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ひとりになったレイラは、つくりかけの衣装をごそごそと取り出した。


それは人魚になれるスカート。

イリスをイメージして考えたものだ。


スカートといっても、足首で布が極端に絞られており、普通に歩くのは困難だ。

でもモチーフは人魚だし、お茶会のための衣装だから、令嬢が自ら歩き回る必要もない。


モンタールド領自慢のビーズやスパンコールをふんだんに使い、人魚の鱗をイメージして布を重ねている。



今回マルセルが訪ねてきたのは、これを外部のお針子に依頼したからだと思っている。


ただのスカートなのに極端に可動域が少ないから、「これは拘束具ですか?」と聞かれた。そんなわけない。


ゆめかわいさを追求するあまり、高価な品や貴重な品、めずらしいものを使用することに抵抗がなかった。「こんなに使うんですか?」と聞かれて、なんでだめなのかわからなかった。


仕上げるにもレイラが考えているよりずっと時間がかかってしまい、結局頼むのを諦めたのだ。



ロイドだったら、4人分、いや5人分をあっという間に仕上げてしまうのに。


そういえば、そう告げたらおかしな顔をされたっけ。



「だめね、個人的なお洋服はやはり自分達で仕上げるべきなのね」



レイラはソファーの上で作りかけのスカートを自分の膝に広げる。



「へえ、きれいだね」



突然声が降ってきて、レイラはどきりと心臓が跳ねた。



「誰!?」



声のした方を振り仰ぐと、彼は天窓部分からこちらを見下ろしていた。



「な…っ!?」



レイラは言葉を失う。

男が飛び降りてきたから。かなりの高さがあったはずなのに、男は音もなく着地する。



「あなた、だれ…?」



マルセルと同じ衛兵団の制服を着た、紺色の髪の男だった。


ツーブロックの上の長い髪をくくって、下半分は短く刈られている。素行の悪そうな男にレイラは背中を震わせた。そのくせやたら整った顔立ちをしている。



「えー、わかんない?」


「わかるわけないじゃない、初対面よ!」


「うーん。そうだよねえ」



じりじりと距離を詰められて、レイラはいつの間にか白いソファーの上に押し倒されていた。



「やっぱり、きれいだね」


「っ、やめて!」



暴れた拍子に、かけていただけのスカートが落ちて、レイラの長い足がさらけ出される。



「わあ大胆。オレ誘われてる?」


「そんなわけないでしょ!退きなさいよ!」



蹴り上げた足を捕まれ、男の小脇に抱えられる。



「お転婆だね、そういうのも嫌いじゃないよ」



レイラはますます身の危険を感じて、じわりと涙が浮かんだ。握りしめた拳が震えている。



「おっと。いたずらが過ぎたかな。ごめんね、野菜色の髪のお姫様」


「は!?」



涙目で睨み上げるレイラに、紺色の髪の男はネコのように瞳を煌めかせる。


するり、とうなじから、耳、頬を撫でられて、レイラはびくと震えてしまった。

自分の反応にかあっと顔が熱くなる。男がにっと笑った。



「どうしようもなくなったらオレが貰っていくからね」


「なんなのよ!!」


「おっと」



レイラは手当たり次第にものを投げつける。

相手は軽やかに避けながら「まいった、退散しよう」とうそぶく。


窓枠に手をかけて、男は片手をネコの手のように示した。



「爪。オレの髪といっしょだね」



レイラが投げつけたものがガシャン!とけたたましい音を立てて割れた。


その音を聞きつけてマリーが部屋に飛び込んでくる。



「お嬢様!?どうしました!?」



男は間一髪、窓から外へ飛び出して行った。



開け放たれた窓、その下で粉々に割れているガラス瓶。ソファーの上で震える主人。


マリーは変わり果てた部屋の様子に驚きながら、年下の主人に駆け寄りぎゅうと抱き締めた。



「お嬢様?なにがあったんですか?侵入者ですか?」


「いい、いいのよ…」



きつくマリーにしがみつきながら、レイラは首を横に振った。



だって男は衛兵団の制服を着ていた。


被害を申し出ても、対応するのは衛兵団なのだから。




***

週が明けるとすぐにイリスとマルセルの婚約が発表された。


イリスの『これからよろしくね』とは、そういう意味だったわけだ。


また、マルセルもイリスと知り合ったと思われるその日に口紅だらけで帰ってきたものだから、ずいぶん詮索されたようだ。二人にはすでに既成事実があると下世話な噂もあるらしい。



同じく週明け、いよいよロイドが講師として学園にやって来た。


物腰の柔らかいロイドはさっそく女子生徒から大人気だった。特定のパートナーを公表していないロイドだ。望めば手に入れられると思っているのだろう。



レイラは相変わらずだ。――相変わらず元気がない。


侍女のマリーは、あの日レイラがひとりになったときになにかがあったに違いないと睨んでいる。それは間違いないはずだ。


マリーはモンタールド侯爵にも相談した。


けれど、当のレイラがなにも言わないため、なにがあったのかなにもわからなかった。ひとつ言えるのは。



「…お嬢様」


「きゃあ!?」



レイラがやけに怯えるのだ。…とくに男性に対して。

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