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へタレ野郎とバスケットボール  作者: 束子
高校生編 二年生 春
75/237

遭遇 ②

 試合開始前に美影が「頑張ってね」と優しい笑顔で送り出してくれた。俺はいつもと変わらない表情だったので安心して大きく頷きコートの中央に向かった。

 ここからは試合に集中しようと気合いを入れる。ジャンプボールからマイボールになりガードの先輩がボールを運び、俺はゴール下に入ろうと相手をかわしたタイミングでボールが入ってくる。

 相手のセンターがシュートブロックに来るが、タイミングをずらしてシュートを放つ。体制が崩れたが、ボールはボートに当たりリングに吸い込まれる。時間にしつてあっという間だったが、俺にとっては大きな得点になった。


(よし、これで今日はいけるぞ)


 先制点が入り、ベンチを見ると皆んな盛り上がっていて、美影や志保も嬉しそうな顔をしている。もうこの時は二階の絢まで気にしていなかった。チームはこの勢いのまま試合を優勢に進めていき、第一Qが終わった時点で十点差をつけていた。

 インターバルに入る直前にちらっと二階を見ると手前で絢が嬉しそうにしていて、俺の視線に気が付いたみたいで小さく手を振っている。俺は皆んなに気付かれないように小さく手を振り返した。

 第二Qに入っても流れは変わらず試合が優位に進む。俺も調子良くシュートを決めて得点を量産していく。キャプテンの橘田先輩からは、「あまり調子が良すぎて、怪我するなよ」と言われて少しペースを落とすことにした。こんな時に気が緩んでしまい怪我をしてしまうのだと気を引き締めた。俺がペースを落としたところでチームの勢いは変わらず、ハーフタイム前には得点差を更に広げていた。ハーフタイムになりベンチに下がる時に長山に声をかけられる。


「おい、あの子、お前がシュート決める度に喜んでたぞ」

「そ、そうか、喜んでたか、でも何で長山がそんなに見てるんだよ」

「いや〜、手前であんなに喜んでる姿があったら目に付くだろう」

「えっ、そんなに目立ってたのか?」

 

 俺が驚きの表情をすると、長山は何言ってるんだという顔をする。


「それで、あの子は……」


 長山が言いかけたところで、監督に呼ばれて行ってしまい、またまた追及から逃れて俺はベンチに座って休んでいた。タオルで汗を拭こうとした時に今度は志保が、何か言いたくて仕方なさそうな顔で来た。


「由規、あそこ、あれって……」

「あぁ、何だ?」


 志保にも見つかってしまったかと仕方なく志保が指差す方向を見ると、絢の姿がなかった。


「あ、あれ、いない。確かに居たんだけど……まぁいいわ、何でもない」


 姿を見つけられずに焦った様子だったが志保は何事も無かったように元いた場所に戻ってマネージャーの仕事を始めた。俺は大きく息を吐き胸をなで下ろす、ハーフタイムなのにもの凄く疲れてきた。


「宮瀬くん、大丈夫?」


 後ろから心配そうに美影がボトルを一つ持って立っていた。俺は一瞬驚いたが、美影からボトルを手渡されて安心する。


「いつもありがとう、美影特製のドリンク」


 手渡されたボトルの蓋を開けて一気に飲む。冷んやりして、市販のスポーツドリクよりも数倍美味しいのだ。この前の大会から作ってきてくれていて、大量には作れないらしくて俺専用らしい。他のチームメイトからはかなり羨ましがられている。


「良かった、今日も上手に出来たみたいで」


 美影は満面の笑みを浮かべて、飲んでいる俺を眺めている。


「本当に美味しいよ、生き返る感じかな」


 飲んでいる姿を見られるのはちょっと恥ずかしいが、お世辞抜きで美味しいので黙っている。


「宮瀬くん、これで後半も頑張れるね」

「後半も任してよ」


 俺が頷き飲んで空になったボトルを美影に手渡すと優しく微笑んでいた。美影とはこの後ハーフタイムが終わる少し前まで話をしていたが、志保や長山のように絢の事を聞いてくることはなかった。気が付いていないことはないはずだから、試合中で気を使ったのかもしれない。

 監督の指示も終わり、ハーフタイムが終わり再びコートに向かうと試合開始と同じように美影が「怪我だけは気をつけて」と俺に声を掛けてくれた。美影に振り向き、頷いて大丈夫だと合図を送ると、嬉しそうな顔を美影はして頷いた。


 第三Qも開始直後から順調に得点を重ねていき、半分が過ぎた頃に交代してベンチに下がった。得点差も開きこの後にもう一試合があるので次の試合を考えた交代だ。

 ベンチの皆んなが笑顔で迎えてくれて、その後は俺も声を出して応援をした。試合はそのまま俺達のチームのペースで進んで終わってみたら完勝だった。


「まずは、一回戦突破だな」

「あぁ、この後の試合も続こうぜ」


 同じようにベンチに下がっていた長山とハイタッチをして勝利を喜んで次の試合に向けて気持ちを向けた。試合に出場していたチームメイトが戻って来て片付けを始めた。

 次の試合まで二試合分の時間がある。荷物を置いている場所に移動しようとした時に長山がキョロキョロと周りを見回している。


「確か……あの辺に居たんだけど……」


 多分絢達の事だろう、まだ長山は気になっていたみたいで俺の方を見て何かを聞き出そうとしている。俺は大きく息を吐き仕方ないかと長山に話す事にした。


「はぁ〜、あの子は中学の時クラスメイトで仲の良かった子だよ」

「へぇ〜、そんなことだと思った……でも本当はどうなんだよ?」

「どうなんだって、どういう事だ?」


 長山の顔は俺の答えに全然納得していないが、これ以上答えようがないので困ってしまう。長山は俺の顔を見て少し呆れた表情をしている。


「まぁいいや、今度その子に会った時に聞いてみよう」


 長山がそう言って移動し始めたが、俺は大きくため息を吐き後で絢に目立たないように伝えようとして長山と一緒に移動した。

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