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ロイドに連れられて向かったのはモンタールド邸の敷地内にある迎賓館だった。

学園のホールほどではないが、ここにも素晴らしいダンスホールがある。侯爵邸で開かれる晩餐会はいつも盛大なものだ。



「ロイド、どうしてここに…?」


「踊るのよ」



ロイドはレイラの腰に長い腕を回すと、身を翻してステップを踏む。



宮廷画家を父に持つロイドは、デザイナーとしてもクリエイターとしても素晴らしいが、宮廷音楽家を祖父に持つだけあってリズム感も抜群だ。


興に乗って奏でだした鼻歌まで美声でちょっと笑ってしまった。



「さすがねロイド」


「お嬢様も素晴らしいわ」



くるくるとホール中を縦横無尽に動き回る。

ロイドと踊るのは気安い。時々アドリブで拍を変えられて、文句をいいながらも笑ってしまう。



長身のロイドと華やかなレイラは眩しいくらいお似合いだった。

ステンドグラスを通して差し込む陽光がきらきらと二人を照らす。



楽しそうなレイラを穏やかに見守っていたマリーだが、だんだんその笑みに切ないものが混ざりはじめる。そこへ――。



「なにしてるんだ?」



ホールの扉ががちゃりと開いて、トマが顔を出した。



「あらトマ」


「トマ様、いいところに!さあこっちに来て」



ちょうどターンを決めたところで、レイラは背を反らして上向いたままトマに笑みを向ける。



「ちょうどもう一人いたらなって思ってたのよ。マリーも踊ろう?」



やって来たトマにレイラを預けて、ロイドはマリーに右手を差し出した。


マリーが小さな手できゅっとその手を握ると、満面の笑みで抱き締める。



「まあ!らぶらぶね」



いちゃいちゃする恋人たちを横目に、トマの肩に手を乗せ、姿勢を整えるレイラ。ふと弟の仏頂面が目に入った。



「なあにトマ」


「その…当たってるんだけど」


「あ」



レイラは自身と弟の間に視線を落とす。

白くやわらかい膨らみがむにゅっと形を変えている。



「気にしないで。踊るにはちょっと邪魔よね」


「いや、そういうことじゃないんだけど…」



レイラも手の平に感じる肩や腕の筋肉に弟の成長を見てとり、にこりと笑う。


トマはしばらく渋い顔をしていたが、すぐに気にしなくなった。ロイドに挑発されて負けず嫌いの虫が顔を出したからだ。



でたらめなリズムで、きゃあきゃあ騒ぎながら踊るのはひどく楽しかった。


レイラとマリーが体力の限界を迎えて離脱すれば、ロイドはトマを女性側として踊り出し、ますます笑った。(もちろんトマはとても怒った。)



「笑いすぎてお腹が痛いわ!明日は筋肉痛ね」


「私もです、お嬢様」



腹がよじれるほど笑い転げれば、思い悩んでいたこともどうでもいいと思えてくるから不思議だ。



「ロイド」



優先順位を変えるくらいなら問題ないだろう。


レイラはそう考えて、ロイドにあの決定を告げる。



「わたくしたちのお茶会の装いなんだけど、お針子を雇おうかと思っているの」



彼は不思議そうに首を傾けた。さらりと藤色の髪が流れる。



「お針子?べつに私はいままで通りでも大丈夫だけど…」


「いいえ、ロイドにはパピヨンのドレスに専念してもらいたいのよ」



以前から考えていたことだけれど、レイラはお茶会用のコスプレなど、個人的な製作は外部に回すことに決めた。


令嬢たちの言葉にうんざりしたところも大きい。ブランドのものは今まで通りロイドに任せるのだから、父の言葉にも反していないはず。



「お嬢様がそう決めたなら異存ないけれど、そう。わかったわ」



ロイドは了承した。…トマの手を握ったまま。



「ありがとう」



レイラはその後すぐに街の職人を何人か個人的に雇い入れた。どれも腕の良い者ばかり。



…これがまた新たな火種のきっかけになるとは、思いもよらず。




***

―――ルチアーノに避けられている。それも意図的に。


レイラがその事実に気づいたのは、ある困難に直面したときだった。



「いつもすみません、殿下…」


「いいよ、役得だし」


「???」



学園で一番憂鬱なのはダンスの授業だった。


ダンス自体は好きだ。昔からトマやロイドを相手にレッスンをしていたし、なにより練習でも華やかなドレスを着れるのがいい。



けれどダンスだから、もちろん男女ペアで組む。


なのにレイラには決まった相手がいない。

はじめは他の男の子たちからも誘いがあったのに、二回目を誘われることがなかった。


普通ならこんなとき婚約者がパートナーになるんじゃないかしら。だって同級生ですぐ側にいるんだし。


しかしルチアーノの隣ではいつもピンクの髪が揺れていた。彼は毎回ハンナを誘う。



頻度が上がれば、自然と特定のペアが出来上がるのもわかるけど…。



入学パーティーというデビュタントをこなしたばかりのレイラはまだ夜会の経験がない。自身の婚約者と踊ったことは一度もなかった。



困ったレイラが頼るのはもうアドリアンしかいない。



最近ではレイラが声をかけなくても、王子の方から誘ってくれる。それがまたルチアーノに相手にされていないことを示しているようで、余計に気が滅入った。



「レイラはダンスが上手だね、授業なんて必要ないくらいだ」


「単位がとれないと落第ですもの。家で必死に練習しているんですよ」


「なるほど。そのお相手は背が高いのかな」


「え?」



レイラはきょとんとアドリアンを見上げる。



「いつも肩に置く手が無意識に浮くでしょう。見上げる視線も少し高い」


「あ…!」


王子の指摘に驚く。ロイドが相手のときは確かにそうだ。


「あと、他の御令嬢よりすこし近いから、普段気安い相手と踊り慣れてるのかなと」


ああ、それはトマと踊るときの癖だ。だって弟だし。



「役得なんだけどね、すこし問題かな」



アドリアンはレイラの髪に頬を寄せて、耳に吹き込むように囁いた。



「…そんなの、男はみんな嫉妬するよ?」



アドリアンの低い声に、レイラはかっと頬を染める。



ばっ!と反射的に王子から顔を背けたレイラは真っ赤になったまま、目をぐるぐると回した。



―――な、な、なにいまの!?声が…っ、イケボが…!

てちがう!はしたないって注意されたのよね!?王子殿下から直々に…!あああ恥ずかしい!もうやだ、帰りたい!…ああそれに。



ちらりと見上げたアドリアンはどこか遠くを見ていた。



―――そんな遠くから睨まれてもねぇ?

彼女に近づく男を牽制する暇があったら、一緒にいてあげればいいのに。



肩を竦めたアドリアンがちらりとレイラを見下ろすと、彼女はしょんぼり気を落としていた。



―――他の男の子たちもそう思ってたから、二度は誘わなかったのね。もう最悪…。



―――えー、なんで落ち込んでるの。かわいすぎじゃない?



男と女ではいつも考えることが違う。

37話と38話、修正して前後入れ替えています。

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