表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
へタレ野郎とバスケットボール  作者: 束子
高校生編 一年生
68/237

地区大会予選 ②

 次の試合は六試合目にあるので空き時間が二時間弱ある。絢を探す時間はあるけどいるかいないか分からない状況で探すのも時間の無駄なので諦める事にした。とりあえず昼食をとり、他の試合を観戦しようと体育館の中に残っていた。


「ねぇ、宮瀬くん」


 何も考えずにボッーと試合を眺めていたので、不意に名前を呼ばれて驚いた表情で振り返ると美影が一人で立っていた。


「おぉ、美影か……どうしたの一人で?」

「志保は何か用事があるみたいで、一人だったから、たまたま宮瀬くんの姿を見つけたから声を掛けたの」


 いつもの優しい笑顔で答えてくれる。その笑顔を見ると何故か変に意識してしまい今までと何か違う感じがしてしまう。


「あ、ありがとう、美影のひと言で吹っ切る事が出来たよ」

「そんなお礼を言われる事なんてしてないよ、でもいいの何か探していたのじゃないの?」

「いいんだよ、もう……」

「そう……それじゃあ、もう聞かない事にするよ」


 美影は心配そうな顔で俺を見てそう言うと、小さく笑って明るく振舞おうとする。


「次の試合はいっぱい活躍してね、私が宮瀬くんを見て憧れた時ぐらいの勢いで、約束だよ」

「お、おう、わ、分かった」


 思わず噛んでしまったが、昔の事を言われて驚いた。前に志保が言っていた時の事に違いない、美影の顔は少しだけ赤くなってるように見える。


「約束だよ……ま、また後でね」


 さすがに少し恥ずかしかったのか、慌てたように走って下に降りて行った。走って行く姿を見て、もし潔くよく諦めていれば、この前に恵里から言われた言葉通りに美影とは付き合えたのかもしれないと思った。

 とにかく美影と約束した以上は、次の試合では何も考えず一生懸命にプレーする事だけを考えようと決めた。


 最後の試合の時間になった。次の相手は、一回戦よりは強いチームだが、勝てない相手ではない。試合前の練習も調子良くシュートが決まっている。心の中では「イケる」と思い自信があった。

 実際に試合が始まると思っていた通りにシュートが連続して決まり幸先いいスタートだった。

 ドリブルもパスもリバウンドも一試合目とは全然違って面白いように決まる。


「やっと本領発揮だな、宮瀬」

「ありがとうございます、先輩」


 橘田先輩がシュートを決めた後に肩を叩きながら笑顔で話しかけてきた。


「続けてパス回していくぞ」

「ハイ、任して下さい」


 勢いよく返事をすると、本当に次々とパスが来る。それも絶妙なタイミングで来るので、シュートを決めやすくて得点を量産して気が付けばチームの半分以上を上げていた。

 ハーフタイムになり、得点差はかなり開いていたが橘田先輩にクギを刺される。


「宮瀬、この試合はフル出場だぞ、ファールアウトはするなよ」

「えっ〜、マジですか」

「当たり前だろ、一回戦は何もしてないのに」


 橘田先輩が笑いながらそう言うと皆んなが合わせたように頷くので、仕方ないと諦めた。


「疲れた? 凄いよ、あんなにシュートを決めて、さすがだね」


 俺が座っている前に志保が嬉しそうにやって来て、その横に美影も立っている。


「約束通りだね」


 美影も嬉しそうに話してくる。


「あぁ、ちゃんと守ってるよ」


 そう返事をすると、志保が気になった顔で割り込んできた。


「何の、二人で、何の約束?」

「何でもないよね〜」


 悪戯っぽく美影が言うのでつられて俺も軽く笑顔で頷くと、志保がムスッとした顔をしている。


「二人だけで……」


 直ぐに美影が志保に「ゴメンね」と謝ると機嫌が元に戻り一安心する。でも何で美影が言うと素直に元に戻るのだろう……二人にしか分からない何があるんだろうと思った。


「あと半分だよ、頑張ってね」


 志保と美影の声援を受けて、第三Qが始まった。後半も攻撃の中心としてパスが次々と回ってきて着実に得点を挙げていった。余計な事を考えたりする間さえなかったのであっという間に時間がなくなっていった。

