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アドリアンに指摘されて、マリーと話をして、レイラは自分の気持ちがすとんとあるべきところに収まったような心地があった。


ルチアーノがどう思っているのかはわからないが、自分の気持ちはわかった。


それだけで胸を覆っていた言いようのない不安が晴れていく気がした。



「え?どういうこと?」



けれど。



「だから、入学パーティーのとき、レイラがハンナ嬢のヒールに細工をしたって噂が広まってるのよ!」



「えーっ!?」



登校して早々、待ち構えていたリーサが難しい顔で伝えてきた内容にレイラは仰天した。



「わたくしそんなことしてないわよ!?」


「わかってるわよ」


「そうだよ、ハンナ嬢だってあのときレイラに助けてもらって喜んでたじゃないか」


「ええ、そう…よ…?」



割り込んできた声にレイラとリーサはぎぎぎと振り返って、「きゃー!?」と揃って声を上げた。



「「アドリアン王子殿下!?」」



「おはようレイラ。貴女はリーサ嬢だね、トマのいい人の。おはよう」


「おは、おはようございます…」



「あーもー、そんな固くならないでって言ったのに」



いいや恐れ多い。いつのまにか呼び捨てだし。

王子はにこにこ笑いながら言うが、レイラは冷や汗ものだ。



「レイラ、リーサ、おはよー!あ、王子様もおはようございまーす」


「エマ嬢、イリス嬢、おはよう」



続けてエマとイリスがやって来る。


エマの気さくさがなんだか怨めしい。ていうか、ノリが軽すぎる!



「レイラ!」



そこへまた別の声が響いた。



「ハンナ!…と、ルチアーノ様?」



駆け寄ってくるピンクの髪の少女の後ろには、見慣れた濃緑色の髪のイケメンが続いている。ルチアーノだ。


レイラは胸がもやっとした。



「…おはよう、レイラ」



ルチアーノはレイラにそう告げると、ふいっとアドリアンに視線を向けてしまう。


もやっとしていたレイラの胸が、ちくんと痛んだ。



「…アドリアン、なんでレイラといるんだ」


「偶然だって。ルチアーノこそなんであの子と?」


「それは……」



ずずいっと王子に迫るルチアーノの言葉は、小声ゆえにレイラまで届くことはなかった。



「ごめんなさいレイラ!なんか変な噂が流れてるみたいで…!」



ハンナはあわあわと涙目で言い募る。

わかっているわ、とレイラはその桃色の髪を撫でた。


やだ、なにこのさらつや。ゆめかわすぎる。



「レイラ、そんな簡単にいいの?この子が裏で変なことを言ってるのかもしれないわよ?」


「わたしそんなことしません!」



怪しむリーサにハンナは勢いよく首を横に振る。



「そうね、ハンナはそんなことしないと思うわ」



というか、しないと思いたい、が正直な気持ちだけど。



「私もそう思うな。どちらにしろレイラとハンナ嬢が、会場の外で親しく話していたのは私もこの目で見ているから、噂は事実無根だよ。私の言葉を信じない者なんているかな?」


「殿下…!!」



レイラは目を輝かせてアドリアンを見る。そしてハンナも。



「アドリアン?パーティーの後にレイラと会ったのか?ていうか、なんで呼び捨てなんだ?」


「面倒くさいな、ルチアーノ」



ルチアーノにじとりと睨まれて、アドリアンは真顔のまま目を逸らした。



「皆様、いまはとりあえず移動しましょう。授業がはじまってしまうわ」



にっこりと微笑むイリスの一声で、全員の行動が決まった。




***

中央学園は、他の庶民向けの学校や専門性のある学校と違い、基礎教育はすでに終了している前提で講義を受ける。


そのためクラスという概念がない。

科目によって変わる講義室に都度集まるのは、『私』の記憶にある大学と近いシステムだ。



「わたくし、ルチアーノ様はもっとインドアな方だと思っていたの」


「インドア…?が、なにかわからないけど、殿下の護衛としても有能と聞いているわ」


「ええ、そうみたい」



授業と授業の間は、学生たちは各々自由な場所で自由に過ごす。カフェテラスや自習室が人気だが、人によっては広場で身体を動かしたりする。


まさにいま、ルチアーノが他の男子生徒と刃を潰した練習用の剣で手合わせをしていた。



楽しそうに剣を振るうルチアーノにすれば遊びの範疇なのだろうが、素人であるレイラは危なくないのかとはらはらしてしまう。



でも、そうよね――…。



ルチアーノは昔から剣や馬に勤しんでいた。

きれいな顔をしているから、なんとなくインドアなイメージを持っていたけれど、十分鍛えているに違いない。



ルチアーノが剣を払い、バランスを崩して倒れ込んだ相手の胸に剣先を突きつける。


わあっと歓声が上がって、勝負が決した。



ルチアーノがあんな風にたくさんの人と交流するようなタイプだということも、レイラは知らなかった。なんとなく気難しいのかなと思っていたから。



でも、そうよね。



ルチアーノはアドリアン王子の側近になることが決まっている男だ。

顔も広いだろうし、社交性がないとやっていけないはず。



「あら、レイラもう行くの?」


「ええ」



立ち上がったレイラの背中にエマが声をかける。



「ルチアーノ様!」



広場では、ハンナが預かっていた上着をルチアーノに渡していた。


お互い笑顔で言葉を交わしているが、ここからでは何を言っているのかまではわからない。けれどきっと健闘を称えているのだろう。



レイラは眩しくて目を逸らした。

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