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へタレ野郎とバスケットボール  作者: 束子
高校生編 二年生 春
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勉強会 ③

 日曜日のお昼過ぎ、お客さんも店内に二、三人いるだけでBGMがはっきりと聴こえるくらいだった。

 絢は恥ずかしそうにまだ俯き加減で俺も恥ずかしさを誤魔化す様に窓の外を眺めていた。でもさすがにこのままだといけないと話を切り出した。


「よく俺の家が分かったね」

「うん、分からなかったから、由佳ちゃんが聞いてくれたの、大仏さんに……」


 やっと絢の顔が柔らかくなっていつもの表情になるが、俺は白川が聞いた相手の顔が浮かんで微妙な顔をした。


「そ、そうか……アイツなら間違いないな、家だってすぐそこだし……」

「へぇ〜、そうなんだ」


 絢がそう言うと同時に俺は反射的に周りを見渡してしまった。


(もしかして、店内に居るんじゃないだろうなぁ……)


「そう言えば、ここまで歩いて来たのか?」

「うん、久しぶりに歩いたからちょっと疲れたよ、この最近、バスで学校に通ってるからね」

「そうなの、前に見かけた時は自転車だったよなぁ確か」

「二年生になってからかな、自転車で通学するのを止めたの……」


 こんな感じで絢と何気ない会話をしていた。同じ学校なら当たり前なんだろうけど、同じ空間で落ち着いた感じで他愛のない会話をしていると凄く懐かしく感じた。

 そんな会話がもったいないような気さえしていたら、注文した俺のお昼と絢の紅茶がテーブルにやって来た。


「ハイ、いつものやつ」

「ありがとうございます〜」

「コーヒーは後で持ってくるぞ」


 おいちゃんがナポリタンとスープを俺の前に並べてくれた。


「で、紅茶は、彼女ね、それとこれはサービスね」


 注文した紅茶のセットを並べるとチョコレートのケーキを一緒においてくれた。


「いいんですか?」


 絢が少し驚いたような顔して遠慮気味な口調で尋ねると、おいちゃんは優しく笑って俺の顔をちらっと見る。


「いいんだよ、その代わりコイツの事よろしく頼むよ、ちょっと情けない所もあるけど優しい奴だから」

「……あっ、ありがとうございます」


 再び絢は顔を真っ赤にして恥ずかしそうに俯きながら小さく頷きながら答えていた。


「おいちゃん、何言ってるんだよ、まったく……」


 不貞腐れた様な口調で俺が言うと、おいちゃんは笑いながらカウンターの奥に戻って行った。

 やっと穏やかな感じになったのに……と思いながら、お腹が空いていたのでとりあえず食べる事にした。


「このケーキ美味しいね」


 絢も気を取り直してケーキを一口食べ始めて、幸せそうな笑顔している。


「あんな感じだけど、料理の腕前はかなりレベルが高いんだよ」

「うん、本当だね、今度、由佳ちゃんと来てみようかな」

「いいんじゃないかな」


 絢の幸せそうな顔を見て微笑みながら答えた。そんな絢の表情を見られて俺も幸せな気持ちになった。

 食事も食べ終わりコーヒーを持ってきてもらい、今度はもうすぐあるテストの話題になった。


「絢達の学校はいつからテスト始まるの?」

「えっと、来週からかな」

「ほとんど同じタイミングだな、何故か明日から放課後に勉強会するみたいで……」

「そうなの……みーちゃんとか一緒に」

「うん……」


 何気なく返事をして、顔には出さなかったが心の中で「しまった!」と呟いた。ついさっきまで幸せそうな絢の表情が微妙に曇り始める。


「いいなぁ……私も……」


 絢が寂しそうな小さな声で呟いたが、パッと俺の顔を見て我に返ったように「違うの」と顔を赤くして慌てて否定する。

 何て答えたら分からずに、愛想笑いしか出来なかったが絢の寂しそうな表情が忘れられなかった。


「そうだな、一緒に出来たらいいな……」


 絢は恥ずかしそう小さく頷いていた。もし同じ学校に行っていたらテスト勉強だけじゃなくて、普段の勉強から一緒に出来ていたかもしれない……

 その後、コーヒーを飲み干すまで話をして店を出ようとした。二人が店を出る前に先に、「またいらっしゃい」とおいちゃんが営業スマイルを絢にして、「また、友達と来ますね、ごちそうさまでした」と絢も律儀に答えていた。

 最後においちゃんが俺に「彼女を逃すなよ、よしにはもったいないぐらいだ」とからかい半分で言ってきたが、俺は「ハイハイ」と軽く聞き流した。


 店の外には絢が先に出て待っていた。


「そろそろ帰るね」

「あぁ、悪いなせっかく来てくれたのに……」

「仕方ないわ、でもたくさん話が出来たし楽しかった」

「気を付けて帰れよ、近くまで送ってやりたいけど……」

「ううん、いいよ、よしくんも足、気を付けてね」


 絢は少し寂しそうに心配してくれたので、最後は笑顔で見送った。俺は絢の後姿を見送りながら足の痛みよりも胸の奥の痛みが大きく感じていた。


 翌日、前日よりも足の痛みは多少収まり学校生活には支障は体育の授業以外ほとんど無かった。

 朝、登校してきた時に美影と志保が心配そうにやって来たが、「大丈夫だ、心配ないし放課後は問題ないよ」と言うと二人共安心して戻って行った。

 放課後になり、少し遅れて約束通り図書室に向かったが、美影と志保は席を確保しておくと言って先に行った。

 図書室に入ると予想以上に人がいて驚き見回すと、窓際の席に美影と志保の姿を見つけた。図書室で声を大きな声を出す訳にはいかないので手を上げて合図するとタイミングよく美影が顔を上げて気が付いてくれて手招きしてくれた。


「おっ、ちゃんと来てくれたねー」


 志保も気が付き小声で俺の顔を見ている。美影と志保は四人がけの机に並んで座っていたので、俺は美影の向い側の席に着いた。


「何の教科をやってるんだ?」


 二人がやっている教科書とノートを確認する。志保は咄嗟に手でノートを隠そうとするので、美影のノートを見ると明らかに勉強が出来る人のノートだった。

 よく見ると志保は、教科書でなく美影のノートを写していたようだった。


「何となく分かったような気がする」


 そう言って志保の顔を見ると、俺の視線に気が付いたのか志保はノートを書いていた手が止まり顔を見上げて、少しムッとした表情をする。


「なに? 何か言う事でもあるのかな……」

「いやなんでもないです」


 何となく言ってはいけないような圧力を感じてそれ以上は志保に突っ込まない様にした。その隣で美影が可愛く笑いをこらえていた。

 とりあえず今日出された課題でも片付けようと教科書とノートを鞄から出して広げた。

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