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第10夜

仲間の名前が決まりました。それに伴い、第6夜を少し手直ししました。話に大きな変更はありません。




ふと、外から聞こえる笑い声に意識が浮上する。


はっきりしない頭で無意識に置き時計を探し時間を確認すると、既に正午を過ぎていた。

どうやら思っていた以上に疲労が溜まっていたようだ。

杵柄さんと話を終えたあと、そのまま私はベッドへと倒れ込んだようだが、ほぼ覚えていない。

昨日はお風呂に入っていないから、なんだか頭がベタベタする。

面倒臭いけどお風呂に行くか…と重たい身体を起こした時に、また笑い声が聞こえてきた。

どうやら、居間の方から聞こえてきているようだ。


お風呂に向かうついでに覗いてみると、杵柄さんを中心にみんなでテレビゲームをして遊んでいた。予想外の光景に少し驚いて固まる。

入口で固まっていると琥珀が私に気が付いた。



「あ、椿姉(つばきねぇ)!おはよう!」

「おはよ…何してるの?」



琥珀の声につられて全員がこちらを向く。

一斉に振り向くものだから、一瞬引いてしまった。



「やっと起きてきたかー」

「寝坊助だなー」



揶揄うように言ってくる男2人は、春彦と月彦。

その他に夕鶴(ゆうづる)と七瀬もいた。

昨夜はそれなりに遅かったというのに、皆様お揃いで元気なこと。



「私を置いて先に寝たやつに言われたくないわね」

「怒るなよー」

「俺達があそこにいても仕方なかったろ」



まぁそうなんだけど。

そんな事より状況を説明しろ、と目で訴えると杵柄さんが実に楽しそうにゲームのコントローラーを掲げて答えてくれた。



「皆さんが一緒に遊ぼうって誘ってくれたの!朝ご飯もご馳走になっちゃった」

「そう…楽しそうでなにより。お昼も食べていくでしょ?」

「え、いいの?」

「この人数だもの。一人分増えた所で誰も困らないわよ」

「わぁ!ありがとう!」



本当に嬉しそうに笑うなぁと眺めていると、後ろから葵がやってきた。

手には人数分のコップと冷えたお茶の入ったピッチャーを持っている。



「あ、椿。起きたんだね」

「うん、おはよ。私は今からお風呂入ってくる。厨房に杵柄さん分のお昼追加って伝えてきてくれない?」

「あぁ、それならもう頼んでおいたよ」

「流石ね。ありがとう」



私は葵にお礼を言うと、お風呂場へと向かった。




我が家は屋敷自体はかなりの広さなのだけれど、使用人はあまり多くない。

家令の岩松、料理長の弥兵衛(やへい)に女中の数名が居るだけだ。

私は堅苦しいのが好きではなく、立場関係なくこの屋敷に住んでいる者は平等に扱っている。というよりも、私が幼い頃からお世話をしてくれている者ばかりなので、親も同然なのだ。

あとは仕事を共にする仲間が暮らしている。葵、夕鶴、七瀬、春彦、月彦、琥珀。この6人は、立場的に私の部下にあたるのだが、私が人助けを初めた当初から一緒に行動をしているので、彼らが私に敬語を使うことはない。

