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へタレ野郎とバスケットボール  作者: 束子
高校生編 二年生 春
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勉強会 ⑤

 時計を見るともうすぐ午後一時になろうとしていた。静かな場所で集中して勉強をしていたので、時間が経つのを早く感じた。


「そろそろお昼を食べないか?」


 目の前に座っている二人に話しかけると、志保はやったーって表情で顔を上げる。美影も顔を上げて「そうね」と言ってノートを閉じてシャーペンを片付けた。


「何処で食べるの?」


 志保が嬉しそうな顔で聞いてきたが、特には決めてはいなかったので美影に尋ねようとしていた。図書館の周りには何軒かお店があるみたいだ。


「何処がいいかなぁ……」

「美影、ゴメン、今、財布に余裕がないんだよ……」


 情けないが、本当にお金がないのだ。美影と志保に謝ると二人共、微笑みながら仕方ないという表情で俺を見ている。


「気にしないでいいよ、すぐ側のファミレスにしようか」


 美影がそう言って、志保と顔を合わせて頷いている。


「ありがとう、助かるよ〜」


 二人に感謝しながら、安心をして席を立ち準備を始めた。美影と志保も立ち上がり移動し始める。

 三人で図書館の入口のロビーまで来た時に、財布の中身の事を思い出し見てみると小銭しか入っていなかった。


(しまった……お札は鞄の中だ……)


 二人に足りない分のお金を借りるのは良くないので引き返すことにした。


「ゴメン、ちょっと忘れ物を取ってくるから、ここで待って」


 二人はキョトンとした顔をしていた。俺は謝りながら急ごうとしたが、図書館なので走る訳にはいかないので出来るだけ早足で行った。数分でロビーに戻って来たら、美影と志保が見た事のある二人と会話している姿を目にした。何か楽しそうな雰囲気だが、俺は立ち止まりその輪に入ることを躊躇した。


(う〜ん、一番恐れていたことが……どうしよう)


 額から汗が滲み出て来そうな感じで、出来ればここから逃げ出したくなるぐらい動揺している。


「あっ、宮瀬くん、早く――!」


 美影が俺に気が付き声をかける。まだ頭の中が整理出来ていないが、慌てない様に出来るだけ普通の笑顔で手を振り歩き始める。


「ゴメンよ……」


 顔は穏やかそうにしているが、内心かなり焦りまくっている。四人の輪に近づくと絢と白川が驚いた表情で振り返っていた。さっきまでの楽しそうな空気が一瞬凍った様になったが、俺はまずいと思い明るく絢達に声をかける。


「おう――、久しぶりだねぇ」


 少しワザとらしい感じだが、白川は空気を察したのかすぐに反応してくれて絢もそれに釣られる。


「宮瀬くん、久しぶり、元気してた〜」


 白川は笑顔でそう返事をしてきたが、目は全然笑っていなかった。絢も白川の隣で微笑んでいるが、何となく困惑した様な表情だ。休憩の時に二人が居たのには気が付いていたのだが、ここで会うとは予想していなかった。


「白川達も試験勉強なのか?」

「うん、そうよ、宮瀬くんも、本当に偶然ね」


 相変わらず白川は、表情は穏やかそうだが目が怖いままだ。別に俺自身は悪いことをしている訳ではないのだけど……何となく気まずい空気が漂い、志保に目を向けるとこれがまた怖い目をしている。


(どうすればいいんだ……)


 長く感じたが実際には時間が経っていなくて、美影はあまり気にした様子は無いようだ。


「あーちゃん達は、もうお昼食べたの? 私達はこれから行くけど、一緒に……」


 今度は、美影がとんでもない事を言い始めたから、俺は一瞬血の気が引きそうになり絢の顔を見ると意外と穏やかな感じだった。


「ごめんね、今食べて来たところなのよ」

「残念だね、一緒に出来たらよかったのに」


 美影と絢は残念そうな顔をしていたが、そう聞いて俺はホッとした。しかし安心をしたのも束の間、美影は驚く様な事を言い始めた。


「そうだ、今度三人で遊びに行こうよ」

「えっ、三人て言うと……」

「あーちゃんと私と宮瀬くんの三人よ」

「み、みーちゃん……」


 穏やかな表情だった絢が予想外の話でかなり驚いているが、美影は不思議そうな顔している。


「だって昔はよく三人で遊んでいたよね、懐かしくない?」

「あっ、そ、そうね、よく遊んでいたわね」


 絢は少し落ち着いたのか、美影の話に合わせている。いったい美影は何を考えているのか分からない……隣にいる志保も若干呆れた様な顔で美影を見ている。


「でも、みか、や、山内、ぶ、部活があるんじゃないか」


 このままではどうしようもないと思い会話に割り込んだが、かなり噛みまくりだ。動揺しているのがバレバレだ。美影が一瞬鋭い目つきで俺を睨んだように見えたが、すぐにいつもの表情に戻る。


「う〜ん……じゃあ、夏休みかな? イベントとかもたくさんあるからね……」

「うん、その頃なら多分大丈夫だよ、楽しみにしているよ」


 絢がそう言って俺の顔を見るのでドキッとするが、美影もすぐに返事をする。


「そうね、楽しみね、ね」


 美影は念を押す様に俺の顔を見る。その表情は表面的には優しそうだが、いつもは感じることのない圧力を感じた。俺は、もう力尽きそうな感じで返事をした。


「ははは、そうだね、楽しみだね」


 俺の様子を見ていた白川と志保は、顔を見合わせてもう見飽きた感じで大きなため息を吐いて、それぞれ絢と美影に「そろそろ行こうか」と言ってくれた。


(やっと終わる……)


 一気に脱力感と疲労感が出て来て倒れそうな感覚になるがなんとか踏み止まった。

 美影と絢は「また連絡するね」と言っていたので、既に何度かメールとかで連絡しているのかもしれない……

 その後、俺達はやっと昼食を食べる事が出来た。絢達と別れてファミレスに行く途中、美影にある事を優しい口調で追及された。


「ねぇ、宮瀬くん。何でさっきの会話の時に私の事を美影から山内に言い直したの?」


「あっ、あぁ、え〜っと……」


 返事が出来ずに焦っている俺の様子を見て、志保がクスッと笑っている。美影はムスッとした顔をして拗ねた様な感じだが、怒っている様ではないのでとりあえず安心した。


「ううん、まぁ、今回は許してあげるかな、でも次は……」


 美影は優しく微笑んでいるが、見えないプレッシャーを感じていた。隣にいた志保は苦笑いをしていた。

 ファミレスでの昼食はあまり食べた気にならなくて、図書館へ戻った後も勉強に身が入らなかった。夕方近くまで勉強を続けて、帰り際に美影がはにかんだ様子で話しかけてきてくれた。


「今日はありがとうね、いろいろあったけど楽しかったよ」


 美影の表情があまりにも可愛らしくて俺は恥ずかしくなってしまい、頷きながら顔の熱さを感じていた。


「ううん、俺こそありがとう、とりあえず明日からの試験頑張ろな」


 そう言って、三人共に笑顔で今回の勉強会は終了した。

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