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へタレ野郎とバスケットボール  作者: 束子
高校生編 二年生 春
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新たな気持ち ③

 朝イチの静かな時間がウソのように教室の中は賑やかになった。志保と美影が一緒に教室に入って来て俺が早く来ているのに驚いていた。理由を聞いて志保は年寄みたいと笑っていたが、美影は反対に何かあったのかと心配していた。


「何にもないよ、心配しなくて大丈夫だよ」


 何度かそう言って笑顔で答えてやっと美影は安心してくれたみたいだった。その時に美影の顔を見ながら一つの思いが浮かび上がってきた。


(大仏の言っていた事は、この気持ちなのかな……)


 午前の授業中は、あまり集中出来なかったがこれまでとは違って前向きな気持ちの悩みの様な気がして重たい気分にはならなかった。朝が早かったので昼休みまで長く感じるかなと心配していたけど考え事をしていたお陰で思っていたよりも早かった。昼食の弁当を食べ終えて、自販機に飲み物を買いに行こうと思って教室を出ようとした。


「あっ、待って宮瀬くん」


 背後から声がするので振り返ると美影が志保にひとこと言って立ち上がったところだった。


「どうした?」

「飲み物を買いに行くのよね」

「あぁ、何で分かったんだ?」


 美影は笑みを浮かべながら俺の隣にやって来た。


「私もついていくよ」


 これまでになかった事なので驚いていると美影が少し甘えた様な表情をする。


「ダメかな?」

「い、いや、そ、そんな事はな、ないけど……」


 美影の表情にドキッとして慌ててしまい返事がつかえてしまい棒立ちの状態になった。


「よかった、じゃあ行こう」


 可愛く笑った美影が強引に俺の手を引っ張る。


「こらっ、み、みか……」


 抵抗する間も無くそのまま手を引っ張られながら教室を出た。最初は勢いで手を引っ張られていたけど、教室を出て少し行った所で他のクラスの目もあってさすがに恥ずかしくなった。


「分かったよ、とりあえず手を……」

「ええっ、手を離さないといけない、嫌だったかな?」


 悪戯っぽく美影が笑って俺を見ている。笑っている顔が可愛らしくて返事がしどろもどろになってしまう。


「い、嫌って事はないけど、ち、ちょっと、は、恥ずかしいかな……」

「そうなの、私はそうではないけど」


 焦った表情の俺を見て美影は残念そうに言ってやっと手を離した。ちょっとだけ寂しそうな表情になったけど、顔は少し赤くなっていたような気がした。手を離した後、二人で歩いていたがいつもより美影との距離が近い様に感じた。実際どれくらいかと言われると難しいがいつもとは違う感じだ。


(なんだろうこの感じは……)


 自販機がある所まではそんなに遠くはないのだが、今日は不思議と遠く感じた。


「ねぇ、今日は大丈夫そうだね」


 すぐ隣で歩いている美影が俺の顔色を伺っているが、美影の顔が近いし、美影の髪の匂いなのか甘い匂いがして、とにかくいつもと様子が違って動揺してばかりだ。


「おっ、おう……だ、大丈夫だよ、き、昨日みたいな事はな、ないよ……」

「何でそんなに慌てたみたいなの?」


 不思議そうに美影がこっちを見ているが、もうまともに美影の顔を見る事が出来なくなってきた。


(ううぅ……ど、どうしよう、自販機はまだか……)


 二年生の教室は三階にあるので、階段を降りてやっと中庭にある自販機が見えてきた。しかし中庭なので二年生以外の生徒がいて、おまけに天気も悪くないのでそこそこ人数がいる。


(さっきから視線が……)


 周囲にいる生徒で特に男子達から鋭い視線が刺さる。美影はそこそこ身長もあるしスタイルも良くてかなりハイレベルな女子なのでやはり目立つのだ。そんな子がピッタリとくっつくぐらいの距離にいるのだから否応なしに目に付いてしまう。男子達の鋭い視線の中を歩いて自販機の前に辿り着くことが出来た。

 美影が先に自販機にお金を入れる。


「いいよ、今日は私のおごりで」

「えっ、いいよ、そんな……」

「ううん、だって一緒に行こうって言ったのは私だし、よしくんとちょっとだけ甘えられたしね」


 笑顔の美影が嬉しそうな口調だったけど、それよりも美影が下の名前で呼んだのが気になって照れてしまった。


「わ、分かったよ、あ、ありがとう……」


 そう言いながら自販機のボタンを押して、美影も続いてボタンを押す。このままの状態ではとてもじゃないけど教室には戻れないし、仮に戻ったとしても志保からいろいろな追及を受けそうだ。

 周りを見渡しタイミングよく昨日恵里と話をした場合が空いていたので、美影に聞くと「いいよ」と返事をしてくれたのでそこに座ることにした。

 とりあえず周りを見たが知っている顔がなかったので一安心して大きく息を吐いた。三、四人ぐらい座れるスペースで、先に俺が座ると美影が続いて座ろうとする。でも美影は肩と肩が触れそうな位置に座ってきた。明らかに美影の反対側はかなりスペースが空いている。またまた周りにいる男子達の視線が痛い……


「み、美影、そっち側いっぱい空いてるよ……」

「うん、知ってるよ」

「じゃ、じゃあ、な、なんで……」


 再び、美影は小悪魔のような笑みを見せる。


「ええっとそうだね、もう少し甘えようかなぁと思ってね、いいかな?」

「うぅ……」


 黙って苦笑いをしながら頷くことしか出来なかった。歩いていた時より緊張しそうだ。これまでにも美影が隣りに座る機会はあったが、こんな感じで近くに座る事はなかった。

 気持ちを落ち着かせようと思いさっき買ったカップに入ったカフェオレを一口飲んだが全く落ち着けなかった。


(いったい美影は何を思ったんだ……)


 隣り座っている美影の綺麗な髪が風に靡いて肩に当たり、いい匂いがしてくる。もうぼちぼちノックアウト寸前のような状態になってきて頭から湯気が出てきそうだ。

 もう限界に近いので理由を聞こうと美影の方を向くと、先に美影から話かけてきた。

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