衣食住問題
ランク戦に挑むべきだよな? と考えていた俺だったが、それより先に衣食住の問題を解決しなければ。
時を同じくしてマスター(マスタースライムと呼んでいたら堅苦しいと言われた)も同様のことを考えていたようで、頭を捻らせていた。
悩む俺達を尻目に、
「あのー、それなら私の家に泊まったらどうでしょうか?」
アリサが突然声をかけてきた。
なるほど、アリサの家に泊まるか。確かにこの世界の唯一の知り合いだしありだな……っていやいやいや! それはダメだろ!
まだ俺が何も言っていないにも関わらず、マスターが哀れみを含んだ目でこちらを見てくる。
やめろ! そんな目で俺を見るんじゃない! 大丈夫だ!
「いえいえ! 私を助けたくださったお二方にお礼をしたいんです! それに……ユウジさんなら変なことをしないって信じてますから!」
アリサが純粋そのものといった顔で 、俺を見つめてくる。
ここで断るのも失礼だよなぁ……
……気は進まないけど仕方ないか。
──こうして俺たちはアリサの家に住まわせていただくことになった。嬉しいけど素直に喜べない……
「お姉ちゃん、その人達もこれから一緒に住むの?」
リビングに通されて、落ち着かない中座っていると後ろから声が聞こえてきた。
声のする方に振り返ると、そこには黒髪の女の子が立っていた。
ユリ! と言ってアリサが声をかける。どうやら彼女は妹さんのようだ。
アリサが必死に説明しているが、俺のせいなのだから彼女が申し訳なさそうにする必要はない。
「俺の名前はユウジ。いきなり困惑させたよねごめん。君が嫌だというのであれば、俺は今すぐここを出て行くから遠慮しないで言ってくれ」
とりあえず丁寧に彼女の妹にそう告げた。彼女達に嫌な思いをさせるわけにはいかないし、純粋に邪魔になるのであれば、野宿をしよう。
そんなことを考えていると、
「別に気にしてません.それに、お姉ちゃんの命の恩人に出てけなんて言えませんよ」
彼女はそう言って、自分の部屋に戻っていった。
怒ってはいないと思うけど……本当に大丈夫なんだろうか?
「ふふっ、ユリは少し人見知りですけど、良い子なんですよ? 全然大丈夫です」
アリサがいきなり声をかけてくる。いきなりのことだったのもあるが、まるで心を読んだかのようにそう言うので、かなりびっくりしてしまった。
それよりもこれからどうするんですか? とアリサが俺達に問いかける。
特に決めてないけど、ランク戦のこととかは知りたいかなと答えると、
「ならまずはこの近辺にある国へ行きましょう! ランク戦はもちろん、様々な建物がありますよ。案内させてください!」
まぁ俺達としてもありがたいことなので、ここはお言葉に甘えることにした。
横でガイドさんになった気分でワクワクします! とアリサが少し興奮した様子で言っていたのを見て、面白い子だなと思ったのは内緒だ。
──国
「さぁ着きました!」
「へー、結構広いんだね。この世界には他にも国があるの?」
想像していたよりもかなり広い。もしかしたら、この世界自体が俺の住む地球よりも広いのかもしれない。
ただ単に気になったことを聞いただけのつもりだったが、アリサがとてもキラキラした眼でこちらを見てくる。
よくぞ聞いてくれました!
コホンと咳払いをした後、アリサが話し始めた。
そういえば、ガイドさんって言ってたな……
「この世界は大きく分けて4つの国で形成されています。今私たちがいるここが、その内の一つ、通称"スフィア"と呼ばれる国です」
なるほど、東西南北みたいなもんか。1人納得した後、ちょうどエントリーできるみたいですけど、ランク戦の会場に行きますか? と問われる。
答えはもちろん決まっている。俺だけじゃないと思うけど、 『男』 ってこういうのに参加したくなるもんだよな!
とはいえ、マスターの意思を無視するのもあれだなと思い、そちらを見るが──
少し呆れた顔をしつつも、君に着いて行くよと言ってくれた。
「よし! 早速挑戦だ!」