立ちはだかる刺客
残り準決勝、決勝のみとなったので、俺は再度トーナメント表を確認しにいくことにした。
残りは俺も含めて4人なのですぐに確認することができた。
・バット
・ショウ
・ユウジ
・サイモン
なんとなく、バットとサイモンの使うモンスターが分かった気がしたが、名前で決めつめるのは失礼だなと思い、頭を振った。
そんなことをしている間に、いつのまにか俺の前に2人の男が立っていた。
名乗られてないけど、多分この人達は……
「えーと、サイモンさんにバットさんで合ってますか?」
「よく分かったな! 我こそがサイモン! 相棒はライノ!」
「俺はバット! このコウモリが相棒さ!」
サイとコウモリ連れてるからもしかしてと思ったら本当にそうなのかよ! いや逆に名前と親和性が高いからそうしたのかな?
どうでもいいことだが、テンションの高さに俺は圧倒されていた。
最終的には俺を無視して、お互いに決勝で会おう! などと言って去っていった。
この時間なんだったんだよ!
結局もう1人の「ショウ」ってやつのことは何一つ分からなかったうえに始まる前から無駄に疲れた……
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
──準決勝
スライムを引きちぎれ! とか物騒なこと言ってるな……と思って、マスターの方を見ると「ふっふっふっ、私を楽しませてくれよ」と言っていた。
こっちもこっちで完全に悪役のセリフだったので俺は黙っておくことにした。
早速試合が始まり、サイモンがライノに指示を出す。なんとなく想像はついていたが、攻撃に特化しているようだ。
『引きちぎり』
ライノがマスターを掴み、引きちぎろうと左右に引っ張る。いや、これグロテスクだな……スライムだから仮に引きちぎられても問題ないだろうけど。
マスターもマスターで避けられる攻撃をわざと食らってるみたいだし、本当に悪役みたいになってるな……
『スラバーニング』
掴まれていることを逆手に取りマスターが燃え上がる。その炎がライノを包み込み、大炎上を巻き起こした。殺してはいないみたいだが、ものすごい炎だった。
ちなみに試合後のマスターは物凄いスッキリとした顔をしていた。
「完敗だ.いやその強さに乾杯と言うべきか.」
謎のダジャレをスルーして、俺達は向こうの試合を見学しに行く。
どうやら決着がついたようだ。
「勝者はショウ選手!」
さっきのくだらないダジャレのせいで少し笑いそうになってしまった。
それはさておき、薄々予感はついていたが、バットも負けていた。本当に何だったんだあいつら……
「決勝戦よろしくね」
ショウと呼ばれる選手が俺に声をかけてきた。
こちらも挨拶を手短に返して、それぞれの場所へと向かう。
手短に返し、控え室に戻ろうかとしたところでショウがもう一声かけてきた。
「この大会で出会えるとは思わなかったよ。僕はなんてラッキーなんだ」
何だ? この男は何を言っている?
まさかとは思うが、俺のことを──元いた世界のことを知っているのか?
訝しげな顔で俺が見ていると、
「とぼけなくてもいいよ。君自身が一番よく分かっているはずさ」
意味深な言葉を呟いてショウは去っていった。
マスターに十分に気をつけてくれと伝えて俺達も決勝戦へと向かう。
あいつ……一体何者なんだ?
──決勝戦
「さぁついに決勝戦! ブロンズランクの称号を得るのはどちらのプレイヤーとなるのでしょうか!」
ショウもスライム使いのようで、ダークスライムというモンスターを呼び出した。
さっきのことは気になっているが、一旦頭から消して戦いに集中することにした。
『ダークカッター』
闇から創り出した鋭利なカッターがマスターを襲う。しかし、マスターはあらかじめ予想していたようで、すんなりと攻撃を避けきる。
『スラスパーク』
マスターの身体が激しい摩擦により、光を放つ。そしてその火花がダークスライムへと炸裂する。直撃したこともあり、勝負はあっさりついた。
……思わせぶりな発言した割には呆気なかったな。ショウは敗北したことに動揺を隠せず、唖然としている。俺がさっきのことについて尋ねようと近づくと、
「せ、せっかく女神に会えたのに……僕の日ではなかったと言うのか!」
へ? 女神? 俺は訳が分からずに考えていると、ショウがアリサの方を手で示した。
あー……なるほど。うんそういうことね。
「あぁ、美しい。僕と結婚してください」
「け、結婚!? ご、ごめんなさい!」
何故だ……僕が負けたからなのか? とショックを受けているショウだが、そりゃ初対面の女の子に結婚申し込んでOK貰えるはずないだろ……
いや俺も彼女いたことないんだけどね。
「ユウジ君に敵わないのも、今の僕では彼女に近づく権利がないのも事実だ……ここは一旦引かせてもらうよ。すまなかったね」
またいつか会おうと言って、ショウは去っていった。
アリサが困っていることを察して、あっさり引くあたり、根は悪いやつじゃなさそうだ。
──表彰式
「それでは表彰式に移らせていただきます! 見事優勝したユウジ選手はブロンズランクに昇格です!」
マスター様々だなぁ。と思っているとそのマスターが俺に声をかけてきた。
「そう卑屈な顔をしないでくれ。私は君と共に戦えて良かったよ」
マスターが嬉しい言葉をかけてくれる。本音だということは言うまでもなく伝わっており、すごく嬉しい反面、俺も頑張らなきゃなと心に誓った。
そんな会話をしている俺達の元に、本日解説を務めていたリュウさんがやってくる。
お疲れ様です。と声をかけると、「ありがとう。今日はほとんど解説することがなかったけどね」と笑いながらリュウさんは言った。
続けて今の話を聞いていたんだけど、
「そのスライムの言う通りだと思うよ。モンスターバトルにおいて、信頼関係というのはとても大切だからね。僕も君達と戦える日を心待ちにしているよ」
それだけ伝えたかった。と言ってリュウさんは帰って行った。先輩なりの気遣いなんだろうなとリュウさんに感謝した。
ここから先──モンスターマスターへの道は遠いけど、マスターとならいける気がする。不思議とそう思う俺であった。
──ユウジブロンズランク昇格!