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**sideトマ**
一騒動あったレイラのラズベリーガーデンパーティーからしばらく後。
改めて仕切り直しをしたいとレイラはまたいろいろと策を講じている。
場所は以前も訪れた湖の畔に決めたらしく、いまはそこまでの移動手段で頭を悩ませている。
「前はそれぞれの家の馬車だったのよね。それじゃ特別感がないわ。なにか素敵な馬車を用意しないと。そうね、例えばカボチャの馬車みたいな…」
「なんでわざわざカボチャで馬車をつくるんだ?意味がわからない」
「…………」
レイラの呟きに反射で答えると、なぜかすごい顔で見られた。…なんでだ?オレが悪いのか!?
一時のために馬車を仕立てるなんて狂気の沙汰だと思うが、今回はモンタールド侯爵家へ陛下から慰労金が支払われたらしい。
これが微笑みの悪魔の交渉の結果であることは容易に想像がつく。そしてそれをすべてレイラに与える甘さも。
―――父様も結局ただ娘に甘いだけなんだよな。
「あらトマ様、また背が伸びたわねえ」
衣装の採寸をしながらロイドさんが言う。
「まあ、少しは…」
人より頭ひとつ分は高いロイドさんに言われても、喜び辛くて曖昧に頷く。
…オレだって一番低いのは気にしてるんだい。
「成長期ね。いろいろ直さないといけないかしら」
「なんかすみません…」
「やだ。今回は全員お揃いだっていうし、全然楽なのよ」
ロイドさんは朗らかに笑って首を横に振る。
頻繁におかしな趣向のお茶会を開くレイラはわかっていないが、ロイドさんの仕事の早さは異常だ。たった数日で令嬢4人分の衣装を仕立てることができるのは彼だけだろう。
ロイドさん自身は『むかしからなにか作るのは得意だったのよ。デル・テスタ家の血ね』なんて簡単に言うが、レイラの言葉を借りるなら、これがチートというやつだろう。
レイラもロイドさんの非常識さを当然だと思って街の仕立て屋に注文を出すのだから、パピヨンでお針子を雇うのはやっぱり現実的じゃなかったと思う。
そしてその後を補填したレアード氏も、その有能さはいっそ非常識なほどだと忘れてはいけない。
レイラも『彼は猫型ロボットよ』と評していた。…いや、意味がわからない。
***
色とりどりの可憐な小花が咲き誇る湖畔に、クリスタルと呼ばれるガラス細工で飾られた見事な馬車が数台、乗りつける。
午後の陽射しをキラキラと跳ね返す馬車は、まさにレイラの理想通り、おとぎ話のよう。
そしてそれぞれの馬車から物語の登場人物たちが降りてくる。
ラズベリー色の髪の華やかな彼女に、天鵞絨色の髪のクールな彼。オレンジ色のやんちゃそうな彼に、しっかり者の彼女。
快活そうな彼女と、おっとり微笑む彼女。
その後を続く大柄な金髪の彼に、藤色の髪の美しい紳士とシナモンベージュの髪の可愛らしい侍女。
それから夜色の髪の気高い彼と、桃色の髪の少し所在なさげな彼女。
本日のドレスコードは『ラズベリー』。
彼女ら彼らは、それぞれ揃いのラズベリー色のドレスまたはフロックコートスタイルだ。
まだ緑の濃い自然の中で、見目のいい男女が揃いの衣装で集う様はまさに非日常。
レイラはうっとりと目を細めた。
「お嬢様、準備はすべて整っているそうです」
専属侍女であるマリーが言う。
「そう、ありがとう」
そしてレイラははじまりの言葉を告げる。
「さあピクニックをはじめましょう」
まだ陽射しがあるとはいえ、秋冷えを防ぐため厚手の敷物を二枚重ねて敷いた。でこぼことした地面の感触もなくなりちょうどいい。
異国のスパイスを効かせたミルクティーで身体を温めて、モンタールド家自慢のお菓子を堪能する。育ち盛りの男の子の胃袋を満足させるため、今回は軽食も用意されていた。どれもモンタールド家の料理長自慢の逸品だ。
「本当はもっときちんとした場に招待したかったんだけど、ごめんなさいね」
「ううん、いいの…!またレイラに誘ってもらえてわたし本当に幸せ!」
ハンナはうれしそうに頬をバラ色に染める。
その顔にお菓子の屑がついていて、レイラは可愛くて笑ってしまう。
10人以上集まっても余裕な大きな敷物の上には、いくつものクッションや、ユニコーンやねこのぬいぐるみが散らばっている。
マリーはお気に入りのお月様のクッションを抱きしめて、ロイドとイリスは特別に用意した甘くないチャイティーを飲んで、マルセルとトマはもっきゅもっきゅとランチボックスを空にすることに忙しい。
エマとリーサは花を摘み、小さなブーケをつくって楽しんでいる。
「レイラ、これはなんていうドラゴン?」
「ルチアーノ様ちがうわ。角がはえているのがユニコーンで、翼があるのがペガサスよ」
なんかこのセリフ既視感あるわね、とレイラは首を捻る。
それら全部を横目に、夜色の王子様はクッションを枕にごろりと寝転んだ。
「どうした、アドリアン」
「別に。みんな楽しそうだなーって」
ふてくされたようなアドリアンの声に、ルチアーノは眉を下げる。レイラはぱちぱちと瞬きをした後、ぐるりと見回して納得した。
「ああ…殿下モテないから、いじけちゃったんですね」
「なるほど。婚約者同伴じゃない男はアドリアンだけか!」
失礼な二人の言葉にうっと項垂れたアドリアンは、がうっと勢いよく顔をあげた。
「あのな!オレに婚約者がいないのは、オレが王族だからなせいで…」
「ちがうわね。殿下自身の問題よ」
「そうだな」
ストーカー紛いのことをしたり、不法侵入をしたり、まともな人ならそんな相手お断りだ。
うんうんと頷く二人に、アドリアンはぐぬぅと呻くばかり。二の句が継げない。
「でもわたくし、殿下はブノワトを気に入っているのかと思ってましたわ」
レイラがそう言うと、アドリアンはふっと笑った。
「そうだな。あの苛烈な性格はおもしろいと思った。見ていて飽きない。まあ、呆れることも多かったが」
あら、とレイラは眉を上げる。
「殿下とブノワト、二人とも美男美女だしとっても似合っていたわよ?」
「冗談じゃないよ、それ見た目だけってことだろ?オレは曲がりなりにも王族で、国を支えていく役目があるんだから、適正のない女性を迎える気はないよ」
「ブノワトが市井で揉まれて更正したら、どうだ?」
「そうしたら市井で生きていくだろうよ。なんだよ、ルチアーノまで。オレとブノワトをくっつけたいのか?」
「そういうわけじゃないが…」
レイラとルチアーノは顔を見合わせる。
ただ、友人にいい出会いをしてほしいだけだ。
「大体ここにもパートナーのいない女性は二人いるじゃないか」
「そうね。エマはどう?」
「エマ嬢にはもうフラれたよ。…オレより父王のがいいって」
「えっと、なんかごめんなさい」
やだ。エマの好みを失念していたわ、とレイラはこっそり舌を出す。
「ハンナは?」
「ハンナ嬢?ハンナ嬢は……」
眉を寄せたアドリアンはルチアーノの言葉に答えようとして、はたとハンナを見る。
「…ハンナ嬢か」
ありかもしれない。
「っ、やだ、なんか寒気が…!?」
変態にロックオンされたハンナは、ぶるりと身を震わせた。…えっと、本当にごめんなさい。




