違和感はある」

「そう、その違和感。なんとなく分かった気がしたのよ」

「それが、この書類の仕分けと関係あるの?」



私は葵が持っている書類を指さしながら、中身を読んでみてと促す。



「人に擬態した集団の蛾に襲われて、人間が死亡」

「こっちも」

「山奥に出没する妖が街で人を誑かしていたのを発見、妖世界へ強制送還」

「何か気が付かない?」



うーん?と葵は首を傾げながら、考える。

ぞろぞろと後から書斎に入ってきていたみんなも私の問いに黙って考えていたが、月彦が何か気が付いたようで手を叩いた。



「それ、あんまり知能高くないやつらじゃない?あとは、本来いない場所で発見されてる」

「そう。さっきの妖も蟷螂だったけど、あのタイプの妖が連携して襲うことなんて今まであった?」

「確かに、一斉に押し寄せて襲ってくることはあっても"連携して"っていうのは、無かった」

「それともう一つ。やたら妖が力をつけてる。蛾が人間に擬態だなんて聞いたこともないわ」

「つまり…先導してる何者かがいるってことか」

「可能性としてね」



そこで、この報告書よ!と、私は仕分けた書類の束のうち右側にあったものを手に取ると、人数分に割って配った。

強引に押し付けられた書類に、皆の顔には疑問符が浮かんでいる。



「発生した場所を地図に起こして、集中してる地域を割り出す」

「え、俺らもやるの?」

「春彦、文句言うならさらに増やすわよ」

「…やります…」



そうして総出で作業に取り掛かかり、粗方まとめ終わったのは夜の10時過ぎだった。

とりあえず1か月以内の事案をピックアップして、インターネットから印刷した地図に書き込んだ結果、とある町のはずれを中心に半径約50kmという広範囲の円が描かれていることに気が付いた。

あまりにも広範囲すぎてなかなか気が付けなかったが。


その円の中心がある町を管轄している部隊がある。

さっそく明日出向くことにして、今日は解散となった。


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