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「なに描いてんの、レイラ」



お母様大変です。トマがルチアーノ様の真似をして、わたくしを呼び捨てるようになってしまいました。


まあまあまあ。


『姉様』呼びかわいかったのに…。


嘆かわしいわねぇ。



なんて会話があったことは露知らず、トマはレイラの隣で手元を覗き込む。



「スティックよ。これがあれば変身したり魔法が使えたりするの。知らない?」


「魔法ぅぅ!?」


トマはおかしな声を上げた。


「魔法っておとぎ話じゃないか!そんな話を信じてるのかよ?」



そう。この世界でも魔法は存在しない。

『私』の記憶を取り戻したレイラはかなり嘆き悲しんだ。



「レイラが本当はこんなおかしな奴だなんて、ルチアーノ様がかわいそうで言えないよ」


「すっかり仲良しね」



ルチアーノは週に1回程の頻度でモンタールド邸を訪れては、トマとボードゲームやカードゲームに勤しんでいる。

レイラともお茶の時間に顔を合わせるが、それだけ。レイラよりむしろトマと仲睦まじくなっている。


婚約者ってこういうものだったかしら、とレイラは首を傾げた。



「お嬢様、とてもお上手です」


「でしょう?この星がポイントよ、これがないとゆめかわいくないわ」



侍女のマリーに得意そうに頷くレイラ。

イメージは美少女戦士の変身スティックだ。きらきらしていて大好きだった。


レイラは『私』の記憶にあるイメージを、イラストとしてならうまく描くことができた。

はじめて目にするものも多いらしく、トマには変人扱いされるが。向こうの世界でもフィクションだったとはいえ、なんて失礼な弟だ。



「お嬢様、その件で旦那様からお話があるそうです」


「…え」



まさかお父様にも頭がおかしいと思われていたとか?ないわよね?




***

「はじめまして、お嬢様。ロイド・デル・テスタでございます」



ふ、わああああ!!!



レイラはなんとか心の中だけで叫んだ自分を褒めた。



父に呼ばれた先で紹介されたのは、年若い少年だった。


胸元ほどまである藤色の長い髪。すっきり整った顔立ちに映える、お月様のような銀の瞳。レイラよりいくつか年上らしく、穏やかな彼にはシャツとベストが似合う。この上なく似合う。なんてゆめかわいい理想的な人物なのか。



「デル・テスタ家は代々芸術筋の家系でね。レイラは絵を描いていただろう?それで彼に家庭教師をお願いしたんだよ」


「家庭教師!」


驚いたレイラは両手で口許を押さえた。



―――よかった、お父様に変な子と思われたわけじゃなかったんだ!



レイラが感動していると思ったのか、部屋にいる者は皆一様に優しく目を細める。



「お嬢様、さっそくですが絵を見せていただいてもよろしいでしょうか?」


「え、ええ、わかったわ」



デル・テスタ家は宮廷芸術家を歴任しており、ロイドの父は宮廷画家、祖父は宮廷音楽家を現役で務めているらしい。

ロイド自身も美術関連の才能は目覚ましいらしいが、父のように画家になるか、はたまた別の分野にいくか、まだ道を決めかねているという。


ちなみにマリーのひとつ年上だった。



「こ、これは…!!」



レイラの描いたイラストを見るなり、ロイドは息を飲んだ。


レイラは何を言われるかもじもじと俯いた。


だって、レイラの描くものは所詮イラストなのだ。本格的に芸術を学ぶ人になんと言われるか。トマには散々こき下ろされているし、自信がない。



「なんて素晴らしい!」


「え?」


「見たことがないモチーフばかりですが、これはこれで完成されています。はじめて見る色使いです!塗り方も独特で!」



はい。絵は小学校の図工の時間で習いました。

色の使い方はゆめかわいいを基本にしています。



「これはお嬢様の感性なので、もはや助言は不要でしょう。むしろこのまま額にいれて飾りませんか?」



「さすがお嬢様!素晴らしいです!」


マリーが飛び上がりそうなほど喜んでいる。



「え…それはちょっと…」



レイラが首を横に振ると、がっかりと肩を落とした。マリーが。



「これはなんですか?馬のようですが」


「角がはえているのがユニコーンで、翼があるのがペガサスです」


「ほう。すでに名前がついているんですね」


ロイドは興味深そうに頷く。

他にもレイラのイラストを見て、あれやこれやと訊いてくる。


「うーん、やはりお嬢様に家庭教師は要らないでしょう。旦那様には私からお話ししておきます」


「あの、その前に少しいいでしょうか?」



ロイドがとても好意的に受け止めてくれたので、レイラも勇気を出して告げる。



「実はわたくし、こういったものを絵ではなくて、本当は形にしたいと思っているんです」


「形…。彫像ということですか?」


「いいえ、そうではなくて、例えばマスコットとかです」


「マスコット…?」


「ええと、ぬいぐるみ…?他にはアクセサリーやお洋服のモチーフとか、お料理などにもできたらと」



「お嬢様…!!」


マリーが声を上げる。感極まったように。



「素晴らしいです!!そこまで考えていらっしゃったなんて…!」



「確かに。新しい視点すぎて考えもつきませんが、お嬢様になにか明確な着想があるのなら、やってみるのもいいかもしれません」


「ロイド先生、協力してくれますか?」


「もちろんです。それと、どちらにしろ家庭教師は辞退させていただくので、先生はいりませんよ。ロイドでいいです」


「ありがとう、ロイド!」



さすがロイドは芸術家だけあり、レイラのメルヘンでファンシーなイメージを否定しない。


レイラは理想とするゆめかわいいに向けて、力強い協力者を手にいれた。



藤色の長い髪に、月色の瞳の美人さん。

乙女ゲームのイケメン一覧に同じ色合いの人物がいたのだけれど、喜びに胸を高鳴らせるレイラは思い出しもしなかった。

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