勇気を出したら死んじゃいました
誰しも「死にかけた瞬間」っていうのを語りたがる。
俺も一度はそんな経験を誰かに語ってみたいな、何て楽観的に考えていたんだ。
──昨夜
どこにでもいる普通の学生「櫻井雄二」はその日もなんとなく日々を過ごしていた。
「あーあ、なんか面白いこと起きないかな」
そんなことをふと呟くと、
「雄二はいつもそれだな!」
「武勇伝が欲しいんだもんな」
友人たちに茶化される。
いや、まぁね? 俺が変なこと言ってるのは分かってるんだけどさ……
そうは言っても刺激的な体験なんてものをしてみたいんだよ俺は。
ただ刺激的な体験ってのは、いきなり来るものということをこの時の俺はまだ知らなかったんだ。
──現在
「全員、全員殺してやる!」
友人と別れ帰路に着く俺の前にそう叫ぶ男が。
最初は撮影かな? なんて思ったけどそうではない様子。
「や、やめてください」
どうやら女性を人質に取っているようだ。
これ俺に救えってことか? 難易度高くね?
いやでもこれはチャンスなんじゃないか?
とりあえず突っ込んでみるか!
「うおおおおお!」
俺の渾身の体当たりが炸裂!
俺が漫画の主人公ならこれでみんな助かるんだけど.そうはいかないよなぁ。
「は? 誰だよお前は? もういい、お前から死ね」
それは俺のセリフだと言いたいところだったが、そんな暇はなく、ナイフが俺の身体に刺さる。
痛い、痛い、痛い、痛い──
いやマジで痛すぎる。
アニメやドラマはフィクションだったのかよ! あんまり痛そうじゃなかったじゃん!
あぁ、でも今俺が刺されたことで、あいつを取り押さえる隙が出来たようだ。
「大丈夫ですか! 大丈夫ですか!」
さっき助けた女性が俺に向かって声をかけている。
ここでカッコ良く、「大丈夫、君を守れて良かった」なんて言葉をかけれるやつが主人公になるんだよな。
もちろん俺にそんな気質はない。
──だからとりあえず素直に思ってたことを言っておこう
「──将来は英雄なんてもんになってみたいもんだ」
薄れゆく意識の中で俺はそう呟いた──