 第四Qも後半になると疲れが溜まってきたので動きも遅くなってきて、シュートも外す事が増えてきた。

 試合は得点差からもうほぼ決まったような感じで、時間を使って攻めている。逆に相手は早く攻めて機会を増やそうとしてくるが、そこはしっかりとリバウンドをとり攻めさせないようにディフェンスも手を抜かずに得点を与えないようにする。

 試合終了のブザーが鳴り、俺は大きく息を吐いて膝に手をやる。


「つ、疲れた〜」


 思わず声が出るが気持ちはスッキリとしていた。試合終了の挨拶をしてベンチに戻ろうとした時に、もういないと諦めていた絢の姿が目に入ってきた。

 その姿を確認して頭の中が混乱して迷ったが、直ぐに答えが出た。


(追いかけよう……)


 チームメイトには適当な理由を言ってその場を離れた。たまたま美影と志保は片付けを始めていて直接話をすることは出来なかった。

 急いで体育館を出ると、他チームの選手や関係者、観客が校門に向かって移動を始めていた。幸いこの学校は出口になる校門は一箇所しかない。俺は先回りをしようと自校の生徒しか通れない校舎を走り抜け、昇降口まで一気に到着した。

 その前を通って校門までの通路が続く。


(まだ来てないみたいだな……)


 校門の前はまだ人影もまばらで絢らしき姿はないので、反対側を見ると絢がいた辺りの生徒や保護者の姿が見える。


(あの中にいるな)


 そう思いその集団の中を注視すると絢の姿を見つける事が出来た。

 運良くこの学校の生徒はいないみたいなので変にウワサみたいにもならないと集団の中に入っていく事した。


「やっと見つけたよ……」


 直ぐに絢の元まで辿り着き手を取ると、一瞬何が起きたか理解できずにキョトンした顔をした絢だったが、次第に驚きの表情になる。


「よ、よしくん、ど、どうして……」


 他校の生徒ばかりだが、皆んなが俺達二人を見るので恥ずかしくなり絢の手を引き慌てて昇降口の方に移動する。

 試合で疲れ切っていたが、不思議とその事を感じさせないぐらい気持ちが昂ぶっていた。


「ゴメン、なんか無理やりに……でも見に来てくれてたんだ……」


 始めは申し訳なさそうにしていたが、やはり絢の顔を間近で見ると嬉しくなる。


「ううん、こっちこそゴメンね……隠れるようにして」

「最初の試合から来ていたの?」

「うん、そうだよ……」

「そうか……じゃああの下手なのも見たんだ」

「そ、そんな事ないよ、さっきの試合は凄く良かったよ」


 首を横に振り否定する絢、こんな風に会話が出来る日が来るとは思いもしなかった。


「ほぼ一年ぶりかな……あの日以来、こうやって話をするのは……」

「そ、そうね……」


 絢の表情が曇る、会話をしながら俺は少し違和感があったが、久しぶりなので緊張しているからと思っていた。


「絢、あの日の返事が聞きたいんだ……」


 絢は曇ったままの表情で黙っている。黙ったままで俺には凄く長く感じたが、時間にしたら一分もなかった。


「今は答えられない……あの時のよしくんとは違う……」


 突然、涙を流して絢が答え始めた。


「でも、私が悪いの……全部……ちゃんとしなかった私が……」

「いいや、俺が悪いだよ、俺が……」


 そう言って絢の言う事を否定するが、上手く言葉が出ないし絢は全く聞き入れていないみたいだ。


「ゴメンね、よしくん……長い事……もう来ない……」


 下を向き絢は涙ながらに話していたが、急に校門の方へと走り出した。俺は引き留めたかったが、絢の涙を見て足が動かなかった。後になって凄く後悔したが……やはり俺が悪いだと……

 それから体育館に戻ったが、片付けは進んでいた。何事もなかったように片付けを手伝ったが、美影には分かったようで心配な顔をされてしまう。

 しかし気を遣ってくれたのか、「大丈夫?」と聞いただけでそれ以上は聞いてこなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