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「ハンナ…あの……」


想像以上にヘビーな話にレイラは言葉がでなかった。



「わたしね、いま家出中なの」



けれどハンナは一転してにっこり笑う。



「ブノワトが養女になるって話が出てから、家には彼女のための侍女が何人も来てね、元の使用人たちとトラブルになってるの。だからわたしおじいちゃんを頼ってここにいるのよ。連れてきたのは、あの子だけ」


そう言ってハンナはあの白い猫を指差す。


「侍女が侍女を連れてくるなんて笑っちゃうわよね…」



「あの、大変なのはよくわかったんだけど…」


ルチアーノがおずおずと問いかける。


「その話とレイラを傷つけたことは繋がるのか?その、ブノワトのことは信頼していなかったんだろ?」



ハンナはルチアーノを見て目を細めた。


その瞳に以前のような温かみはない。



「怪しんだり疑ったりはしても、嫌ってはいなかったの。仲良くなろうと努力したわ。だから彼女の言う通りにした」


レイラと知り合ったことを伝えたら、毎日あったことを話せって言うから話したし、ルチアーノ様に近づけって言うから近づいたし、レイラパピヨンのドレスを作ってもらってこいって言うから、お店にまで行ったわ。



「まあ!」


レイラは口許を押さえた。


あのときハンナが不自然に店にやって来た裏には、そんな事情があったなんて。



「おい!そんなの、」


「ルチアーノ様には文句を言わせないわよ」



ハンナはきっ!とルチアーノを睨む。



「あなただってわたしを利用したわ。いつもレイラの状況を聞き出そうとしていたし、パピヨンのこともわたしに聞いていた。自分でレイラに聞けばよかっただけなのに!」



声を荒げたハンナは「でも」と勢いを落とす。



「でも、入学パーティーのときと、ダンスの授業だけは助かったわ。ありがとう…」



「ルチアーノ様、そんなことしていたのね」


「うっ、レイラ…」


レイラにじとりと睨まれてルチアーノは変な汗をかく。



「ふふっ」


ハンナは眦に滲んだものを拭って笑った。



「レイラ、ごめんなさい。でもルチアーノ様はいつもあなたのことを聞いてきたわ」


「ハンナ」


「レイラをあんな風に人前で責めてしまったことも本当にごめんなさい。…あの日ね、朝からブノワトが他の使用人と揉めていたの」


ハンナは続ける。


「わたし、そこでブノワトが前にモンタールド家にいたって聞いて気が動転して…。侯爵家に嵌められたんだって、自分は侯爵家に追放されたんだって言われて、真に受けちゃったのよね」



「…でも実際、お父様が仕組んだのは事実よ」



レイラの言葉にハンナは悲しそうに笑う。



「でもあれはいけなかったわ。王子様に『そこまでブノワトを信頼してるのか?』って言われて、ちっともブノワトを信じてない自分に気づいた。じゃあなんでレイラを責めたのよ、って話よね。愕然としたわ」


「ハンナ…」


「ごめんなさい、レイラ」


「いい、いいのよハンナ。話してくれてありがとう」



レイラはそっとハンナの肩を撫でた。



「っ、レイラ!!」



感極まったハンナは、わっとレイラの首に抱きついてくる。



「ごめんなさい!わたし本当は、ブノワトが追放されたとかどうでもよかった…!そうじゃなくて、侯爵家での一件がなければ彼女が養女になることもなかったのにって、ただの逆恨みだったんだわ…!!」


「うん、わかるわ。そうよね」



レイラはハンナを抱き締めて、その桃色の髪を撫でる。



「ごめんなさい…」


「やだ、もう泣かないで」



ぐすっと鼻をすするハンナの顔を覗き込んで、レイラは笑う。



「…………」


ルチアーノは空気だった。



「そんな顔見たらおじいさまが心配するわ」


「ぐすっ、レイラ、もう一度わたしと友達になってくれる…?」


「やだ、当たり前じゃない」


「うえええん、レイラぁー!!」


「まったく、かわいい顔が台無しよ」



「…………」


ルチアーノは空気だった。



「あのねこちゃんかわいいわね」


「うふふ、そうでしょう?」


「あの首輪も素敵」


「あれねえ…。かわいいんだけど、でも、ブノワトが見つけて買ってきたものなのよね」


「まあそうなの?」


「そう、いまとなってはちょっと複雑よね」



レイラとハンナはまるで姉と妹のように親しげだ。



「ねえ、ちょっと?」


空気だったルチアーノが口を開く。



「レイラ、ぼくのこと忘れてない!?ていうかそんな簡単にハンナのこと許すのか?」


「だって事情を聞いたらハンナがかわいそうで。それに悪いのはブノワトだわ」


「だからって…!!」



レイラの胸に頭を寄せたまま、ハンナがルチアーノに「べ」と舌を出す。



「なっ、レイラはぼくの婚約者だぞ!!?」


「あなたみたいな朴念仁にレイラはもったいないわ!」


「な、なんだって!?」



一気に賑やかな空気に変わり、レイラもほっと胸を撫で下ろす。


そこに「かっかっかっ!」と笑い声が響く。



「元気になったみたいだな、なあハンナ」


「おじいちゃん!!」



家に入ってきたのは先程の男性だった。


レイラとルチアーノは立ち上がって会釈する。



「お邪魔しています」


「ああ。あんたたち、ありがとうな」



それから少しだけ話をして、レイラとルチアーノはお暇することにした。


ちゃんと学園にも来てね、とハンナと約束をして。



外に出るともう夕暮れになっていて、ガレットの店はまた次の約束に持ち越された。


レイラとルチアーノは手を繋いで通りまで歩き出したが――すこし開けた道に出たところで、モンタールド家の小型の馬車が待っていた。

…心配かけちゃったのね。

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