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「くれぐれもご無理はなさらないでくださいね」


「大丈夫よ。もうずいぶん休ませてもらったし、マリーが怖いから昨日はぐっすり寝たわ」


「お嬢様!」



マリーの叫びをレイラはくすくすと笑って受け止める。



レイラがよろめいて早退した日から今日まで数日、療養と称してずっと学園を休んでいた。ちょっと疲労が溜まっていただけなので、眠らせてもらえば十分回復したのだが、マリーは譲らない。


…学園を休んでいるのをいいことに、パーティーの準備作業をせっせと進めていたせいかもしれない。



「きちんと今日を迎えられたんだからいいじゃない」


「ですが…」



「私も心配だな」



「ルチアーノ様!」



レイラとマリーのやり取りに第三者の声が割り込む。


レイラはドレッサーの鏡越しに彼を見て、ぷうと頬を膨らませる。ラズベリー色の髪を整え終えたマリーがそっと離れた。



「いやですわ。ルチアーノ様だってよくご存知ではないですか」



ルチアーノはレイラが学園を休んでいる間、毎日モンタールド邸を訪れていた。


ルチアーノはにこりと微笑んで、レイラの背中越しに鏡を覗きこんで視線を重ねる。



「たしかに。今日のレイラはいっそう美しい」



ラズベリー色の長い髪をハーフアップにして、残りを優雅に背中に流して。ドレスは煌めくシャンパンゴールド。ふわりとまるく広がるスカートの形が美しい。

ルチアーノが手を差し出すと、細くしなやかな手が重ねられる。その指先は艶やかな深いグリーンで、中指にだけつけられた小さなビジューがアクセントになっている。



ルチアーノが手を引くと、レイラはすっと立ち上がった。



立てばなお美しい。

足元は爪と同じビリジアン色のヒールで、細いストラップがレイラの白い足首に絡みつくような複雑なデザイン。こちらも丸いビジューが控えめなアクセントになっている。



ルチアーノは思わず目を細めた。


そしてレイラもやっぱりと目を細める。



レイラと同じシャンパンゴールドをベースに、袖と襟部分が黒いシックなタキシードを着た婚約者の腕に手を滑らせる。


彼の肩に手を置いて、すこし背伸びをしたレイラはそっと耳元で囁いた。



「ルチアーノ様、こういうのお好きでしょう…?」


「えっ!?」


ルチアーノの肩が大きく揺れる。


「わたくしにはお見通しですよ。ルチアーノ様はお御足が好きでしょう。それとも靴フェチかしら…?」



じわじわと赤く染まる耳朶にレイラはくすくす笑う。



ルチアーノがいつもちらちらとレイラの足元を気にしているのには、もうずっと以前から気がついていた。だが、確信したのは最近だ。


ルチアーノに決別宣言した後のゆめかわドールパーティー。

ルチアーノが乱入して仲直りできたあのパーティーで、彼はなにかとレイラの履いていた白いボーンサンダルを見ていた。


はじめは顔を合わせづらくて視線を落としているのかと思っていたが、どうも違う。

そして合点がいったのだ。



―――あ。この人足フェチだ、と。



もしかしたら、入学パーティーで躓いたハンナを助けたときも、ハンナではなくハンナの足元しか見ていなかったのかもしれない。



やだ、あり得るわ。と頷くレイラの隣で「気づかれていたなんて…」と項垂れるルチアーノ。



「でもね」


「!」



ぐいっと強く肩を引かれる。



「ぼくが見ていたいのはレイラの脚だけだよ」



そのまま顎を囚われ、ちゅっ、と頬に口付けられた。



「~~~っ!?」


「誕生日おめでとう、レイラ」




***

ラズベリーガーデンパーティー、もとい、レイラ・モンタールドの誕生日パーティーは今年も盛大に開催された。


数年ぶりに婚約者と一緒に登場したレイラは、祝福と冷やかしの声で迎え入れられる。



けれどレイラが口を尖らせて、ルチアーノがひどく上機嫌である理由は別にある。



「ルチアーノ様なんて、ルチアーノ様なんて…!」


「はは。かわいいね、レイラ」



レイラの手の上でころころと顔色を変えていたかわいい男の子はどこにいってしまったんだろう。


ルチアーノからちらりと垣間見えた雄の気配に、レイラは中途半端にからかうとこっちが翻弄されるわ、と臍を噛んだ。



パーティーはレイラのプロデュースだが、主催はモンタルード家のため、当主である侯爵の挨拶からはじまる。


それから今年正式に招待したアドリアン王子殿下が登場して、レイラはルチアーノのエスコートで彼の元に赴く。



「ご来訪いただき、ありがとうございます」


「うん。今日もきれいだね、レイラ。誕生日おめでとう」



それからレイラは毎年用意している自分専用のお誕生日席に座る。


11歳の誕生日パーティーで婚約を発表したとき、ルチアーノの席を用意しなかったことをとても悔やんだが、結局翌年以降もルチアーノのための椅子が用意されることはなかった。


ルチアーノはパーティーに参加しても、父親である公爵の近くやアドリアン王子の側にいて、レイラの隣にずっといるなんてことはなかったから。



じつは今年も一人掛けの椅子で、ルチアーノの分はない。けれどルチアーノはレイラの隣から離れることはなかった。



「ルチアーノ様、殿下のお側にいなくていいの?」


「いいでしょ。今年はアドリアンの独断ではなくて、きちんと招待を受けて参加しているから護衛もちゃんとついてるし」



上座に用意された席で、アドリアンはモンタールド侯爵やサルヴァティーニ公爵と談笑している。その後ろには王宮の兵士が控えている。



招かれた貴族たちはレイラに毎年恒例の祝福の言葉をかけると、すぐに上座へ移動していく。


そしてそのうちレイラの周りに残るのは同世代の友人たちだけになるのだ。



「レイラ、おめでとう!」


「ありがとうエマ」



「レイラ、お誕生日おめでとう」


「おめでとう」


「ありがとうイリス、マルセル様」



「おめでとうございます」


「今年もおめでとう、レイラ」


「ありがとうリーサ、トマ。二人もおめでとう!」


まだ正式な発表はまだだが、トマはリーサのご両親と挨拶を済ませた。二人の進展が楽しみだ。



「オレも入れてよ、レイラ~」


そして上座からふらふらとアドリアンがやってくる。


「殿下の席は上座ですよ」


「けっ!去年まではオレを理由にレイラから逃げていたくせに」


ルチアーノを睨むアドリアンは今日は空色の髪をしている。昼色の彼は久しぶりだ。


それでも夜色の彼と同じように、ツーブロックの上部分を高い位置で括っている。やっぱりなんだか柄が悪、いや野性的だった。



なんだかんだといつものメンバーが集まって、レイラはきょろりと周囲を見渡す。



「ハンナは?ハンナは来ていないの?」

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