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「いや、オレは別にルチアーノ様と違って、贈り物とかそういうわけじゃないんだけど。ただ見つけたからレイラに見せようかなって…」


トマはらしくもなく、口の中でもごもごと言い訳をする。


「なんなのよー!」


レイラは情緒もなく、ぱかっと箱を開けた。

そしてぱかりと口も大きく開けた。



「耳飾りだな」


「螺鈿細工っていうらしいです。貝から作られてるんですって」


「貝!へー!?」



横から覗き込んだルチアーノが、トマの説明を聞いて驚きの声を上げる。


そしてレイラは――。



「きゃー!?かわいい!偏光パールね!」



突然スイッチが入って、トマとルチアーノは目を白黒とさせた。



「へ、へんこう…?なに?」


「ちょ、待って!?レイラ待って!」



驚くルチアーノに慌てるトマ。

レイラは目を輝かせて「素敵!」と騒ぐ。



「トマ素敵!虹色でとってもゆめかわいいわ!」


「いやだから、レイラ、ちょ、」


「…ふぅん?」



ルチアーノの低い声を耳にして、トマはぎぎぎとそちらを向いた。



「ルチアーノ様…?」


「レイラはぼくがなにをあげてもそんな反応したことないよね?そっか、なるほどね…?」



興奮したレイラは、目の据わったルチアーノに気付かない。トマはだらだらと冷や汗が止まらなかった。


「いや、あのその…」


やっちまった、とトマは内心で頭を抱える。



「トマ、今日は帰るよ」



がたりとルチアーノは音を立てて立ち上がった。



「レイラにとてもおいしいお茶をありがとうって、言っておいて?」



うっそりとしたルチアーノの笑みに、トマは鳥肌が止まらなかった。



「あれ?ルチアーノ様帰ったの?」


「レイラ!もう勘弁してくれよ~!」



トマの泣き声にレイラはきょとんとする。


「なにが?この偏光パール本当に素敵ね!ビーズの中に入れたらきっときれいよ。あ、でも熱で変質しちゃうかな…?」


うんうんと悩み出すレイラに、トマはがっくりと肩を落とした。


「もういいや…。うん、それでこそレイラだよな」



くすくすと微かな笑い声がしてそちらを向くと、マリーが口を押さえて肩を揺らしていた。



「マリー?どうしたの?」


「いいえ…。お嬢様は今日も素敵です」



マリーが笑っている。レイラはそれだけでほっと安堵した。


けれどその後から、レイラが何度誘ってもマリーがお茶の席に同席することはなかった。




***

「侍女のマリーがなんか変なの」


「そうなんですの?例えば?」


「いっしょにお茶してくれないのよ」


「え…?んん?」


「お茶の席についてくれないの。前はいつも一緒だったのに…」


「…侍女がお茶会に同席しないのって、当たり前じゃないかしら…?」



ひそひそ。エマたちはレイラの悩みをわかってくれない。


…相談した相手を間違えたわ。




「マリーがなんか変なの」


「マリーが?」


「いっしょにお茶してくれないのよ」


「お茶なんてしてたんですか、あなた方。いやしてそうですけど…」


「学校でなにかあったのかしら?」


「さあ…?学部が違うのでなんとも…」



ノアはちっとも役に立たなかった。


…相談した相手を間違えたわ。




「マリーがなんか変なの」


「そうよね、なんかおかしいわ。私もちょっと思ってたのよ」


「さすがロイド!マリーのことならやっぱり貴方だわ!」


相談するならやはりロイドだった。

言葉にできない違和感を覚えていたのは、彼も同じだったようだ。


「お茶会に付き合ってくれないのよ」


「あのまったりしたマリーがね」


「いつも少し緊張してるみたい。まるでふつうの侍女みたいに振る舞うの!」


「…学校で学んだことを実践してるんじゃないかしら?」


「…あのマイペースなマリーが?」


「あのマイペースなマリーが?…ないわね」


「ないわよ、なんかおかしいわ」


けれどなにがあったのかちっともわからず、解決策が見つからない。



いまもテーブルについているのはレイラとロイドの二人だけだった。

以前ならここにマリーも座っていたのに。


二人きりだと休憩と作業時間の境界がなくなってしまう。レイラはお茶を飲みながらイラストを描き、ロイドは手持ち無沙汰にユニコーンの編みぐるみを作っている。



「お嬢様、角は何色にする?」


「ピンク!」


「了解よ」



がちゃん!



騒々しい音がしてレイラは顔を上げた。


サンルームの入り口で、カートを押したブノワトがなにやら慌てている。後からやって来たマリーがその様子にこちらからもわかるほどあからさまに眉を寄せた。


「…マリー?」


レイラの小さな呟きも専属侍女は逃さず拾う。



「申し訳ございません、お嬢様。お菓子を落としてしまいました。新しいものをご用意しますね」



ブノワトの失敗をどうしてマリーが謝るのか、とか。そもそもレイラの侍女はマリーなんだからブノワトがいるのはなんでなのか、とか。レイラだってはじめにブノワトに『レイラの侍女はマリーだ』と伝えているのに、とか。


言いたいことは山程あるけれど、それ以上にレイラはマリーの様子が気になった。


レイラだって専属侍女の呟きを見逃したりしない。



『お嬢様のお菓子なのに――…』



マリーは間違いなくそう呟いた。

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