ウィング
ドラゴン討伐も完了したし、アリサの家に戻るとするか。
ーー家の近く
「引ったくりです!誰か捕まえてください!」
引ったくり?この世界でもそういうやつがいるのかよ...
「マスター...どうやらもう一仕事することになりそうだ」
「うむ、まぁそこまで手間にはなるまい」
まぁ、ドラゴン相手にした後だしね。
適当に片付けますか。
「まだ俺の装備も残ってるし、ここはいっちょ俺がやるか」
「なんだてめえ!死にてえのか!」
目の前の引ったくり野郎が俺にそう言ってくる。
「ははは、ドラゴンに比べてスケールが小さいな」
「何言ってやがる!頭がおかしいのか!?」
話し合いの余地なし!ユウジ撃ちます!
「オラァ!」
「全く躊躇せずに撃ったね...」
まぁ痺れさせるくらいの効果だろ...
「うわああああああ!ぐはぁ!」
めっちゃ死にかけてる...
いや大丈夫かこれ!俺殺人犯になりたくないよ!
「うっ...」
「マスター...こいつ死んでる?」
「ユウジ...今までありがとう」
「待て待て待て!やめろそのノリ!本当はどうなの!?」
「普通に息してるぞ。気絶してるだけだね」
マスターが笑いながらそう言った。
こいつ...さっきスルーしたこと引きずってやがるな...
「まぁ、それならいいか。このバックの持ち主は?」
「あ!私です!ありがとうございます!」
女の子がこちらへ駆け寄ってくる。
いやちょっと待て?この子って
「アリサ?引ったくりにあったのって君だったの?」
「あ!ユウジさんでしたか。助かりました!」
心底嬉しそうな顔でこちらを見てくるアリサ。
この子やっぱりドジだな...
「あー!私のことドジだと思ってますね!酷いです!」
心を読まれた!?ひょっとしてすごい子なのか!?
「いやユウジ...顔に出すぎだよ」
「もう怒りました!今日はユウジさんの晩御飯は抜きです!」
「いやいやいやそれは俺死んじゃうって!ごめんって!」
マジで腹減ったんだって!
女性経験のなさがここで裏目に出たか...
そんなことを思っていたら彼女が笑いだした。
「あはは、冗談ですよ。私のお願いを聞いてくださったのに、そんなことするわけないでしょう?」
完全にからかわれた...
マスターもめちゃくちゃ笑ってるし...
「ま、まぁそれは置いといて!こいつはどうするの?どこかに引き渡すの?」
「あ!ユウジさんにはまだ説明してなかったですね!この国には"ウィング"と呼ばれる、王国を守る軍隊が存在します。このように罪を犯した人を見つけたら、連絡をするのが一番ですね。」
ほー、俺達の国で言う警察のようなもんか。
「もう連絡はしてあるので、そろそろ着くかと」
その後、彼女が小さい声で言った。
「別の世界から来たなんて言ったら、ユウジさんも怪しまれるので気をつけてくださいね!」
確かに、俺が悪人じゃなかろうと向こうから見たらめちゃくちゃ怪しいな。
「分かった」
少し待った後、彼らは現れた。
「報告感謝する。罪の重さに関わらず、人に迷惑をかけるやつは許せないのでな」
悪いやつではなさそうだ。いや、実は悪人パターンか!?
「君が捕まえてくれたのだろ?心から感謝するよ」
「あ、いえ、たまたまです」
しどろもどろに答える俺に
「たまたまだっていいじゃないか。君が悪人を捕まえたという、その事実は変わらない」
とても綺麗な笑顔を見せた。
いや俺にそういう趣味はないよ!
「おっと、私としたことが名乗り忘れていたね。ウィングのリーダーを務めているアーサーだ。ランク帯はゴールド、よろしくね」
人気者によく付く名前だ...
これ絶対良い人だわ...
「ユウジです。こっちはマスター。こちらこそよろしくお願いします」
「よろしく」
ふっと彼は笑った後
「2人ともとても良い眼をしている。その内ランク戦で会うことになるかもしれないな」
「まだブロンズになりたてですが、いつかあなたに追いついて見せます」
「ああ、君達ならきっと来れる、待ってるよ」
そう言って引ったくりを連行して去っていった。
めっちゃ良い人じゃん!大体憎まれキャラじゃないの!?こういうポジションの人って!
...とりあえずキメ顔して上向いとくか。
「ユ、ユウジさん...もう夕方ですし早く家に帰ってご飯にしましょうか」
アリサが少し照れたようにそう言ってきた。
ん?俺に惚れた?
まぁ、今の俺カッコよかったしそれも仕方ないかな...
そんなことを思っていたら、横にいたマスターから一言
「ユウジ...カッコつけているところ悪いが、さっきからお腹が鳴っているよ...」
「ふっ...そんなことだろうと思ったよ。帰ろう...」
こうしていつも通りの俺達で帰宅した。
いや結構動いたし、お腹が鳴ってもしょうがないんだからね!
一方その頃
「隊長機嫌が良いですね?」
「いやさっきの2人に見所があったのは間違いないんだが、少年のお腹がずっと鳴っていたのが面白くてね。ふふっ今思い出しても面白い」