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第11夜

少しグロテスクな表現があります。




帰りの車の中。

カーナビから流れるテレビのニュースが、観光バス行方不明事件について取り上げていた。

東雲さんが言っていた通り、行方不明者は見つかったがバスは見つかっていないと伝えている。

大きな外傷が無かったことに奇跡だ!と少し興奮気味にコメンテーター達が論議していた。

行方不明となった者全員の記憶がない為、何が起きていたのかと推測が飛び交っている。



「あ、そうだ椿。東雲さんから連絡あったみたいだぜ」



ニュースを見ていた春彦がこちらを振り向きながら言った。



「そう。昨日の後始末の報告かしら」

「確かそんなんだった。後で葵に聞いといてくれ」

「分かった、ありがと」



それにしても、と月彦が運転をしながら少し怪訝な顔をして話し出す。



「なんだか最近、派手な動きが目立たないか?」



それは私も感じていた。

最近、妖達の動きが目立つ。

辛うじて大きな被害は出ていないものの、警戒すべき状況だ。



「この前なんて、ウチの近くで山姥がしでかしてたんだぜ?しかも椿の知り合いに対して」

「そうなのよね。そもそも、山姥が山を降りて悪さをするなんて思いもしなかったから吃驚したのよ」

「もしかして、挑発されてる?」

「…他の支部からの報告も、再度確認し直す必要があるわね」



先日私の同僚達を襲っていたのは、山姥と呼ばれる妖だった。

本来は山の奥に出没する妖だ。

街中に降りてくるなんて聞いたことも無い。しかも、その降りてきた先が私の屋敷の目と鼻の先だなんて、無謀にも程がある。

なんだか目に見えない何かが裏で蠢いているような、そんな感じがして気味が悪い。



その時、ぞわりと私の感覚が波だった。

これは…



「月彦、車のスピード緩めて」

「ん?」

「七、正確な場所分かる?」

「……この先の…左に入ったところにある…背の高い建物…」

「月彦」

「了解」



妖の気配だ。

まだ昼間だというのに、こんな街中で。


感知能力の高い七瀬が、即座に場所を割り出す。

月彦がすぐの十字路を左へ曲がると、少し先に解体途中のビルが建っていた。工事関係者以外立ち入り禁止の看板が立っている。

ここだ。



「椿、ごめん。俺と月彦は武器持ってない」

「分かってる。春彦と月彦は結界を張って人払いをお願い。琥珀、七、行けるわね?」



こくり、と2人とも頷く。

私達は車から降りると、急いで立ち入り禁止の看板を飛び越え中に潜入した。

外壁はほぼ壊され、鉄骨の枠組みが剥き出しになっている。

気配はどうやら上の階からするようだ。左右それぞれに設置された階段を私と琥珀、七瀬の二手に分かれて登っていく。

5階に差し掛かる手前で、べちゃり、と音がした。



「遅かったようね…」



苦々しげに呟く。

そこには、何とも凄惨な光景が広がっていた。


一人の女性が、恐怖に目を見開いたまま妖に喰い殺されていた。

手足はあらぬ方向へ折れ、喰い破られた腹から内臓が飛び出し血の海と化している。

その内臓に這いつくばって喰い付いている妖は、身体は人間、顔から上は蟷螂(かまきり)だった。

鋭い牙のようなものが沢山生えている口から、血が滴っている。捕食に夢中のようで、こちらには気が付いていないようだ。



「椿姉、あいつ境界すら張らずに食べてる…」

「昔こそあったけど、今じゃ有り得ない光景ね…」



扇での攻撃では周りへの被害が大きくなると判断した私は、狐火を刀の形へと変化させた。

相変わらず凄いね、と琥珀が呟く。こんな芸当が出来るのは、一握りの者だけ。そしてここまで精巧に変化させられるのは、今のところ私くらいしかいない。


反対の階段からも様子を伺っている七瀬と目が合う。

お互いに目配せをし私の合図と共に琥珀と七瀬が飛び出すと、琥珀は先に両刃のナイフがついた分銅鎖を首へ巻き付け遺体から引き剥がし、七瀬は苦無を足の甲へ突き刺し妖の動きを止めた。

全くこちらに気が付いていなかった妖は、突然の足への痛みと首の圧迫に驚き悲鳴をあげる。

そして妖は何が起きているのかを理解する前に、私に狐火の刀で肩から斜めに勢いよく切り裂かれ、そのまま燃え尽き灰となった。

一瞬で終わったそこには、無残な姿となった女性の遺体だけが残る。



「助けられなくて、ごめんなさい…」



そう小さく私は呟くと、そっと両目を閉じてあげた。

その時、背後から物凄い勢いで何かが飛び出してきた。私は相手を見ることも無く、振り向きざまに下から上へ刀を振り上げる。

それは先ほど消滅させた妖と全く同じ風貌の妖であった。

伸ばされた鋭い蟷螂の鎌は私に届くことなく、目の前で灰と化す。

その更に後ろからもギャッという潰れた悲鳴が聞こえると、琥珀と七瀬がそれぞれ妖を消滅させたところだった。



「これで全部ね」

「まさか4体もいたなんて」



この女性の遺体が、まるで罠かのような襲撃。

車の中で話していた不信感が、より一層強くなった。



「とりあえず、東雲さんへ連絡しないと」

「下の2人に…知らせてくる…」

「七、ありがとう」



コクン、と頷くと七瀬は吹っさらしのビルから勢いよく下へと飛び降りていった。




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