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へタレ野郎とバスケットボール  作者: 束子
高校生編 二年生 春
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新たな気持ち ④

 降参ですという顔をしていると、ふふっと笑いながら美影が俺の顔を見ていた。


「ゴメンね、ちょっと悪戯が過ぎたかな?」

「……」


 すぐに返事をせずに俺は黙って少し怒った表情をしてみた。


「うぅ……ごめんなさい」


 怒った顔をした俺を見て美影は反省したような顔でもう一度手を合わせて丁寧に謝る仕草をする。

 さすがに怒ったままだと逆に美影が拗ねてもいけないと、俺は大きく息を吐くと小さく微笑んだ。


「怒ってないよ……」


 そう言うと美影は、ほっとしたような表情になるが、まだ離れて座り直そうとする気はない。俺から頼むのも美影に失礼な気がしたので恥ずかしいけどこのまま諦める事にした。

 少し恥ずかしそうに美影が話し出した。


「だって宮瀬くんが昨日から元気が無さそうで、今日も早くから登校していて、まだいつもと雰囲気が違うから気になっていたの……」

「そ、そうなんだ、なんか気を使わせたみたいだな、悪かったよ」


 俺のことを心配しての事だったのかと心が痛んでいたが、でもちょっとやり過ぎかなと感じていたところ、美影の次の一言で理由が分かり苦笑した。


「それでね……志保が宮瀬くんに甘えてみたら元気になるよて言うから……」

「なんだよそれ、もう志保の奴、美影に変な事を吹き込んでから……」


 これまでの事を冷静になって考えたのか美影は顔を真っ赤にしている。ついさっきまで甘えていた美影はかなり無理していたのだろうとクスッと笑ってしまった。


「あぁ、なにその笑いかた? もう……」


 頬を膨らまして怒ったような表情をして美影が俺を見てきた。本気で怒っている訳ではないので可愛いらし表情をしている。

 でも美影の顔があまりに近くに感じたのに驚いてしまい動揺してしまう。


「えっ、あっ、うぅ……」


 すぐに顔を背けて動揺を隠そうとしたが、美影は俺が聞き流したように見えたみたいで、更に近く寄って「もう……」と拗ねている。


「センパイ‼︎ こんな所で何イチャついているのですか?」


 そう言われて声の主へ振り返ると呆れた顔をした恵里が立っていた。若干怒っているような素振りもあるような気がする。


「あら、枡田さん、こんにちは」


 いつの間にか態勢を整えていて普段の落ち着いた美影の顔をしていた。


(す、凄い変わり身だな……)


 対照的に俺は恵里から声をかけられた事であたふたしたままだ。


「山内先輩、こんにちは」


 恵里が美影に挨拶するけどよく分からないがバチバチと火花なのか変な緊張感が走ったが、すぐに穏和な雰囲気になった。

 しかし周りにいる男子達からはこれまで以上に鋭い視線が降り注いでいた。校内でも一位二位を争うレベルの恵里と美影に挟まれた状況なのだから仕方がない。


「そ、それで、ど、どうしたんだ恵里?」

「たまたま通りかかった所でセンパイが助けを求めている顔が見えたから来たのですよ」


 恵里は笑みを浮かべながら美影をチラッと見ている。


(あぁ……なんでまたそんな言い方するのかなぁ……)


 俺は困ったような顔をして恵里に「そんな事はないぞ」と言ったが、不安になり隣に座っている美影を見ると余裕のある笑みをしていた。


「そうよ、私は宮瀬くんを元気づけようとしていただけよ」


 やんわりとした口調で美影は話すが気を許した感じではないのが分かる。二人の顔を見ると再び緊張感が走りそうな雰囲気なので間に入って抑えようとしたけどその必要はなかった。

 暫くお互いが黙ったまま見合っていたが、恵里が沈黙を破り再び微笑んでいる。しかしさっきの表情とは違うようだ。


「……分かりましたよ! 山内先輩」 


 恵里の一言に俺と美影が「なに?」という顔でお互い見合わせる。


「センパイの事はお任せします……でもまたセンパイが弱音を吐いたら私が奪いに行きますよ」


 恵里の言葉に驚くというか困惑してしまい返事が出来ずにいると美影は自信のある笑みを浮かべて恵里にはっきりとした口調で答えた。


「分かったわ、枡田さんの心配には及ばないわよ」


 今度は美影の返事に困惑してオロオロしていると、恵里が俺に近づき軽く背中を叩くと大きく息を吐いた。


「センパイ、しっかりして下さいよ! ちゃんといるじゃないですか。大事にしてくれている人が側に」


 美影には聞こえないぐらいの声で俺に話すが、その距離があまりに近すぎてドキッとする。一瞬、美影はムスッとした顔して俺を見るが、俺は恵里の言葉でやっとモヤモヤしていた心が晴れた。


「そうだな、ありがとう、恵里……」


 また助けられたなと思っていたら、恵里は俺の返事を聞いて安心したみたいで、一瞬寂しげな顔になったがすぐにいつもの笑顔になる。

 これまでの事情を知らない美影は不機嫌そうな顔のままで俺を見ている。


「……」

「センパイ、山内先輩、それじゃまたね――」


 美影の機嫌を察知したのか恵里は苦笑いをして逃げるようにこの場から去って行った。


(恵里……フォローぐらいしていけよ……)


 何も言わずに冷たい視線で美影が俺の顔を見ている。ちょっと前までの甘えていた表情とは対照的だ。


「ねぇ、宮瀬くん」


 やっと口を開いて美影は落ち着いた声で話してきたので、思わず畏ったように俺は構える。


「は、はい……」

「もう枡田さんと何の話をしていたのか聞かないけど、これからは私にも大事な事はちゃん話をしてよ」

「あぁ、分かった。一番に話すよ、ら美影にね」


 はっきりとした口調で返事をすると美影は頷いてやっと機嫌を直してくれたようではにかんだような笑顔を見せてくれた。


(そうだな、美影がいつでも笑顔でいられるように……)


 すっきりした心の中で素直にそう思った。


「そろそろ時間になるから教室に戻ろうよ」

「そうだな、戻るか」


 思い出したように美影が言うので時計を見るともう昼休みが終わる時間だった。

 教室に戻ろうと二人が歩き出す前に美影に小さく「心配かけてごめんな、ありがとう」と言うと美影は俺に肩をすり寄せるようにして優しく微笑んでいた。

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