最早、屋敷にいる全員が家族同然として暮らしていた。他のお屋敷から見ると少し異様かもしれない。


きっと私が外部に害されようものなら、全員が全力を持ってして排除するだろう。逆も然りではあるが。





私はお風呂から上がると、みんながいるであろう食堂へと向かった。近付くにつれて、いい匂いと楽しそうな声が聞こえてくる。



「みんな集まるの早いね」

「椿が遅いのよ」

「ごめん、ごめん」



ひょっこり顔を出してそう言うと、夕鶴が笑いながら手招きしてくる。

今日のお昼はお蕎麦のようだ。天麩羅もある。弥兵衛の天麩羅はとても美味しいことを知っている私は、思わず唾を飲み込んだ。

いつもの定位置へ座ると、待ってましたとばかりにみんなが食べ始める。

普段から賑やかではあるけれど、今日は杵柄さんがいるからなのか、いつも以上にみんなが楽しそうだ。

こんなにも打ち解けるとは思っていなかった私は、杵柄さんの社交性の高さに感心する。



「この後杵柄さんはどうするの?もう少しゆっくりしていく?」

「えっ?あーうん…本当はもっと遊びたいけど、家に帰ってやらないといけないことがあるから、ご飯食べて少ししたらお(いとま)しようかな」

「えー?綾音ちゃん帰っちゃうのかよー」

「あ、えと、ごめんね?」

「こら、春彦。困らせてはダメよ」



帰るという杵柄さんに春彦が残念そうな声を上げる。それを夕鶴が軽く諌めた。



「今日はこの後何も用事がないの。家まで送りましょうか」

「ええ!?大丈夫大丈夫!こんなにお世話になったのに、そこまでは申し訳ないから…」

「気にしなくていいよ。それに今あんまり電車乗りたくないでしょう?」

「うっ…それは…」



ここへ来たそもそもの理由は、急に見えるようになってしまった先祖返りの姿だ。得体の知れない者が何なのか分かったとはいえ、今あまり人混みには行きたくないだろう。

結局送っていくことになったのだが、何故か葵と夕鶴以外のみんなが付いてくることになった。


月彦の運転で彼女の家に向かう道中、そういえば、と彼女が話を切り出す。



「狐守さんって、苗字の通り『狐』だったんだね」

「……春彦が言ったのね」

「この前のランチの時頑なに教えてくれなかったのに、春彦さんに聞いたらあっさり教えてくれたよ」



私の前の座席に座る春彦は、我知らずと窓の外を見ている。



「…あの時は周りに人がたくさん居たでしょう。だから言わなかったの」

「そういうことか。気が利かなくてごめんね…」

「いいよ」

「でも、葵さんは狐さんじゃないんだね?」



その言葉に私は吃驚してしまった。

そんな事まで喋ったのか春彦のやつ。

そう思いまた前に座る春彦を睨むと、今度は慌てたように弁解し始めた。



「お、俺は言ってない!葵が自分で教えたんだ」

「嘘じゃないよ、椿姉。まぁ春兄(はるにぃ)のせいで言わないといけない雰囲気にはなったけど」



琥珀の暴露に、私はやっぱりお前のせいじゃないか、とまた睨む。

流石の春彦も罰が悪そうにしていた。

そのやり取りを見ていた杵柄さんは私の隣でオロオロとしていた。



「ご、ごめんね!聞いちゃいけない事だったみたいで…」

「……まぁ、葵が自分で言ったのならしょうがない」



葵は、狐ではない。

あの屋敷に住む者は葵を除き、全員が狐だ。

彼はその事に少し引け目を感じているようだった。

引け目を感じる事など何も無いのだけれど、彼は周りと違うことにとても悩んでいる。

だから、あまりこの事に触れることはない。



「あ、でもね!狐じゃないって事しか教えてもらってないの。だから大丈夫!」



何が大丈夫なのかは分からないが、彼女なりにフォローしようとしていることは分かった。

杵柄さんはこの話は終わり!とばかりにパンッと手を叩くと、別の話題に切り替える。



「そうそう!さっき遊んでたゲームなんだけどね、七瀬さんがとっても強くて全然勝てなかったの」

「綾音…弱いから…」

「うっ」

「ふふ、七は暇さえあればゲームしてるものね」

「七瀬に勝てる人なんていないよ!」



杵柄さんの言葉に、七瀬がバッサリと言い切る。

それに私と琥珀は思わず笑ってしまった。



そんな他愛もない話をしていると、彼女の家にあっという間に着いてしまった。

私は彼女を見送るために車から降りる。

マンションのエントランスまで送り私が踵を返そうとした時に、彼女は急に姿勢を正したかと思うと真っ直ぐに私の目を見た。



「今日は色々とありがとう。助けて貰ってばかりだね」

「どういたしまして」

「それと…最後にもう一つだけお願いしたい事があるんだけど、いいかな?」

「なに?」

「その……狐守さんのこと、下の名前で呼んでもいい?」



真面目な顔して何を言われるのかと少し身構えていた私は、思わず面食らってしまった。

今日はなんだか驚いてばかりである。



「じゃあ、私も下の名前で呼ばせてもらおうかしら」



私のその言葉に杵柄さんはぱあっと顔を輝かせると、とても嬉しそうに笑った。



「嬉しい!ありがとう、椿ちゃん」

「こちらこそ、綾音ちゃん」



彼女はとても嬉しそうに、エントランスの向こうへと手を振りながら走っていった。

私も手を振って見送ってあげる。

さて、車に戻るか、とくるっと回ったら全員いつの間にか私の後ろに立ってニヤニヤしていた。

まぁ気付いていたけども。



「…なによ」

「なんでもないー」

「ふっ…椿ちゃんだって」

「椿…嬉しそう…」

「お友達出来て良かったね、椿姉」



煩い!と私は照れ隠しに怒鳴ると、早く車に行けとみんなを追いやるのだった。




葵については、今後しっかり書いていく予定です。今はまだ謎ということで。


椿のお屋敷は、パッと見古めかしい日本家屋の造りですが、内装は現代風になっています。

ネット環境もバッチリの設定です。

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