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へタレ野郎とバスケットボール  作者: 束子
高校生編 一年生
62/237

新人戦

 部活に無事復帰出来た。来週末には新人戦の地区予選があり、勝てば県大会に出場になる大事な試合だ。


「宮瀬、お前は県大会出場の為の切り札だ、頼んだぞ」


 復帰した翌日の練習前に橘田先輩から言われてモチベーションは上がったけど少しプレッシャーも感じていた。まずはその大事な試合に向けて調子を上げていかなければならない。

 復帰直後は、志保のお陰で体力的な問題は全くなく練習にはついていける。怪我の前より体力には余裕があるくらいだ。

 しかし実践的な練習になると、やはり三ヶ月近く離れていたので、なかなか上手く出来なくて単純なミスを連発してしまう。カンを取り戻すのにもう少し時間がかかりそうだ。


「宮瀬、体幹が強くなったな、全然当たり負けしないじゃん」


 そう言ってきたのは長山だった。長山とは背丈が近いので、マッチアップすることが多い。


「そうかな……全然、長山からボールを取れてないぞ」

「いや、それはまだ感覚が戻ってないからだ、これからは油断で出来ないな……」


 俺の肩をポンと叩きながら長山が嬉しそうにしている。確かに当たりの強い長山と対戦しても全然体勢が崩れることがなかった、これも志保との練習の成果なのだろう。

 三対三の練習中にリバウンドで激しくぶつかり倒れそうになった時には、志保が心配そうに俺の所に駆け寄り手術をした所の様子を伺う。


「痛くない、大丈夫?」

「あぁ、問題ない、あれだけ筋トレしたんだ、全然大丈夫だ」


 志保の頭を軽くポンと叩き笑顔で答えると志保は頷き安心した表情で元の場所に戻って行った。不安がないことはないが、今のところは全く問題ないくらい練習に集中出来ている。

 一週間後には、先輩達ともマッチアップしてもほぼ負けることがないくらいまでになって、やっと現時点でのベストな状態になってきた。練習後に明日の試合についてミーティングをしていた。


「そう言えば、俺の出場選手登録していたんですね 」


 不意に俺は思い出したかのように橘田先輩に尋ねると当たり前だという顔をしている。


「勝ち残って、宮瀬を試合に出させる為にな……」

「ありがとうございます、期待に応えられるように頑張ります」


 若干わざとらしい感じになりみんなの笑いを誘っていたが、先輩から頼られているのが分かり嬉しくて、本当に復帰出来て良かった。俺の横に当たり前のように志保が座っていて同じく嬉しそうな顔をしていた。


 試合当日、対戦相手は県大会には常に出場している学校だが、決して勝てない相手ではない。


「とりあえずはベンチスタートだけど、お前は切り札だから気持ちを切らさず集中しとけよ」


 試合開始前に橘田先輩から言われて、久しぶりの試合なのでとても緊張していたが、楽しみでもあった。

 試合開始から相手に攻められ連続してシュートを決められるが、すぐに取り返し点差は開いていないが負けている。ハーフタイムまではそのままの流れで接戦だった。

 第三Qの開始直後に俺と同じポジションの先輩がリバウンドの時に足を負傷してしまう。どうやら駄目だと合図をしている。橘田先輩がベンチに来て監督と話して俺を呼んだ。


「少しタイミングが早いが行くぞ!」


 そう言われて、選手交代を要求しコートに入る。この試合は俺が最後の背番号の数字だ。相手チームは背番号の数字を見て、少し油断しているように見えた。


「宮瀬、頼んだぞ」


 怪我をした先輩がベンチに戻る時に笑顔で俺に話しかけてくれた。


「はい、任せて下さい!」


 返事をして試合は俺達のボールから再開した。相手側のコートに攻めて、俺は内側でボールを貰おうと相手選手と競り合っているが、全然負ける気がしない。逆に相手選手が何だコイツって顔をしている。

 ボールが俺の所に入り、力任せに相手選手がブロックに来るが、ヒラリとかわしてシュートを決める。するとベンチは大騒ぎで、志保も立ち上がって喜んでいる。さすがに恥ずかしかったので、すぐに集中してディフェンスに戻る。

 今度は、さっきマッチアップした相手がボールを持ち、力技でシュートに持ち込もうとするが、俺は当たり負けすることはない。きっちりと抑え込み、強引に相手選手もシュートを打つが外れてリバウンドを取りにくる。

 そのリバウンドも強引にくるが、俺は負けることなくボールをキャッチして、ガードの先輩にパスを出す。

 そのまま、もう一人のフォワードの先輩が走り速攻が決まり、連続で得点になる。更にベンチが大盛り上がりになる。この流れのまま第三Qが終了してインターバルになる。

 点差は無くなり同点になった。センターの先輩と交代して長山が出てきた。橘田先輩の予定では逆だったようで、俺を後から出場させたかったみたいだ。

 これで現状このチームでベストメンバーになった。第四Qが始まり試合の流れは完全に俺達のチームに傾いた。

 内側は長山が加わったことで更に強固になり俺の負担も軽減された。外側からは橘田先輩が攻撃を仕掛ける。俺も負担が減った分、先輩のフォローが出来る。

 あっという間に逆転して連続で得点を決め一気に突き放しにかかった。俺は手術前のように腰に不安を抱えていた時と違い思いっきりプレーに集中出来た。試合終了のブザーが鳴る。


「えっ、終わったの」


 思わず口にすると、隣にいた橘田先輩が笑っている。途中から出場したが、体力もまだ全然残っているし、それ以上に集中して出来たのだろう。

 一通り挨拶をしてベンチに戻るともうお祭り騒ぎのようだった。


「やったな、宮瀬!」


 先輩達が代わる代わる俺の所に来て抱きついたり、握手したりして、同級生も同じようにやってきた。長山とはガッチリ握手して喜びを分かち合った。志保もやって来たが大泣きだ。


「う、うわぁん……や、やったね、由規……」

「何でそんなに泣いてるんだよ、勝ったんだぞ」


 嬉し泣きなのは分かっているけど、三ヶ月以上も一緒に練習をしてきたので気持ちが強かったのだろう。だからこんな泣き方になったのかもしれない。

 志保の頭を優しく撫でるとギュッと俺に抱きついてユニフォームに顔を擦りつけて涙を拭く。


「ごめんね……いっぱい泣いて……」

「ありがとう、でもこれからが始まりだから……」

「うん、そうね……もう大丈夫よ、これからも頑張っていこうね」

「おう、当たり前だ」


 やっと泣き止み笑みがこぼれるようになる。志保のことを頼もうと美影の姿を探す。美影を見つけると志保まではいかないが泣いていたようで目が真っ赤になっていた。

 俺の視線に気が付き志保の所に駆け寄り付き添った。後は美影に任せておこうと、俺は荷物を持ち控えの場所に移動した。

 移動しながら、ここまで色々あったけれど、またこの場所に戻る事が出来て嬉しかったし何よりも楽しかった、そして志保や美影、バスケ部のメンバーに感謝しないといけない、その時に何故か中学の時のバスケ部とその仲間を思い出した。

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