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「マリー、わたくしはゆめかわいいものが好きなの」


「はい、お嬢様。ところでゆめかわいいとはどういったものでしょう?」


「そうね、少し定義が難しいのだけど、共通するものがあるわ」


「それはなんですか?」



「わたくしがときめくかどうかよ!マリー、この部屋はゆめかわいくないわ!模様替えをしましょう!」



レイラは自室を見渡して宣言した。

侍女のマリーは「かしこまりました」と了承する。



「まずは壁紙を変えたわ。基本のピンクよ!最高!」


「さすがお嬢様、仕事が早いです」


「それから床ね。お父様におねだ…いいえ、お願いして、毛足の長い白のラグを用意してもらったわ」


「素晴らしい手触りですね」


「次にカーテンよ。お母様に相談して、ピンク系のものを探してもらったの」


「ローズピンクですね。金糸の織りが美しいです」


「すこし渋いのよね、もう少し淡い色がよかったわ」


「こちらも素敵ですよ、お嬢様」


「それからベッド。天蓋もベッドカバーもライラック色に染めさせたわ。なかなかでしょう?それから、これよ」


「??これはなんですか?」


「ガーランドよ。このビジューをこうしてぶら下げるの」


「っ、お嬢様!きらきらしています!」


「ふふ、マリーもようやくわかってくれたみたいね」


「この大きな花輪は…?」


「生花を編んだのよ。壁にかけるの。花瓶に生けた花より素敵じゃない?」


「素晴らしいです!お嬢様!」


「それから仕上げにこのランプを…」


「お嬢様、これは…!!」




「レイラ、いるー?」


ノックをして、姉の部屋の扉を開いたトマは目を見開いた。


「なんだこの部屋、目がチカチカする…!!」




「マリー、わたくしはゆめかわいいものが好きなの」


「はい。存じております」


「フルーツ柄もかわいいわよねえ」


「お嬢様、御令嬢の嗜みといえば刺繍です。刺繍のモチーフにするのはいかがですか?」


「いいわね!さっそく先生をお呼びして!」


「かしこまりました」



侍女マリーの手配で、レイラの元にすぐさま刺繍の先生がやってきた。



「よろしくお願いしますね、レイラさん」


「はい、先生。このハンカチに刺繍すればいいのかしら?糸の種類が少ないわね」


「レイラさんはなにを刺すのでしょうか?」


「まずはいちごね」


「まあかわいらしいピンクのいちご」


「次はぶどうよ」


「水色のぶどうですか」


「次はオレンジ」


「薄緑と薄い黄色の…ライムかしら」


「どうですか?先生」


「うーん…」


「先生?」


「ええ、決してうまくはないのですが…。なんでしょう、歪みまで計算されたようなこの仕上がりは!」


「自分でいうのもあれだけど、へたうまってやつね…!」


「素晴らしいです!お嬢様!」


「やめてちょうだいマリー、照れるわ」




「最近みんなエプロンやハンカチーフに刺繍を入れてるんだけど…」


トマは屋敷の使用人たちに流行っている刺繍のモチーフに首を傾げた。


「なんで果物があんなへんてこな色合いなんだ!?そして絶妙に下手!」




「ふつうの刺繍も飽きたわね。もっとかわいいのがいいわ。ビーズ刺繍にしましょう」


「ビーズ刺繍…ですか?」


「あら?ビーズはないのかしら?じゃあ小さなビジューを縫いつけて…でもこれ…やだちょっと…」


「お嬢様、新作ですか?いちごの種がきらきらしていますね、とても素敵です!」


「あらロイド。でもちがうの、本当はビーズ刺繍がしたかったのよ。でもわたくしには難しくて…これをね、こうして…」


「ほう、ほうほうほう!なるほど!創作意欲が沸き立つようです!」



その後ロイドが作り上げた大作を見て、刺繍の先生は目を回した。



「なんでしょうこの芸術は!素晴らしいです!ええぇ、これが刺繍なんですか!?これは必ず流行りますよ!旦那様!奥様ぁー!!」


「きゃあああ!これ本当に素敵、次の夜会用のドレスに採り入れたいわ!」


「お母様、いくら小さいとはいえビジューですから、ドレスにこれだけの量を縫いつけたら重たくて動けません。だから夜空のように散らばる程度にしましょう」


「まあああ、素敵!レイラ素敵!」


「お父様、今後のために軽量化したものを作りましょう。ガラスでいいのです。けれど極小のものがいいですわ」


「簡単に言うけど、相当な技術が要るよね。まあいいか。あてがないわけじゃない、聞いてみよう」




「お母様の先日の夜会のドレス、きらきらしていてキレイだったなあ…」


トマは侯爵邸の廊下に飾られたロイドの大作絵画を見上げる。


「このモザイク画も見事だよなー。なんでこれを描けるすごい人が、姉様、ごほん、レイラに一目置くんだろう?」




「マリー、わたくしはゆめかわいいものが好きなの」


「はい。ビーズ刺繍はもうされないんですか?」


「ビジューね。ええ、あれはどちらかというとゴージャスかわいいで、わたくしが求めているものとは違うわ」


「そうでしたか。さて今度はなにを?」


「すこし気分転換してみようと思って」


「その心は?」


「マリー、ヘアアレンジよ!」



レイラとマリーは次から次へと新しい髪型に挑戦していた。…ロイドの髪で。



「うーん、お嬢様むずかしいです」


「ここはもう少しゆるく結った方がいいわね」


「…あの、お嬢さん方?なぜ私が練習台になっているんですかね…?」


「もちろんお嬢様のためです!!」


「あのね、マリー」


「いいじゃない。ロイドも似合ってるわよ」


「お嬢様までそんな、いてててて」


「あ、失礼しました。すこし加減がわからなくて。お嬢様の御髪でなくてよかったです」


「ちょっとマリー!?」


「ふふ。ロイドもマリーも仲良しね」




「おはようレイラ。今日も凝った髪型だなあ。夜会用かよ?早くない?」



毎朝顔を合わせる度にトマにそう言われ、レイラはついに爆発した。



「ちがうのよ!わたくしが追い求めているのはゆめかわいいであって、ゴージャスかわいいじゃないのよおおおお!!」


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